魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第24話 学院ダンジョン


 目の前に立ち塞がるのは巨大な扉――
 現代では生成不可能なオリハルコンで作られており、一面に細やかな模様が彫られている。
 その模様は……歴史について書いてあるのだろうか?
 その辺りは詳しくないが、少なくともこの扉を作った人物が当時最高峰の芸術家である事は察せられる。

 その圧倒的な存在感、精緻すぎる芸術性。
 ここはバルザール魔術学院地下一階。
 学院ダンジョンへの入り口だ――

「ふぅ……にしてもこれが入り口か。相当大きいな」
「聖杖の勇者様が来られた以前からあるらしいですね」

 カレンは優しげに微笑みながら答えてくれる。
 ……昨日の"あれ"は俺達の間ではなかった事になっている。

「誰が作ったのよこんな代物……」

 オリヴィアは感心している。

 俺は今回、カレンとオリヴィアと俺の三人で攻略することにした。
 ……といっても初めてだし、お試しみたいなものだけど。

「お主ら、用意に抜かりはないな」

 そう言うハイトウッド先生はお見送りだ。
 授業を出なくてもさほど問題の無い生徒とは違い、ハイトウッド先生は一応これでも教師だからな……。
 まぁ仕方ない。

「勿論です。……それと先生」
「なんじゃ?」
「無いとは思いますが、もし何かあったら二人のことを宜しくお願いしますね」

 今回は深くまで行く予定はない。
 大丈夫だろうけど、今後となるとそれは分からない。
 なら……今のうちの言っておこう。

「いいじゃろうアベル」

 ハイトウッド先生はすごく真剣な眼差しで答えてくれた。

「あんまり縁起でもないこと言わない方がいいよ、アベル」
「そうですよお兄様っ」
「……それもそうだな!」

 確かに、これからダンジョンに入ろうって時に心配をかけちゃいけないな。
 ……よしっ!

「じゃあハイトウッド先生、行ってきます」

 オリヴィアとカレンも頭を下げる。

「気を付けるんじゃぞ」

 その言葉を背に俺はダンジョンの扉を押した、が――

 ――開かない。

「お、重い……」

 当然だ。
 オリハルコンは金属。
 そしてこの巨大な扉は全てオリハルコンで出来ている。
 この扉がミスリル製でもない限り、とうてい俺一人じゃ開けない。

「かっこつかないわね……」
「私も手伝いますよ、お兄様」

 結局二人に手伝ってもらって、なんとか扉を開いた。
 もちろん閉める時も手伝ってもらった……。

 ◇◇◇

 前方に延々と広がる暗い通路。
 道幅はそれ程広くなく、縦横共に4、5m程だろうか。
 その壁面には何かの彫刻がなされている。
 一歩一歩進むだけで、足音が奥へと反響する。

「よし、じゃあつけるか」

 そんな、ほとんど光の届かない暗闇の中。
 俺は用意していた2つの魔石ランプに火をつけた。

「……にしてもすごいですね」

 そう思うのも当然だ。
 魔石ランプの光によってはっきりと見えるようになった壁の彫刻。
 人やモンスターを象った彫刻に隙間を縫うように幾つも刻まれた幾何学文様。
 どこまでも続く膨大で精緻すぎる存在に、俺は驚愕してしまう。
 これ程精緻な彫刻の残る建造物は大陸の中でも、このダンジョンだけだろう。

「この彫刻達には何の意味があるんだろう?」
 俺はその内の一つ、星を象った絵に触れてみた。

 ――シュンッ!

 指先が星に触れた瞬間。
 右頬を何かがかすめた。

「……え?」

 俺はとっさに背後を振り返る。
 すると壁に刺さっているのは、高速で放たれた矢だった――

「け、怪我はない!?」
「あぁ、うん。大丈夫、大丈夫」
「あんまり迂闊に触らない方がいいわよアベル」
「……はは」

「完全に侵入者用のトラップですね」
「それ程までに聖杖の勇者はここに入れたくなかったのか」
「……何かあるのかも知れませんね」

 それが何かは俺にはわからない。
 ……でも、それは彼にとって大切なものなんだろうな。
 それが何かはやっぱり気になる。

 でも今回は偵察で済ます予定だから、
 本当こういうのには気を付けないとな。

「……ん? お兄様、オリヴィアさん! 来ます!」

 カレンがそう伝える。
 俺達は後方から来たし、敵が来るとしたら必然的に前方――
 おそらくはモンスターか防衛用のゴーレム……。
 浅い階層だからモンスターだろう。
 ゴブリンか、コボルトか……。
 どちらにせよ――

 俺達は見えない敵に対して、杖を抜き身構える。
 そして5秒程待てば、

 ドタドタバタドタベタドタ!!

