神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

八十七





 向かってくる死体兵士や死体密偵の攻撃をかわしつつ、ミレイは断罪の大斧で切っていく。
 シングは鋭光の槍で薙ぎ払う。
 ヴェルストは、素早く回避し武器の破壊を狙っていく。

 「時間がないわ······。二人ともどいて!」
 ミレイは、後方に下がって大斧を中段に構えていた。
 シングとヴェルストは、その言葉で横に跳躍する。

 「やあああああ!」
 叫びと共にミレイは、輝いている大斧を水平に振るっていった。
 瞬間、光の斬撃が飛んでいき、死体兵士・密偵を一網打尽にする。

 「なんじゃと! だがまだじゃ!」
 老人男性は杖を掲げ、再び死体を呼び出そうとした。

 「そうはさせないのです! シール・マジック!」
 リアが杖を掲げ叫んだ。
 すると、死体を呼び出す魔法陣が消えていった。
 「何!? 消えていく······」
 老人男性は、再度杖を掲げる。
 「もう一回じゃ!」
 だが、魔法陣すら浮かび上がらない。

 「貴様、何をしたのじゃ!?」
 「リアはただ、魔法を封印しただけです。しばらく使えないのですよ」
 「なんじゃと!」

 ミレイは、その会話を聞くと老人へ近付いていく。
 「へぇ、もう死体は呼び出せないわけね。覚悟は良い?」
 「ひっ! く、来るな!」



 ──老人は、ミレイの拳を受けて地べたに倒れていた。

 「あとは、あれを止めるだけね」
 ミレイは歩いて、魔法使いの集団へ近付こうとする。 
 「ぐっふっ、もう遅いんじゃ。まもなく、儀式は終わろうとしておる」
 老人は、息を切らしながら、ほくそ笑む。

 「なっ!?」
 ミレイは驚くが、すぐに大斧を構え駆け出す。「やあああ!」

 「お前達、もう呼び出すのじゃ! 最大の災厄を!」
 老人の叫びと共に、魔法使いの集団は杖を掲げた。
 すると詠唱が止まる。いや、終えた。

 ミレイは遅れて、魔法使いの集団を一網打尽にする。が遅かった。

 魔法陣から漆黒の禍々しい光が漂う。
 次の瞬間、上へ黒い輝きが放出されていく。

 「来るぞ。最大最凶の災厄がな!」
 老人は、笑い声を上げた。

 「みんな、気を付けるんだ!」
 シングは警戒を促す。
 その言葉で、ミレイ達は臨機応変に動けるよう、臨戦態勢に入る。

 その時、怪物をいや、アジ・ダハーカをも越える咆哮が響いた。
 「これがディザスター、ウロボロス······」
 シングは内心、恐怖で手が震えていた。
 「どこに居やがる!? 化けもんは!」
 ヴェルストの言葉に対し、ミレイは答える。
 「多分、城の上空よ。なんとなく分かるわ」

 「それが本当なら、この地下はまずいのです! 早く上へ······!」
 リアがそう慌てて走り出した時、とてつもない地響きが響いていく。

 「な、なに?」
 ミレイは思わず声を出すが、次に何かに気付いた。
 「あんた達、気を付けなさい!」

 更に地響きは酷くなり、すると突如、地下の天井に亀裂が入っていく。
 次の瞬間、天井の瓦礫が降り注ぐのだった。


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