神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

七十二





 皆、体の力が抜けるのを感じながら、まずいと思っていたのだった。

 更にアジ・ダハーカの真ん中の頭部の両目が光る。
 その周りに、次々と魔法陣が展開されていく。

 「······そうは、させないのです!」
 リアは、救済の杯を必死に掲げ······。

 叫ぶ。
 「救済の杯よ、お願い······です!」
 その言葉に応えるように、杯が輝いた。すると、地上に展開されていた魔法陣が消えていく。

 「んっ? ······動くわ」
 ミレイは手を握り締めると、反動をつけるように起き上がった。
 シングも体の力が戻り、鋭光の槍を構える。
 ヴェルストも立ち上がり、飛行魔法で上昇していく。

 「続けていくのです!」
 リアは声を上げると、詠唱を始めだす。
 「魔力を打ち消す力、此は対なる方にある······霧散せよ、アンチ・マジーック!」
 リアが、前へ掲げた杖から光が広がっていく。
 すると、魔法陣から放たれようとしていた雷ごと、消していった。
 「今なのです!」

 「任せなさい!」
 「僕達に任せて!」
 ミレイとシングは、そう返した。
 次にミレイは、勢い良くアジ・ダハーカの前肢を垂直に駆け上がる。
 だがアジ・ダハーカは阻止しようと上空から魔法を放とうとする。

 「そうはさせないよ!」
 シングは、鋭光の槍から光子状の棘を生やしていき、真ん中の頭部の片目を貫いた。
 すると、魔法陣が消える。
 ミレイは、ディザスターの肩に上がりきると、断罪の大斧を後ろに引くように、構えた。

 次の瞬間、大斧が輝きだす。

 その輝きに反応してか、アジ・ダハーカの真ん中の頭が牙を剥き出して、ミレイに襲い掛かる。
 その時、光の筋が幾つかアジ・ダハーカに命中していく。
 その中の一筋が、残った片目に当たった。これで、真ん中の頭部は狙いをつけれないだろう。

 断罪の大斧の輝きは増していた。見た目も変化を遂げている。
 刃部分を光が覆い、更に大きな斧の刃となっていた。
 まだ、大きさを増していくが。

 アジ・ダハーカの真ん中の頭が暴れまわる中。
 残りの端の頭が、魔法陣を複数展開していく。
 「させねぇよ!」ヴェルストは飛行しつ、風を纏ったダガーナイフで両目を切り付けた。
 「牛女、さっさと決めやがれ!」

 大斧の光の刃は、巨大なものになっていた。ミレイは、前傾姿勢を取り、足に力を込める。
 「分かってるわよ!」
 次の瞬間、二つの首元目掛け、駆け出した。
 同時にアジ・ダハーカが、自身の上空に無数の魔法陣を出現させる。かなり、数が多い。
 最後の足掻きだろうか?

 すぐさま、魔法陣から火球が降り注いでくる。
 一同は目を見開き、驚愕の表情を見せた。
 ミレイは、だが、すぐに腹を決めてそのまま突き進んでいく。
 「やああああああ!」
 動かす足と、大斧を構える手に力を込めた。
 次第に、アジ・ダハーカの真ん中の頭との距離が近くなっていくと。

 ミレイは更に走る速度を上げて、攻撃の範囲内にディザスターを入れる。
 次に、擦れ違い様、断罪の大斧を僅かに前へ振るい、力を込めていった。
 大斧に纏われた光の刃で、アジ・ダハーカの首を切断していく。
 やがて、勢いのままに断ち切ると、続けて駆ける。
 残りは、端の頭部のみ。

 ミレイはすぐさま、距離を詰めて又切っていく。
 その瞬間、火球が彼女に命中し、火傷を負う。
 「まだよ!」
 ミレイは、勢いを緩めることなく、力を込めて。

 最後の頭部の首を切断したのだった。
 そのまま、アジ・ダハーカの反対の肩に達すると飛び降り、着地する。
 ディザスターの身体は、力なく大地に伏していった。

 暫く一同は、言葉を失ったかのように、静かだった。
 時間差で、盛大な歓声が沸き起こる。
 「やったぞ!」「勝ったんだ!」
 「これで戦いも終わりだな!」

 ふと、ミレイはふらつく。力なく倒れると、彼女を心配して、シングは真っ先に駆け寄る。
 「ミレイ!」
 シングは、ミレイの後頭部を手で支えた。「······無理しすぎだよ」
 「結果オーライよ······」
 ミレイはそう返す。

 リアとアイリスも近寄ってきた。
 「アイリスさん、ミレイさんの治療を!」
 「分かりました。ミレイ、無理しますね」
 アイリスは杖を、ミレイの体の上にかざし。「癒しを」
 その言葉と共に、杖から発生した光が、ミレイの体を包んだ。
 徐々にだが、火傷が治っていく。

 「悪い?」
 「いえ、悪くは無いです。只あなたは、初め会った頃から変わりませんね」
 「何よ、それ?」
 「秘密にしときます」
 アイリスは微笑で言葉を返した。

 「何よ、ずるいわね」
 ミレイも微かに笑う。


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