幻想自衛隊 ~我々は何を守るべきか~

メガネ2033

第23話 木原一尉

2023年8月30日am10:30 〝いずも〟CIC


派遣艦隊旗艦を務める護衛艦”いずも”の艦内、取り分け作戦指揮の中枢となるCICの空気は緊張に包まれていた。陸自が護衛を付けているとはいえ統合任務部隊指揮官が直々に荒事が想定される地域へ赴いているとなれば実質的に艦隊の指揮を執るのは旗艦である彼らということになる。


普段の演習とは違い人の命が懸かった任務に隊員達が緊張するのは当たり前のことだった。


「艦長!艦隊司令官よりプランBの発動命令を受信しました」


通信士が血相を変えて報告してくる


「何!?間違いないか?」


「間違いありません。2回繰り返されました」


報告を受けた秋津艦長はこれから発生する事態を予測し顔をしかめる。プランBとは事前に定められたトラブル発生時の対処コードで、この場合はヘリによる特殊部隊の派遣要請となっていた。


「部隊の派遣地域はどこか?」


「…人里です」


通信士の報告による秋津は最悪の事態を覚悟した。交渉決裂か、はたまた待ち伏せ攻撃を受けたのか…状況は不明だがいずれにせよ我の全力を投入する準備が必要なのは明らかだった


「わかった、待機中の対潜ヘリに発艦命令。陸上自衛隊並びに警視庁に特殊部隊の出動を要請せよ」


「了解しました」


『航空機即時待機、準備できしだい発艦』


秋津の命令は艦内放送によって速やかに各部に伝達されていく。


「全艦隊へ命令!総員戦闘配置、対水上戦闘用意」


『総員戦闘配置、対水上戦闘用意!これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!』


戦闘配置の命令と同時に艦内にけたたましいアラーム音が鳴り響き隊員達が一斉に持ち場に駆け出した。

今やCICにあった緊張感は艦隊すべてに広がっていた。


















2023年8月30日am10:30 ”いずも”航空機搭乗員待機室 (木原一尉視点)


「あ~すごく飛びたい」


トイレから戻ってくるなり加藤一尉の飛びたいコールが耳に飛び込んでくる


「お疲れさまです加藤一尉、戦闘機のパイロットは大変ですね」


「お前らヘリパイはこんなときも飛べるから良いよな」


この世界に飛ばされてから戦闘機は燃料の節約のために一度も飛行していない

俺もパイロットだからわかるが最初から国防のために空自に入った奴は少ないと思う

色々あるがパイロットは皆、空が好きでこの仕事をしている節がある


「人員の輸送はシーホークの本来の仕事ではありませんよ」


「対潜哨戒機だったっけ、まあ飛べるなら何でも良いじゃないか」


やっぱりこの人も空バカだ


「そりゃあそうかもしれませんけど…」


その時スピーカーにノイズが走り副長の声が待機室に響いた


『航空機即時待機、準備できしだい発艦』


「行ってきますよ、加藤一尉」


「早く済ませて戻ってこい」


「了解です」


挨拶を済ませた後、俺は飛行甲板に続く階段をかけ上がった


甲板に着くと既に整備員達が慌ただしく発艦作業を行っていた


ヘリのドアを開けて乗り込もうとしたとき今し方自分が昇ってきた階段からぞろぞろと覆面をかぶった隊員達が現れた


「木原一尉、あれが今回のお客さんですか」


「ただのお客じゃないぞ、丁重にもてなせよ」


「了解です」


完全武装の特殊作戦群の隊員をヘリに招き入れるのは初めてだったが覆面で顔を覆っているため表情をうかがうことはできない。同じ自衛官とはいえ顔も知れない人間を輸送するのは少し抵抗がある。

すると、部隊長らしき男が俺に話しかけてきた


「私は特殊作戦群の部隊長を務めているものです。名前と階級は防衛機密に触れるので控えさせていただきます。我々の輸送をよろしくお願いします」


「宜しくお願いします部隊長殿。さあ、席についたらシートベルトを着用してください」


「わかりました」


顔が見えないため彼らには少しマイナスイメージを持っていたが、発艦前の挨拶を行うほど生真面目な男が指揮しているらしい。話してみると意外といい奴なのかもしれない。部隊長との会話を済ませ、発艦の準備を一通り終えてから俺はマイクを取った


『本日はJMSDF航空シーホーク04便をご利用いただきありがとうございます。本機の機長は私、木原光一一等海尉が務めさせていただきます』


キャビンからどっと笑い声があふれた。俺のジョークで笑ってくれるとは…俺は彼らへの評価を数段階引き上げることにした。


『本機は護衛艦"いずも〟発、人里行きの便となっております。なお、人里付近に着陸に適した広い敷地が存在しないため今回はラぺリング降下での降機という形をとらせて頂きます』


「なれてま~す」


後ろからの声に今度はこっちが吹き出しそうになった

和やかな雰囲気だが現地の状況次第では彼らを死地に送ることになるかもしれない

だから冗談を交えながら飛ぶことで少しでも緊張を解いてやれればいいと思っている


『では皆さん。楽しい空の旅をご堪能ください』


ふと前を向くと誘導員がしきりに手旗をふって『発艦せよ』と合図していた


「シーホーク04発艦準備よし。テイクオフ」


機体が艦を離れるのが分かった


『目標地点まで5分とかからないので降下の準備をお願いします』


後ろからガチャガチャと音が鳴り始めたので装備の確認などを始めたのだろう。

そんなことを考えているうちに人里の上空に到達した


『キャビンよりコックピット。連中ヘリを見て唖然としてますよ』


無線で大体の状況は送られてきていたから、当初想定されたような最悪の事態ではなさそうだということは分かっていた。しかし、異世界で暴徒鎮圧とは…先の紅魔館での戦闘といい武器使用の機会がこうも多いと普段滅多に撃たない俺達も不安になってくる


「おい、高度下げるぞ」


「了解です」


コパイの返事を確認してからマイクを取った


『目標地点に到達しました。降下の用意をお願いします』


特殊作戦群はこのような降下に馴れているから恐らく全員が降下するまで5分もかからないだろう

そんなことを考えながら機体をゆっくり降下させたとき機体に何かが当たった


『キャビンよりコックピット。目標が発砲しました!機体右側面に被弾』


「システムチェック」


「…オールグリーン。一旦退きましょう、危険です」


副機長の報告を受けてすぐに俺はマイクを取った


『コックピットよりキャビン。ガンナー退避、揺れますよ何かに掴まってください』


そういって俺は操縦桿を右側に倒した


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