ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

蠢く青黒霧



 エルザの守護方陣から飛び出したと同時に、弱まっていた降り注ぐ矢は完全に止んでいた。


 「やはり魔法防御で防いだか。君の妹君は規格外の魔法使いとみた。実に素晴らしいよ」


 ブランは感慨深そうに相対する二人を見つめる。鋭い目線を送る二人は気迫に満ちていた。


 「私の妹を変態な目で見ないでもらえるかしら?  それとスミレの言葉を聞く気はないのかしら?」


 「スミレの言葉だと?  ふん、私は私だけの真実の愛を求めるのさ。そこに他者の介入などさせん。自らの手で掴まなければ意味が無いだろ?」


 ブランはイルザの言葉を一蹴した。


 ダメ元で問いかけてみたが予想通り、無駄だと悟った。彼は彼の信念を抱いて行動している。スミレの言う通り他者が曲げることは不可能だろう。


 「無駄だぜイルザ。バカは死ななきゃ治んねぇんだよ。だが殺しはしねぇぜ、一発ぶん殴ってそのバカを矯正してやる!」


 グレンは"妖精の輝剣アロンダイト"を長剣に変形させ、構える。その剣には刃がなかった。


 イルザの剣も刃が無い。それは相手を殺さないというイルザの思いに"妖精の輝剣アロンダイト"が呼応したのだ。


 「私をバカ呼ばわりとは・・・。それになんだ、その剣は。私を侮っているのかね?」


 刃のない剣を見たブランは、殺意を感じさせない相手に侮られていると感じた。それともこれは何かの策か罠なのか、念には念を警戒する。


 「これは私達の覚悟の証よ。絶対に折れない覚悟の剣、受けてみなさい!」


 イルザとグレンは同時に、ブランに向かって一直線に走り出す。


 「実にくだらない」


 "極光の月弓アルテミス"を黄金に輝かせ、魔力で作りだした矢を複数射る。その軌道は二人を狙いながら上下左右不規則に激しく移動し、撹乱する。


 (っ!  軌道が読めない!)


 射出した矢の軌道を自由に操ることが出来る"自在具現化"は、ホルグが放ったモノとはスピードや不規則性など精度が段違いだった。


 激しく動作する矢は継ぎ早にイルザとグレンへと伸びる。


 (走って振り切れるか?  それとも剣で弾くか?)


 精度が上がっている矢は確実に追跡するように心臓を狙う。走り抜けるにはどちらにしろ、矢を無効化しなければならなかった。


 イルザは走るのをやめてその場に立ちどまり、矢の迎撃のため剣を構えて全神経を集中させる。


 (右!)


 右脇から飛んでくる矢を見切り、打ち落とす。


 真上、左下、後方、斜め上、様々な方向から不規則に飛んでくる矢を正確に次々と打ち落とし、再び走り出す。


 少し遅れて、グレンも同様に矢を撃ち落として走り出した。


 先に走り出したイルザは一気に間合いを詰めて、ブランの懐に潜り込む。


 「もらった!」


 低姿勢から剣を振りあげようとした時。


 「弓兵がそう簡単に接近戦をさせると思うのかね?」


 そう言うと同時にブランの周囲から吹き上げるように、青黒い火柱が壁のように立ち上った。


 予め、足元に触れることで発動する罠を"極光の月弓アルテミス"で仕掛けていた。


 紙一重のところで攻撃をやめて回避に成功したイルザ。しかし、青黒い火柱は何度斬りつけても破壊することは出来なかった。


 「くそ!  引き篭るなんてズリぃぞ!」


 グレンは中にいるであろうブランに向けて叫ぶ。だが、火柱の中からは気配がすっかり消えている。


 (気配がない・・・?  ここにあるのは火柱だけ?)


 いち早く気がついたイルザは周囲を見渡す。するとブランは火柱よりも遥か前方にたっていた。


 「"月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン"。いでよ極光の月!」


 純白の部屋は薄闇に飲まれ、黄金の擬似的に生み出された月が現れる。


 "極光の月弓アルテミス"に何倍もの力を注ぎ込む"月女神の輝護ルーブラ・ユエリアン"。こちらが先手を打ったつもりが逆に取られてしまった。


 「君達は魂の存在を信じるかね?  生物に限らず物にも宿る、そして私はその魂を抜き出し、放つことが出来る」


 ブランは右手に魔力を込めて小型の魔法陣を展開する。その魔法陣の上には蝋燭に灯る炎のようなものが揺らめく。


 「魂を放つですって!?」


 魂を操る、そんな魔法は聞いたことも無い。 


 「この研究所にいる魔獣全てを魂化したのさ。この掌に在るのは圧縮した全ての魂。それでは御照覧あれ、"五拾狼齩フィフスタイオス"」


 圧縮されている魂を矢として射抜いた。


 しかし矢は途中で消え、空気だけが震動する。


 「おい、イルザ。なんかやべぇぞ!」


 震動する空気が次第に大きくなる。やがて、イルザとグレンの周囲には青黒い霧が立ち上る。


 「グレン、囲まれたわ。気を抜かないで!」


 霧の中から呻き声が響く。


 「さぁ、その剣でどこまで耐えきれるか見せておくれ!」







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