 と無数の足音が徐々に近づいてくる。

「……早速役に立ったな」

 俺の持っている魔石ランプの一つは周囲を照らすための物。
 そしてもう一つは前方を照らす指向性の物だ。
 だから足音が近づくにつれて、敵の姿も徐々に見えてくる。

「あれは……ゴブリンと……オークか!」

 ゴブリンは身長が1mにも満たない上に、猫背で痩せぎすの小さなモンスターだ。
 人間と同じく四肢を持ち二足歩行をするが、とんがった長い鼻や翡翠色の肌が、人間との明らかな違いを示す。
 その体格からも分かるように、一体一体の戦闘力は人間の子供ほどしかないが、人型モンスターの例にもれず、社会性があり集団で襲いかかって来る。

 対してオークは身長が2mを越し体重に至っては250kg程の、人型の中ではで最も大きいモンスターだ。
 その白い肌やでっぷりと太ったお腹を見ただけでは人間にもいそうな見た目ではあるが、下あごから伸びる大きな牙や豚の様な顔面が身体の大きさと相まって、人外の恐怖を心に植え付けてくる。

 今、目に見える範囲でゴブリンは10匹ほど。
 オークは一匹だ。
 並みの冒険者なら3人パーティーでは厳しい数だが……俺達はバルザール魔術学院の生徒だ。

「お兄様、オリヴィアさん。私がゴブリン共に先手を打ちます、なのであのオークをお願いします」
「わかったよ」
「わかったわ」

 カレンは俺達の返答を聞き、軽くうなずいて杖を構える。
 そして、そのまま前方めがけて杖を軽く振る――

「『氷柱(アイスピラー)』」

 すると地面から氷の柱が結晶化されていく!!

「ギャウッ!!グガウッ!!」

 その氷の柱は無数とも言える数、前方に高速で伸びて行く。
 ――ゴブリン共の命を奪いに!

「ゴギャアアァァ!! グアッタゴガァ!!」

 ゴブリン共は襲い掛かる氷の柱から逃げようとする。
 だがもう遅い――

「グガアアアァァァ!!!」

 氷の柱はゴブリン共の腹や顔を貫く。
 そしてゴブリン共は紫色の血を噴出する。

 ……すごすぎる。
 『氷柱(アイスピラー)』は地面から氷の柱を発生させ、敵を下方から突き刺す中位魔術だ。
 しかし、地面を埋め尽くすほどの規模は……あまりにもすごすぎる。
 これ程の規模を、威力を維持したまま発動できる魔術師は世界でも100人といない。
 ……だがカレンのスキルを知っている俺は、これがカレンの中では手加減しているレベルという事も知っている。

「オリヴィアさん、お願いします!」
「任せて、カレンちゃん!」

 オリヴィアは腰を落とし、一気に駆ける――

 オリヴィアが目指す敵は、最後に残った巨体のオーク。
 オークは周囲の取り巻きを殺され、必死に逃げようと身体を動かすが、その足は一歩も動かない。
 足が凍結されているからだ。

「カッゴウハヴイ!! ダバ!!」
「動けないなんて……哀れね」
「ッ!! ダダバガ!!」

 駆けたカレンは一瞬で間合いを詰めた。
 そして華麗に飛び上がり――

「舞い踊れ『纏風(チャンフォン)』」

 オリヴィアは動かないその巨体に対し回転蹴りを放つ!
 そして――

 ――パンッッ!!

 と、オークの首が軽い音と共に吹き飛んだ。

「……え、えっと、二人ともすごいね」

 正直レベルが違い過ぎる。
 今の俺ではこの眼があったとしても勝てないだろう……。
 はは、本当に何故俺に攻略許可が下りたんだろうか。

「いえ、お兄様のお手を煩わせるわけにはいきませんから」
「カレンちゃんの凄さは私も正直驚いたけど……まぁこれくらいは当然よ!」

 二人はまだまだ余裕そうだ。
 ……俺要らないな。
 なら、雑用係としてでも活躍しようかな。

「魔石ぐらいは俺が拾うよ」

 魔石――。
 それはモンスターの生命力そのものだ。
 人間でいう心臓が結晶化したものだ。

 モンスターは倒すと霧散し、必ず魔石を落とす。
 そして落ちた魔石は、魔術師の杖や燃料として使われている。
 その質や大きさがよければよいほどいい杖が作れたり、長く燃料がもったりするけど……その分危険度も桁違いだ。

