ショートショート集
都市伝説の赤井さん
僕の町の小学校には、今流行りの「都市伝説」がある。
どしゃ降りの雨の日には、絶対に子どもひとりだけで、出かけてはいけない。
『赤井さん』に出会ってしまうから。
赤井さんは、小さな女の子の姿をしている。
赤井さんは、真っ赤なレインコートを着ていて、真っ赤なフードで顔をスッポリと隠してる。
赤井さんは、真っ赤な傘をクルクル回して、鼻歌を歌いながら、真っ赤な長靴でスキップしてやって来る。
赤井さんに出会ってしまったら、赤井さんの真っ赤なお目々を見てしまったら、真っ赤で真っ暗な世界に連れ去られてしまう。
そうして、そのまんま……もう決して戻っては来られない。
以上が、『赤井さん』の都市伝説の内容だ。
これを友人から聞かされたとき、僕は「嘘だ」と笑った。
だって、おかしいじゃないか。赤井さんに出会っちゃった人たちが、みんな連れ去られたまんまなら、誰が赤井さんの話を語れるのか?
だいたい、真っ赤で真っ暗な世界って、いったいなんだよ?
ほらね。みんな、くだらない嘘に騙されてるだけだ。
僕は、集団で帰ろうとしている臆病なクラスメイトたちの方を、見下すように一瞥すると、そのまま、どしゃ降りの雨の中へと駆け出した。
明日も元気に登校して、みんなに「都市伝説なんて嘘だ」ってことを証明してやる。
僕は地面全部が水溜まり状態の路を、バシャバシャと水しぶきをあげながら走った。
……それにしても、すごい雨だな。空も薄暗いし、大粒の雨で景色が煙って、前が全然見えないや。
なんか、走り疲れてきた。少し休もうかな……。
うん、そうしよう。
僕は立ち止まって、息を吐く。
吐いた息が、うっすらと白い。
どうやら、気温が下がってきているらしかった。
体全体がびしょ濡れなうえに、走ったせいで汗をかいてしまった。
なんだか風も強くなってきたし、とても寒い……。
僕は両腕で、自分の体を抱きしめるようにしてさすった。これで少しは、暖かくなるかな?
そのとき、遠くの方からなにかが聞こえた気がした。なんだろう?
雨音でよく聞き取れない。
確かめるために、もっとよく耳を澄ましてみる。
……~……~……~……♪
ン~……♪ ン~……♪ ン~……♪
途切れ途切れに聞こえてくる音……いや、小さな女の子のような、かん高い……声?
それは、なんだか歌のリズムのようで、僕の後ろから聞こえてくるみたいだった。
……まさか!
僕はゾッとして、思わず振り返る。薄暗いどしゃ降りの雨の向こうから、小さな子どもらしき人影が、こっちに近づいてくる!
それは、鼻歌を歌いながら、パシャッ、パシャッとスキップで、地面の水溜まりから水しぶきを撒き散らしていた。
レインコートを着ているらしいのに、傘までさしている。
……全身が赤い……?
「う、嘘だろ!?」
正直、傘をクルクルと回しているかどうかなんてわからない。それでも僕は一目散に駆け出した。
それなのに……僕は、すぐさま横断歩道の赤信号に引っかかってしまった。
後ろからは、あれの鼻歌が迫ってくる!
なかなか、青に変わらない。どうしよう……? 幸い車は来ていないみたいだった。
ええい! 僕は決心すると、赤信号の横断歩道へと飛び出した。
クスクスクス……ウフフフフ……!
え? 今、赤信号が瞬きして、笑った……?
思わず身が竦んだ、その瞬間、僕の体は真っ赤なワゴン車に跳ね飛ばされていた。
アッハハハハハハッ…………!
どこからともなく聞こえてくる、少女の高笑いが、どしゃ降りの空に響き渡る。
グニャリと歪んだ視界の中で、全身を真っ赤なコーデで染め上げた少女が、全身血まみれの僕の体を見下ろしていた。
ニヤリと笑ったその口は、まるで昔の都市伝説に出てくる『口裂け女』みたいだった……。
……暗い。ここはずっと真っ暗だ。ここは、赤井さんの体の中……。
赤井さんの切り裂かれたような横一文字の口から、僅かに射し込んで来る日の光以外は、なにもない。
いや……もうひとつあるか。
それは、封筒やハガキの山だ。
僕が赤井さんの体内に飲み込まれてから、何週間が過ぎただろう……?
