幻想自衛隊 ~我々は何を守るべきか~

メガネ2033

第22話 暴徒鎮圧

2023年8月30日am10:30 人里(木島三尉視点)


暴徒の指揮官は冷静な男だった

仲間が混乱状態になっても冷静に状況を分析しこちらの弱点を探ることができるらしい

木製盾の陰から顔を出した指揮官はこちらを見てニヤリと笑った


警告射撃により、圧倒的な戦力差があるということを理解した上で笑ったことに違和感を覚える

同時に暴徒指揮官への警戒を数段階上げることにした


「なぁ外来人のおっさん。いや、自衛隊さんよ。あんたが強いのは良く分かった。連発できる鉄砲なんて代物を十分な数持っているし、戦力差は圧倒的だ」


指揮官は小銃を向けられても動じることなく演説を続ける


「そこで気になったんだが、これほどまでに圧倒的な戦力差がある中で…どうしてお前らは俺達を撃たないんだ?」


彼は仲間たちに聞こえるようにわざと大きな声で話しているらしい。混乱状態にあった暴徒達が落ち着きを取り戻し始めている。


「俺の任務は暴動の鎮圧だ。余計な血を流させることじゃない」


「どうだろうな?もう一つ分からないことがある。あれだけ強力な銃があるんだったら警告なしで撃ってくればよかったはずだろ」


まさかコイツ、あの短時間で自衛隊の構造的欠陥を見破ったのか?

だとしたら脅威だ。すぐにでも排除したい


しかし、彼を排除する法的根拠が見つからない。部隊指揮官が判断できるレベルを超えている状況で勝手に撃てばそれこそ懲戒免職ものだ


「反応なしか…よし、わかった。じゃあ試してみるか」


指揮官は盾から離れ家屋の陰に隠れていた民間人の腕をつかんで表に引きずり出した。年若い女性のようだが怯えているせいか抵抗は弱弱しい。


「何をしている!?やめろ!」


恐れていたことがおきた。野郎人質を取りやがった

こうなってしまっては俺はどうすることもできない

銃は使えないからといって白兵戦に持ち込めば間違いなく人質は殺される


「里長、そこにいるんだろう?要求を飲まなければこいつを殺すぞ!」


暴徒の指揮官が人質の女性に刃物を突き付けながら声高に叫ぶ。最早、暴徒の域を超えた犯罪行為だが自らの行いを正義と信じてやまない連中…とりわけ集団に対しては道理を説いたところで意味はない。


「木島三尉、何で撃たないんですか。これは明らかに急迫不正の侵害です。発砲許可を下さい!」


命令を出さない俺に痺れをきたしたのか山本一曹がこちらに詰め寄ってくる。一見、適当にみえる意見具申だがこの場合は法的な問題をクリアできていない


「ダメだ。治安出動における武器使用要件には【武器を使用する他にこれを排除する適当な手段がない場合】という条文が入っている。現状ではその要件を満たしていない」


あまり法令に詳しくない俺に代わって高橋三佐が説名してくれた。法的に厳しいというのは何となくわかっていたが、成る程こう言った理由なのか


「しかし、一般人が人質にされてるんですよ。我々はそれをただ眺めてろというのですかっ!」


山本はまだ納得がいかないようでなおも抗議の声を挙げる。ここから先は直属の上官である俺が言って聞かせなければなるまい


「いいか山本、平時の我々は警察官より権限がないんだ。無茶を言うな」


「助けを求めている人を救うのが自衛隊の仕事じゃないんですか!射撃させてください!」


「よせ、先制攻撃をかければ俺たちは自衛隊でいられなくなる」


「………」


「どうする?撃つのか撃たんのかはっきり言え!」


「自分は…撃てません」


「それでいい。俺達が撃つときは命令があった時だけだ。その時に思う存分撃てばいい」


「それで話は終わったのか自衛隊さんよ」


暴徒の指揮官が口を挟んできた。

実に鬱陶しい


「あぁ終わったぞ。悪いことは言わないから人質を開放しろ」


「俺は現状を正しく認識している。鉄砲が何丁あってもあんたらには勝てやしない。だが、あんた達も規則に縛られて柔軟な対応ができない。だったら人質をとってでも目的を達成するまでだ」


敵の指揮官はよく見ている

流石に暴徒の指揮官を張っているだけはある


「人質を取ったところで要求は通らん。それに、そんな方法で取り付けた条件などを効力を持たんさ」


「目的のためならどんなことでもやってやる。今回の事を起こすと決めた時から覚悟は決まっている」


『シーホーク04より特警01。あと1分でそちらにアプローチする』


シーホーク04?

そんなコールサインは聞いたことがない

事前ブリーフィングでも特に言われなかったはずだ


思案しているとヘリの爆音が遠くから聞こえてきた


「…何の音だ?」


ここにきて敵の指揮官から初めて余裕の色が消えた

指揮官はすぐに銃を構えて周囲を警戒し始める

切り替えの早さは流石だと思うがもう彼らは逃げられない


彼らが迎撃準備を進めているなか俺の目には既に2機のヘリが見え始めた


「三尉、指揮官車が到着しました」


見ると89式装甲戦闘車を先頭にエンジン音を轟かせながらWAPCが侵入してきた


「相変わらず35mm砲は怖いねぇ」


「そうですか?カッコいいじゃないですか」


「高橋三佐、この車両はFTC訓練の時に敵対車両として登場し、私に戦死判定を叩き出した車両なんですよ」


「おい、木島」


三佐と下らないことを駄弁っていると、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。


「お待ちしていました。連隊長」


「状況は?」


「暴徒から銃撃を受けた為、やむなく警告射撃を行いました。射撃に一定の効果が認められましたが、敵が民間人を人質に取り里長との交渉を望んだため射撃を中止しました」


「よろしい。あと少しで増援が来る」


「どこの部隊です?」


「お前の古巣だよ」


「特殊作戦群ですか…」


一瞬胸の奥が痛む

特戦群で学んだことも多かったが失ったものも多い


「もう一機の方はSATの皆さんだ。あと、特戦群の方のヘリパイは木原一尉が引き受けてくれている」


「木原一尉?誰ですそれ」


「海上自衛隊一の変人パイロット…木原きはら光一こういち一等海尉だ。ヘリにブルーインパルスがあれば確実に選ばれるような腕前らしい」


「なんか不安ですね」


「なぁに変人といってもお前ほどではないだろう」


「何気に酷いこと言いますね」


「まぁ見てろって、どんなものかお手並み拝見と行こうじゃないか」



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