ダークエルフ姉妹と召喚人間
月夜に思う
紅色の月明かりが窓に差し込む夜。
部屋にはイルザとスミレが同じベッドで寝ている、
「起きてる・・・ですか?」
イルザに背を向けて起きているかどうか尋ねる。差し込む月明かりのせいか、少しだけ感傷的になっている。
「ええ、起きているわよ。寂しくなったのかしら?」
ふふっと微笑み、後ろからそっと抱きしめる、
温もり。
誰かの体温を感じるのなんて初めてのことだった。スミレの記憶の中では。
「いえ、その・・・」
言葉に詰まる。何故こんなに胸が痛いのかわからない。
いや、わかっている。
彼女達に嘘をつき裏切っている。その罪悪感。
頭では命令だからと理解しているが、心が理解してくれない。
きっと、主によってかけられた魔術“隷属の鍵”の効果が薄くなっているのだろう。
普段は見えていないが、スミレの首には鍵穴がある。かつて、ホルグの死に際に浮き上がった鍵の模様と全く同じもの。
この魔術をかけられたものは、命令に従順な木偶人形となる。
ホルグが“妖精の輝剣”を狙ったのも“極光の月弓”を受け渡した際、主の“隷属の鍵”が込められた魔宝石をホルグに使用したからである。
ホルグにかけられた命令は、“妖精の輝剣”の奪取。それに失敗し、死が確定した瞬間、証拠を消すために肉体を跡形もなく消し去った。
そしてスミレにかけられた命令は一つ。
“妖精の輝剣”の持ち主であるイルザを主の元へ連れていくことである。
主はイルザを殺す気でいる。最初はイルザ達がどうなろうが関係ないと思っていた。
だけど。
イルザたちの温もりを知ってしまった。
胸の奥が激しく痛む。
「大丈夫、大丈夫」
イルザは小鹿のように震えるスミレを落ち着かせるように、優しく声をかけながらギュッと抱きしめる。
何に怯えているかはわからない。奴隷商人の元へ行くのが怖いのかもしれないし、あるいはただ単に夜が怖いのかもしれない。
母が亡くなった後のエルザも、今のスミレの様に一人で震えていた。
そのたびに私はただ抱きしめて、頭を撫でる。そうすると落ち着きを取り戻して静かに眠りについていた。
だから、私に出来ることはエルザのときと同じように、スミレを抱きしめて撫でてあげること。
気がつけば、スミレの震えは収まり寝息を立てていた。
「ふふ。おやすみなさい」
毛布を掛けてあげ、イルザも眠りにつく。
紅く輝く月は雲に隠れ、森全体を闇で覆い、生物の休息を促すように静まり返る。
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