「あと少し探索したら戻ろうか」

 俺は魔石を拾いながら提案する。

「そうですね」

 何故かカレンとオリヴィアも拾い始めた。
 魔石拾いは俺が一人でやる、と言いたいところだけど……。
 断られそうだから言うのはやめとこ。

「そういえば分け前はどうする?」

 だから俺は二人に別の話を始めた。

「別に私はいらないわよ。アベルとカレンちゃんが全部持っていっていいわよ」
「い、いや、それはダメだよ」

 ゴブリンの魔石一つで銀貨一枚程。
 銀貨一枚あれば、一日余裕で暮らせる。
 それが十個もあり、追加でオークの魔石もある。
 それを全部もらってしまうのは、悪い。

「いいのよ別に。立場的に、逆に貰っちゃうのは悪いわ」

 オリヴィアは貴族なのかな?
 確かに学院には貴族の出なんて幾らでもいるけど、そんな素振りや口調じゃないから、勝手に俺と同じ平民だと思ってた。

「う、うん。ありがとオリヴィア」

 俺は大人しく、魔石を全部受け取る事にした。
 こうなると、俺は今日一日で銀貨10枚と、オークの魔石を手に入れた事になる。

 これを何日か繰り返すだけで楽に暮らせるな……。
 働かなくてよくなるのか……?
 まぁ、良い社会経験になるし続けるけど。

 というか、さっきからカレンが静かじゃないか?
 どうかしたのか?

「カレン、どうかしたの?」
「その……何か気配を感じませんか?」
「気配……?」

 そんなもの感じ――

「やるではないか小娘」

 急に後ろから女の声が掛けられる!

「誰だ!」

 俺達はとっさに背後に振り返った。

 すると一人の少女が瞳に映る。
 病的に青白い肌に紅い瞳。
 白い髪を上品に盛り、黒を基調としたゴスロリを着ている。

「お前は……」

 その少女は、俺が退院の途中に会った少女だ。

「久しいな小童」

 少女は俺に話しかける。

「どなた様でしょうか?」

 しかし、返事を返したのはカレンだった。

「用があるのはそこの小童だけであるぞ、小娘は控えい」
「お兄様に何の用でしょうか?」

 カレンは一歩も引かない。

「はぁ……強情だな。……まぁ理由程度構わぬか。簡単だ、強くなってもらう」

 強くなってもらう?
 あの、血を求めよ、ということか?

「その為には……『闇刃(ダークエッジ)』」

 瞬時――
 杖も降らず、漆黒の刃が放たれた。

「『氷壁(アイスウォール)』!!」
「『風壁(ウィンドウォール)』!!」

 カレンとオリヴィアはとっさに防御魔術を前方に張る。
 そして漆黒の刃と2層の壁はぶつかり、

 ――ビキビキビキッ!!

 と凄まじい音を立てる。

「くっ……!」
「強いわね……!」

 刃が徐々に氷に食い込む。
 しかし風が刃を押し返す。
 正に一進一退の攻防。

 だが紅い瞳の少女は涼しい顔をしているのに対し、カレンとオリヴィアはかなりきつそうだ。
 このままでは……ッ!

「『絶対真眼』!!」

 俺は漆黒の刃を睨む。
 すると漆黒の刃は、根本から崩壊し霧散する――

「ほう……やはり小童がそうであったか……」
「何だ! なんのことなんだ!」

 赤い瞳の少女は何も答えず静かに笑う。

「……『地割(クラックグラウンド)』」

 赤い瞳の少女はそう詠唱した。

「『絶対真眼』!!」

 俺は再度、少女を睨む!

 ……だが、その魔術は打ち消せなかった――
「え……?」

 くらっ……ふわっ――

 一瞬、足元がぐらついたのと同時に、俺の身体は宙に浮く感覚に支配された。
 それもそうだ。
 赤い瞳の少女の魔術によって地面が割れ、俺の身体はその穴へと落ちて行ってるのだから。

「くっ、うおおぉぉ!!」

 ガシッ!!
 俺はすんでのところで淵を掴んだ。

「お兄様、今助けます!」
「アベル、少し待ってて!」

 カレンとオリヴィアは俺に駆け寄ろうとする、が

「『拘束(バインド)』」

 黒い輪が出現し、二人の腹の辺りを腕ごと拘束する。

「……ッ! なんで、ほどけないの!」
「無駄だぞ。それは圧倒的下位の者には解除できん」

「……くっそ!」

 悔しい。
 急に襲われて、落ちかけて。
 全く歯が立たない。
 しかし、どうして俺の絶対真眼が……ッ!

「どうしてという顔をしておるが簡単だ。小童の眼ではわらわのスキルを突破できんかった、それだけよ」

 ……きつい。
 もう手に力が入らない。

「小童、もう一度だけ言うぞ」

「血を求めよ――」

 その言葉と共に俺はダンジョンの奈落へと落ちていった。

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