魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第21話 本当に欲しいもの


 ……今のは夢か。
 また見たくもない夢を見てしまったな……。
 というか、俺は何で寝ていたんだ?
 まだどこか眠たくて、頭がはっきりとしないな。

 確か今日はいつものように学院に通っていたな。
 普通に授業を受けて、その後……帰りにカレンが呼び出し状を持ってやって来たな。
 そして一度家に帰ってから倉庫に向かい――そうだ!

「カレンッ!!」

 俺は眼を見開き、起き上がろうとする。

「がッ!」

 しかし、腕も足も上がらない。
 ……というか何故かベッドの上で、手を上げた体勢で仰向けになっている。

「くそ! 何でだ!?」

 不思議に思い、もう一度右腕を動かそうとする。
 すると、やはり動きはしないが、ジャラジャラという音が聞こえてくる。

「これは……鎖か」

 おそらく俺の右腕は手錠をはめられ、ベッドの頭側にある欄干に鎖で繋がれている。
 しかも、それは右腕だけの事じゃない。
 左腕も少しの間隔をもって同じように繋がれ、両足も足側の欄干に鎖に繋がれている。

「おっ。起きたか。案外早いな、悪い夢でも見たのか?」

 俺のベッドの左側から、男の声がかけられた。
 当然俺はそちらを向く。
 すると男は左手にランプを持っていて、弱いとはいえ、その明かりが倉庫の中を仄かに照らしている。
 だからこそよく見えた。
 俺のベッドの左に立つ男性、それは俺の予想通りの奴だった。

 低めの背に小太り。
 おかっぱにした黒い髪に、青色の魔術衣装。
 何よりも気色悪い事に、いやらしい笑みを浮かべている。

「……くっ」

 こいつに言ってやりたい事はたくさんある。
 だが、俺は大人しく黙っておく。

 何故ならベッドの上で手を上げた体勢で、鎖に繋がれ身動きが取れない。
 下手な事を言って怒らせても、今の俺には抵抗できないからな。

「はは、いい様だな。カレンちゃんの、お・に・い・さ・ま」

 ……相当煽って来るな。
 だがここは我慢だ。
 機をうかがうためにも落ち着いていこう。

「……カレンは無事なのか?」
「あぁ無事に決まっているだろう。お前の右側を見てみな」

 俺は言われるがままに、ゆっくりを首を右に向けた。

 俺のベッドの真横、そこにあるのはもう一台のベッド。
 その上には可愛らしい女性がすぅすぅと寝息を立てている。

 滑らかな雪の様な白い肌に、腰まで伸びた艶やかな黒髪。
 手錠をはめられたしなやかな両腕は、ベッドの頭側にある欄干に鎖で繋がれ、スカートから伸びた適度に肉付きの良いむちっとした両足は、足側の欄干に鎖で繋がれている。

 年齢不相応な発育の良い躰つきの少女が、鎖に繋がれ自由を失い、あどけない寝顔をさらす。
 これが平時なら欲情を誘ったかもしれない。
 だが、残念な事に今はそれどころじゃない。

「カレン……っ!」
「な、無事だろ。それに……すごく興奮する」

 おかっぱの男はいやらしい顔つきでニヤつく。

「……カレンには手を出さないでくれ」
「ふーん。なら代償として、何が支払えるんだ?」

 完全に一方的な取引。
 この状況から抜け出すために、俺が何を切り捨てられるか。
 本心でいえば、自分が大事だし、悩んで躊躇いたい。
 だがカレンの事を考えるだけで、俺の口は勝手に動いていた。

「俺の全てをやる。だからカレンは見逃してくれ」

 俺はしっかりとおかっぱの男の瞳を見つめ、そう答えた。

「どうしようかな~」

 俺の言葉を受け、おかっぱの男はニヤニヤしながら、暗い倉庫の中を歩き出す。
 ……最悪な事に、その両足は確実にカレンの寝ているベッドへと向かっている。

「俺の全てじゃ、足りないのか?」
「足りない? お前は何を言っているんだ」
「え……? どういう事だ」

 おかっぱの男の足は、やはりカレンのベッドの前で止まった。
 そしてカレンの身体を視線で舐め回す。
 足先、大腿、腰、胸、顔、その全てを眼で楽しんだ後ランプを床に置き――

