魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第22話 脱出


「……はぁ……何とかなったな」

 男は倉庫の壁にぶつかった後、すぐに動かなくなった。
 死んだのか、生きているのか、それは分からない。
 ただ害がない、という事はわかる。

「お兄様大丈夫ですか!」

 自分も酷い目にあったというのに、カレンは俺の心配を優先してくれる。
 ……やっぱりカレンは優しいな。
 俺も左手を血だらけにした甲斐がある。

「うん、ちょっと左腕が痛むけど大丈夫だよ。それより……この状況をどうやって脱しようか?」

 目下のピンチは切り抜けたとはいえ、俺とカレンは拘束されたままだ。
 自由なのは俺の左腕だけ。
 手錠の鍵は……おそらく倉庫の壁に張り付けられているあいつが持っている。

「朝になれば誰かが来るとは思いますが……そ、その……」

 カレンは言いづらそうに口ごもる。

「カレンの言いたい事は分かってるよ。誰かが来る前に何とかしたいんだよね」
「……はい」

 あれだけ怖い思いをした後だ。
 仕方がない。
 この倉庫に来る人が良い人ならいいけど、そうじゃなかったらまた同じ事を繰り返さなければならなくなる。
 それは俺も願い下げたい。

「さっきの槍をもう一回出して、何とかしてみるよ。だから魔力の回復まで少しだけ待ってね」

 たった一回放っただけなのに俺の魔力はからに近い。
 とんでもない魔力消費量だ。

「私の事情で……ごめんなさい、お兄様」
「いいんだよカレン、気にしないで」

 俺がそういった瞬間――

 ――ガチャ。

 と倉庫の扉が開く音が聞こえた。

「だ、誰だ!」
「だ、誰ですか!?」

 俺とカレンはすぐに首を向ける。
 すると倉庫の扉の前に誰かが立っている。

 月明かりの中、判然としないがシルエットぐらいは分かる。
 あれは……少女?

「……何してるの?」

 少女はそう呟きながら、こちらに歩いてくる。
 それによってカレンのベッドの近くに置かれたランプが、少女の姿をはっきりとさせていく。

 透き通るような金髪のツインテールに、澄んだ蒼い瞳。
 眠たそうな童顔。
 青い制服の下にパーカーを着込んだこの少女は――

「ハルデンベルクさん……?」
「ハルデンベルク先輩……?」
「……正解」

 ハルデンベルクさんは一切表情を変えずに呟く。

「でもどうして、ハルデンベルクさんがこんな所に?」

「……こっちの、台詞。……何、この状況」

 ハルデンベルクさんがそう思うのも無理ない。
 手足を拘束された男女が、血を流したり、肌を露出したりしているのだ。
 むしろ一瞬で理解されたら驚く。

「まぁ……色々あったんだよ……」
「……色々?」
「……あの男に襲われてたんだよ」

 倉庫の壁でぴくりとも動かないおかっぱの男。
 腹と口から血を出し……正直、眼を向けたくない。
 しかしハルデンベルクさんは顔色一つ変えずに、おかっぱの男を一瞥する。

「……そう」
「だから、助けてくれない?」
「……わかった」

 ハルデンベルクさんはそう言うと、俺の左足の手錠を掴む。
 そして、何故か腰から杖を取り出す。

 ……え?
 いや、あいつから鍵を拾うんじゃないのか?
 何で杖を取り出したんだ?
 もしかして手錠をぶちこわすとか、足をもぎとるとかじゃないよな……。

「は、ハルデンベルクさん……?」
「……任せて」
「え!? いや何をする気――」
「……『鉄形成(アイアンシェイプ)』」

 しかし。
 俺の予想に反し、ハルデンベルクさんが杖を軽く振ると、俺の左足の手錠の鍵穴が徐々に埋まっていく。
 どうやら鍵穴の中で鉄を作っているようだ。

「……良かったぁ~」

 正直、ろくでもない事になると思っていたから、安心した。
 口数が少ないと、こういったコミュニケーションが上手く取れない。
 ハルデンベルクさんも、もう少し説明してくれたらいいのに……。

 そんな事を考えているとと鍵穴は完全に埋まる。
 そして、その上に取っ手が出来ていく。

「……完成」
「これは……鍵か。ハルデンベルクさんは錬金術が使えるんだ」

 錬金術――。
 それは主に金属を作ったり、形を変えたりする魔術だ。
 習得がめちゃくちゃ難しいらしく、初歩的な魔術でさえ中位魔術ほどの難度があるらしい。
 らしい、って言うのも俺はこの魔術に関して詳しい事は全く知らないからだ。
 だからハルデンベルクさんがすごい、って事ぐらいしか分からない。

「……そう、得意」

 ハルデンベルクさんは鍵を回し、俺の手錠を外してくれる。
 そしてそのままカレンの手錠も全て外してくれた。

「ありがとうございます、ハルデンベルク先輩」
「鍵を作るなんて流石ハルデンベルクさんだな。すごいよ」
「……当然」

 ハルデンベルクさんは感謝され褒められ、気を良くしたのか、得意げに無い胸を張る。

「にしても、何でこんな場所にいるの?」
「……たまたま」
「偶然って事ですか?」
「……そう」
「そうか……」

 この近くの通りに来ることはあっても、こんな夜中に倉庫へ来ることがあるだろうか?
 たまたまにしては、随分とピンポイントにこれたな……。
 ハルデンベルクさんの能力だろうか?

 すごく気にはなる。
 でも助けて貰った事だし、今は黙っておこう。

「……そういえば、アベル。……その横の子、誰?」
「ん? あぁ、俺の妹のカレンだよ」
「……ふーん」

 ハルデンベルクさんはじろじろとカレンの様子を見回す。

「ど、どうかしたのでしょうか?」
「……可愛い」
「え!? きゅ、急ですね……」
「……事実を、言っただけ」
「あ、ありがとうございます」

 カレンは少し驚きながら頭を下げた。
 ハルデンベルクさんはそんなカレンの様子を見て、俺達に背を向けた。

「……じゃあ、ばいばい。……気を付けて」
「うん。今日は本当にありがとうね」
「ありがとうございました、ハルデンベルク先輩」

 ハルデンベルクさんはそのまま倉庫から出て行った。

「……これからどうしようか?」
「お兄様に従いますよ」
「じゃあ、大人しく詰所の衛兵に今回の事を話そうか」
「はい」

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