ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

 月光差す森の魔界樹。その幹に背を預けるグレンは姉妹の前に現れた青髪の少女、スミレについて考えていた。


 (何だったんだ・・・。あの違和感は)


 彼女に対して胸が張り裂けそうな違和感を覚えていた。


 奴隷商人の話や森にいた理由を疑っているわけではない。彼女の存在自体が違和感そのものであるようだった。


 スミレを背負って帰ってきたエルザを見た瞬間、言葉を失い激しい頭痛に苛まれた。幸いにも頭痛が起きたことは、イルザ達には知られていない。


 (声も・・・聞こえた)


 頭痛と同時に、嵐の様に様々な声が頭の中を駆け巡った。


 「ゴミ掃除だ」


 「殺せ」


 「何故だ、何故」


 「まだ手を取り合える」


 「分かり合えない」


 「反逆者」


 聞いたこともない声。


 知らない声。


 憎しみに満ちた声。


 哀れむ声。


 この嵐の様な声たちは、自分の記憶喪失と関係あるのか?


 もし、そうだとしたら・・・。


 自分は危険な存在なのではないだろうか?


 既にイルザ達を戦いの渦へ巻きこんでしまっている。


 今の被害は家が焼けた程度で済んでいるが、きっとこの先ずっと誰かに狙われ続けることになるだろう。


 先の見えない戦い。


 終わりの見えない戦い。


 物語であるならば大元の敵である悪役を倒してハッピーエンド、平和に暮らしましたとさ。で終わらせることが出来るだろう。


 しかし、そんな敵はいない。ましてや目的もない。


 真っ暗闇の中、無意味に飛んでくるナイフをただただ振り払うようなそんな道。


 だが、彼女は“妖精の輝剣アロンダイト”を手放そうとはしなかった。絶望も悲しむこともなく、それどころか居場所をも与えてくれた。


 記憶を取り戻し、イルザ達に害を与える者が現れる、あるいはそれが自分だった場合。


 どんな手段を使ってでも守り通そう。


 それが、主に対してできる精一杯の恩返し。


 グレンは立ち上がり、月明かりが遮断され闇に染まった森から小屋へ戻るのだった。





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