「俺が欲しいのはお前じゃない。カレンちゃんの"初めて"なんだよ!」

 ベッドに眠るカレンに乗り掛かった。

 それによってギシィ、と卑猥な音を立てるベッド。
 この一瞬で、俺は今までにないくらい焦り始めた。

「待て! お願いだ、待ってくれ!!」

 俺は声を荒げて暴れる。
 両手両足を振り、身体を跳ねさせる。
 腕や足が引きちぎれそうなぐらいの勢いで引っ張る。

 だが鎖が甲高い音を立てるだけで、何の意味も無い。

「お前には危害を加えないから、静かにしてくれよ」

 おかっぱの男は横目で俺に悪態をつきながらも、カレンの腰の上に馬乗りになった。
 そしておかっぱの男の体重を身に受け、カレンは「うぅ……」という小さな呻きを漏らす。

「カレンは許してくれ! 俺はどうなってもいいから!!」
「お前を傷つけるつもりはないぞ~。カレンちゃんの大事な喪失記念を、特等席で見ていて欲しいからな、ハハハハ!」

 おかっぱの男はカレンの腰の上に乗ったまま、服から大きなナイフを取り出す。
 あれはおそらくは裁断用のナイフ。
 ……カレンの制服を切るつもりだ。

「カレン! カレン、起きるんだ!」

 俺は必死に叫ぶ。
 そして俺の想いが通じたのか、

「……んぅ? ……お兄様?」

 カレンはゆっくりと目を覚ました。

「カレン、なんとかして逃げるんだ!!」
「え……ひっ!?」

 カレンがきちんと眼を開くと、一瞬にしてその表情は凍り付いた。

 それもそうだ。
 目覚めたら自身の腰の上にいやらしい顔つきをした男が乗っているのだから。

「おはよ~う、カレンちゃん」
「いや!! 離れてください!!」

 カレンは起き上がろうと必死に抵抗するが、ジャラジャラと鎖の音が立つだけで、ベッドからは離れられない。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか」
「いやです! はやく解放してください!!」
「ふぅ……いいのかい? そんなに僕を嫌っても」

 おかっぱの男は右手に持ったナイフを軽く振る。
 それによってナイフはその刃をきらっと光らせる。

 俺は横で見ていただけなのに……何故かぞくっととしてしまう。
 カレンはどんな心境だろうか?
 俺以上に恐怖していると俺は思ったが、

「私の全てはお兄様のもの。断じてあなたのものではありません!」

 カレンは一切恐れない。
 むしろ腰の上にいるおかっぱの男を睨みつける。

「チッ!」

 おかっぱの男は表情を歪ませる。
 そして――

「ならそのエロい身体に、骨の髄まで分からせてやるよ」

 空いた左手でカレンの首を掴んだ。

「んぐっ!」
「そう睨まないでくれよカレンちゃん。別に殺そうとしてる訳じゃない、動いてほしくないからなんだよ。分かってくれるよね、俺の愛だよ」
「あなっ、たは! 間……違ってい、ますっ!」
「ハハハハ、確かにそうかもね! でも俺みたいな男はこうするしかカレンちゃんを手に入れる方法は無いんだよ」

 おかっぱの男はそう言いながら、右手のナイフの切っ先を、カレンの制服の襟もとに持っていく。

「やめろ、カレンを離せ!!」

 くそっ!
 何で俺は動けないんだ!
 目に前でカレンが襲われているというのに、指を咥える事すら出来ない!
 ……悔しいッ!

「やめる? 何言ってんだよ、ここまで来てやめる訳ねぇだろ!!」

 おかっぱの男は一気にナイフを引き下ろす。
 特別な加工がなされているのか、それによってカレンの制服は下着ごときれいに真ん中で切り開かれた。

 そしてごく一部ではあるが、露わになる傷一つない白い肌。
 柔らかく弾力もある、白い水風船の様な胸の谷間が、ぷるんと揺れる。
 つい指を突っこみ這わせたくなるような、縦長のへそが姿を見せる。

 しかしカレンの身体の全ては見えていない。
 見えているのは谷間やへそといった、身体の中心線に近い場所だけだ。

 ……だが切り開かれた服を横にずらすだけで、その全てはさらけ出されてしまう。
 薄紅色をした胸の先も、艶めかしい腰のラインも。

「ぐへへっ、やっぱりカレンちゃんはすけべな身体してるよね~」

 おかっぱの男はカレンの首から手を離し、馬乗り状態のままナイフを腰に仕舞った。

「はぁはぁ……私の身体では無く、あなたの思考がいやらしいんですよ」

 カレンは首を解放され、息遣いを荒くしながらそう答えた。

「えへへっ、吐息もエロいね。やべぇ勃ってきたよ……じゅるり」

 おかっぱの男の口から、興奮のよだれが垂れる。
 そのよだれは、つーっとカレンの胸に落ち、ねっとりとその表面を伝いながら、みぞおちの方へと流れていく。

「んんぅっ!」

 カレンから漏れる一滴の甘い声。
 それはおかっぱの男の欲情を一層強いものにする。

「か、カレンちゃん!? い、今の声最高だよ!」
「ち、違います! 今のは少しくすぐったかっただけですよ!」
「えへっ、そんなのどっちでもいいよ。どうせ今からさっきの喘ぎ声を何度でも出す事になるんだから!」