いつものようにボンヤリと膝を交えていたら、赤井さんが、体内の僕に話しかけてきた。
「クスクス……私ね、今日、あなたの家の真っ赤な郵便受けに、手紙を出してきたの。どんな内容だったか知りたい?」
別に……と、素っ気なく答える僕に、赤井さんは笑った。
「フフフ……本当は、知りたいくせに。拗ねてるの? クスクス……ほら、こんな内容よ」
『あなたの息子は、今、私の中にいる。
もしも、取り返したいと願うなら、あなたたちの気持ちを込めた手紙を持って、私の元へとお出でなさいな。
今はもう、誰からも忘れ去られてしまった、あなたの町の赤井より』
そう、赤井さんとは、僕の町の片隅にある、古びた円柱形の、真っ赤な郵便ポストだったのだ。
どしゃ降りの雨の日には、絶対に子どもひとりだけで、出かけてはいけない。
『赤井さん』に出会ってしまうから。
赤井さんは、小さな女の子の姿をしている。
赤井さんは、真っ赤なレインコートを着ていて、真っ赤なフードで顔をスッポリと隠してる。
赤井さんは、真っ赤な傘をクルクル回して、鼻歌を歌いながら、真っ赤な長靴でスキップしてやって来る。
赤井さんに出会ってしまったら、赤井さんの真っ赤なお目々を見てしまったら、真っ赤で真っ暗な世界に連れ去られてしまう。
そうして、そのまんま……もう決して戻っては来られない。
以上が、『赤井さん』の都市伝説の内容だ。
これを友人から聞かされたとき、僕は「嘘だ」と笑った。
だって、おかしいじゃないか。赤井さんに出会っちゃった人たちが、みんな連れ去られたまんまなら、誰が赤井さんの話を語れるのか?
だいたい、真っ赤で真っ暗な世界って、いったいなんだよ?
ほらね。みんな、くだらない嘘に騙されてるだけだ。
僕は、集団で帰ろうとしている臆病なクラスメイトたちの方を、見下すように一瞥すると、そのまま、どしゃ降りの雨の中へと駆け出した。
明日も元気に登校して、みんなに「都市伝説なんて嘘だ」ってことを証明してやる。
僕は地面全部が水溜まり状態の路を、バシャバシャと水しぶきをあげながら走った。
……それにしても、すごい雨だな。空も薄暗いし、大粒の雨で景色が煙って、前が全然見えないや。
なんか、走り疲れてきた。少し休もうかな……。
うん、そうしよう。
僕は立ち止まって、息を吐く。
吐いた息が、うっすらと白い。
どうやら、気温が下がってきているらしかった。
体全体がびしょ濡れなうえに、走ったせいで汗をかいてしまった。
なんだか風も強くなってきたし、とても寒い……。
僕は両腕で、自分の体を抱きしめるようにしてさすった。これで少しは、暖かくなるかな?
そのとき、遠くの方からなにかが聞こえた気がした。なんだろう?
雨音でよく聞き取れない。
確かめるために、もっとよく耳を澄ましてみる。
……~……~……~……♪
ン~……♪ ン~……♪ ン~……♪
途切れ途切れに聞こえてくる音……いや、小さな女の子のような、かん高い……声?
それは、なんだか歌のリズムのようで、僕の後ろから聞こえてくるみたいだった。
……まさか!
僕はゾッとして、思わず振り返る。薄暗いどしゃ降りの雨の向こうから、小さな子どもらしき人影が、こっちに近づいてくる!
それは、鼻歌を歌いながら、パシャッ、パシャッとスキップで、地面の水溜まりから水しぶきを撒き散らしていた。
レインコートを着ているらしいのに、傘までさしている。
……全身が赤い……?
「う、嘘だろ!?」
正直、傘をクルクルと回しているかどうかなんてわからない。それでも僕は一目散に駆け出した。
それなのに……僕は、すぐさま横断歩道の赤信号に引っかかってしまった。
後ろからは、あれの鼻歌が迫ってくる!
なかなか、青に変わらない。どうしよう……? 幸い車は来ていないみたいだった。
ええい! 僕は決心すると、赤信号の横断歩道へと飛び出した。
クスクスクス……ウフフフフ……!
え? 今、赤信号が瞬きして、笑った……?
思わず身が竦んだ、その瞬間、僕の体は真っ赤なワゴン車に跳ね飛ばされていた。
アッハハハハハハッ…………!
どこからともなく聞こえてくる、少女の高笑いが、どしゃ降りの空に響き渡る。
グニャリと歪んだ視界の中で、全身を真っ赤なコーデで染め上げた少女が、全身血まみれの僕の体を見下ろしていた。
ニヤリと笑ったその口は、まるで昔の都市伝説に出てくる『口裂け女』みたいだった……。
……暗い。ここはずっと真っ暗だ。ここは、赤井さんの体の中……。
赤井さんの切り裂かれたような横一文字の口から、僅かに射し込んで来る日の光以外は、なにもない。
いや……もうひとつあるか。
それは、封筒やハガキの山だ。
僕が赤井さんの体内に飲み込まれてから、何週間が過ぎただろう……?
いつものようにボンヤリと膝を交えていたら、赤井さんが、体内の僕に話しかけてきた。
「クスクス……私ね、今日、あなたの家の真っ赤な郵便受けに、手紙を出してきたの。どんな内容だったか知りたい?」
別に……と、素っ気なく答える僕に、赤井さんは笑った。
「フフフ……本当は、知りたいくせに。拗ねてるの? クスクス……ほら、こんな内容よ」
『あなたの息子は、今、私の中にいる。
もしも、取り返したいと願うなら、あなたたちの気持ちを込めた手紙を持って、私の元へとお出でなさいな。
今はもう、誰からも忘れ去られてしまった、あなたの町の赤井より』
そう、赤井さんとは、僕の町の片隅にある、古びた円柱形の、真っ赤な郵便ポストだったのだ。
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