魔術学院最下位の俺が最強スキル絶対真眼を手に入れちゃいました。~必ず首席で卒業してみせる~

一条おかゆ

第3話 植物園の昼食


「リカード君、基本5属性は分かるね」
「はい。火水土風と氷ですね」
「……。では追加2属性は?」
「光と雷です」

 ……リカードよ、氷と光が逆だ。
 そもそも光魔術は全魔術の中でも最古の魔術だ、断じて追加じゃない。

「不正解だリカード君。光魔術は基本5属性で、氷魔術は追加2属性だね。座っていいよ」
「わかりました」

 何食わぬ顔でリカードは席に座るが、こんなのは基礎中の基礎だ。
 魔術師として知っていて当然の知識だ――少し昔までは。

 魔術戦がある事からも分かるように、今の魔術師は実力が全てだ。
 魔術の分類や歴史なんてどうだっていい、そう考える魔術師も多いだろう。
 ……別に現状を嘆いている訳じゃない。
 問題を間違った彼もそんな魔術師の一人、ただそれだけの事だ。

「えー、氷と雷の追加2属性は今から250年程前に遥か……」

 キーン、コーン。
 先生がそこまで言った所で鐘が鳴った。
 これは終業の鐘だ。

「はい、じゃあ続きは明日」

 先生も生徒達の関心があまり無い事を知っているのか、区切りの良い所まで話さず、教室から出て行った。
 それによって生徒達は賑やかになる。
 その賑やかさは今日で一番だ。
 それも当然、先程の魔術概論は4限目、次に待っているのは学生にとって最も楽しい時間――昼休みだ。

 俺は話し込む生徒の横を抜け、階段を下り、校舎のエントランスへと向かった。

 登校中、カレンに昼食の同伴を尋ねられたが、俺はカレンに「構わない」と言ってしまっていた。
 本当は断ろうかとも思ったが、アメリアが会話に入って来たのでそれは叶わなかった。
 だから――

「あらお兄様。こんなとこで待っていらしたのですか?」
「うん、カレンに早く会いたくてね。それよりご飯にしよう」

 エントランスで遭遇することにしたのだ。

 おそらくカレンは俺の教室へと来る気だっただろう。
 しかし俺は朝からあれだけ馬鹿にされている。
 もしカレンが俺の教室に来れば必ず迷惑をかけてしまう。
 だからこそエントランスで待つ事にしたのだ。

「今日は天気もいいし、植物園の方で食べようよ」
「植物園……ですか?」
「そう。まぁ付いて来てよ」

 大陸最高峰の魔術学院なだけあって、バルザール魔術学院はとてつもなく広い。
 そしてただ広いだけでも無く、学院の敷地内には病院からダンジョンに至るまで、様々なものが存在している。
 存在しない建物を探す方が難しいくらいだ。

 俺達はそんな学院の敷地をしばらく歩き、目的の建物の前で立ち止まった。
 目の前にあるは、ガラスで包まれたドーム上の建物。
 ガラス越しに鬱蒼と茂る植物が見え、一目で植物園だと分かる。

「すごいですね。学院内にこんなものがあるなんて……」
「俺も最初は驚いたよ。でも、学院だけで王都の4分の1を占めているらしいし、これくらいは不思議じゃないかもね」

 そう言いつつ、俺は入り口のドアを開けた。
 すると、入り口のすぐ近くで一人の少女が木の幹を触っていた。

「ん、誰だね?」
「俺です」
「おぉ! アベルか、アベルではないか!」

 白衣を着た少女はこちらを振り返り、そのまま駆け寄ってくる。
 その髪は植物と同じ緑色。
 瞳まで翡翠色をしており、まるで植物園にまぎれる為に変えたかのようだ。
 体格は"本当"の子供ほどしかない。
 しかし彼女は子供ではない。
 ……こう見えても、この学院の教員だ。

「久しぶりですねハイトウッド先生」

 先生の名前はグルミニア・ハイトウッド。
 昔は"神童"とまで呼ばれた物凄い人だったらしいけど、その辺りは深く知らない。
 俺にとっては仲のいい植物園の園長だからな。

「そうじゃな。ところで横のそやつは?」
「どうも。妹のカレン・マミヤです」

 カレンは深々と頭を下げる。
 それをハイトウッド先生はにやにやと見ている。

「それにしても……めんこいのぅ」
「えっ!?」
「腰まで伸びる艶やかな黒髪、女をも惑わす端正な顔立ち、スカートから出た肉付きの良い白い足――素晴らしい! ぱーふぇくとじゃ!」
「ななな、何がですか!?」

 カレンは恥ずかしそうに慌てふためいている。

「もちろん、入園許可じゃよ!」

 そう、この通りハイトウッド先生はどこかおかしい。
 だからなのか、この植物園に人はほとんど来ない。
 まぁそれがありがたいんだが。

「しっかし、お主が言っておった通り本当に可愛いのう」
「前にカレンの事教えましたっけ?」
「わしは何でも知っておるんじゃよ。特に別嬪と酒に関してはな!」
「……見た目に似合いませんね」
「ふはは、それもそうじゃの!」

 笑い声を上げ、先生はそのまま植物園の奥へと去っていった。
 ……本当になんであんな人が植物園の園長なんだろうか?

「本当にいつも自由だな」
「嵐の様な方ですね」
「そうだね。ま、俺達は昼食にしようか」
「そうしましょうか……」

 何はともあれ、俺たちはベンチに座ってお昼を食べることにした。
 今日も弁当はカレンの手作り。
 本当に有難い限りだ。

「そういえば良かったの?」
「何がですか?」
「友達のことさ。アメリアとかにお昼、誘われたんじゃない?」
「いえ断りましたよ」
「そうか……」

 嬉しくはあるが、悲しくもある。
 俺を選んでくれたのは嬉しいが、お昼は友達と過ごして欲しい。

「落ち込まないでくださいお兄様。私はお兄様と一緒に過ごしたくて、今ここにいるんですから」
「……ありがとう」
「お気になさらず」
「でも、友達は大切にね」
「ふふ、分かっておりますよ」

 その日食べた昼飯はいつもよりおいしく感じられた。

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