 おかっぱの男は、切り開かれたカレンの服に手を伸ばす。
 このまま一息に開いて、カレンの上半身の全てを堪能するつもりなのだろう。

「……カレン」

 俺はカレンが襲われている間に、何度も両腕と両足を引っ張った。
 だが、鎖の音が響くだけ、皮膚が擦れて血が滲むだけ。

 ……俺はこのままカレンがこいつに犯されるのを、傍から見る事しか出来ないのか?
 そんなのは嫌だ。
 カレンを救いたい。

 カレンは俺の妹なんだ。
 唯一残されたたった一人の肉親なんだ。
 両親が死んだ時もカレンがいたから俺は立ち直れたし、明日も頑張っろうと思えたんだ。
 もしカレンがいなかったら……俺は生きる事を諦めていたか、復讐に取りつかれていただろう。

 ……今の俺がいるのは、カレンがいるから。
 そしてこれからのカレンを作るのは俺の役目だ――

「うおおおぉぉぉ!!!」

 俺は最後の力を全てを振り絞り、左腕を引っ張る!

「はぁ……諦めが悪いなぁ」

 おかっぱの男はため息をつくが、全く気にもしない。
 今俺がやるべき事は、いちいち反応する事じゃない。
 カレンを助ける事だッ!!

「うおおおぉぉぉ!!!」

 左腕の皮膚は完全に擦り切れ、血管から血が噴き出る。
 千切れそうな痛みが左腕に襲い掛かる。
 しかし諦めない!

「うおおおぉぉぉ!!!」

 そして俺の諦めの悪さが通じたのか――

「なんだとっ!?」
「お兄様!!」

 左腕が手錠から抜けた。

「ぐうぅ! 痛ぇな……。でも、血で滑ったのか、どうやら手錠が抜けたみたいだぜ」

 左腕は血まみれ。
 余すとこなく紅い。

「あ、ありえねぇ!! 腕がそんなになるまで、痛みに耐えられる訳が無ぇ!!」
「……耐えられるさ。俺はお前に持っていないものを持っているからな」
「く、くそ!! だ、だが左腕一本抜いた所でお前に杖はここにある。今のお前に何が出来るって言うんだよ!!」

 おかっぱの男は腰から俺とカレンの杖を取り出す。
 ……用意周到なこった。
 でも――

「お前を倒すのに、そんなものいらねぇよ」
「は、は!? な、何を言って……」

「『神殺槍(ロンギヌス)』――ッ!!」

 俺は左腕に漆黒の槍を形成していく。

 ……この技はカインとの戦いで、何故か無意識に発動した。
 あの時、俺は杖を振っていないし、そもそもこの技の存在すら知らなかった。
 そして今もこの技については謎のままだ。

 でも――今はそんな事どうでもいい。

「な、なんだと!? お前のスキルか、それともお前は魔族なのか!? な、なら『火球(ファイアーボール)』!!」

 おかっぱの男は俺の杖を使い、魔術を発動しようとする。
 だが――

「『崩壊(ブレイクダウン)』」
 俺が杖の先をにらむだけで、魔術は空中で霧散する。
「え!? え!? ど、どうしてなんだ!?」
 おかっぱの男は目に見えて慌て始める。

 ……でももう遅いな。
 俺の槍は形成し終えた――

「死ぬ準備はいいか?」
「ま、待ってくれ!」
「……なら代償として、何が払えるんだ?」
「金も権利も、お前が望むなら何でもやるよ! 俺の全てをやる! だ、だから命だけは助けてくれ!」

 おかっぱの男は早口で焦る。
 そしてそれだけでは足りないと分かっているのか、涙を浮かべながら深く頭を下げる。

 ……良い様だ。
 俺の怒りも少し収まったし、別に俺も鬼じゃない。
 まぁ許してやっても良いけど…………とか思う訳ないだろ。

 こいつが手を出して傷つけたのは俺の大事な人だ。
 俺にならともかく、カレンを傷つけた事を許すつもりはない。

「俺が欲しいのはそんなものじゃない。お前の命だよ」

 俺は紅い左腕から漆黒の槍を投げた――

「ごふああぁぁ!!」

 槍は見事に男の腹を貫き、その勢いのまま、男をカレンのベッドから引き離す。
 そして男を連れたまま、槍は倉庫の壁へと突き刺さったのであった。

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