神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

六十九





 ミレイは突然の事に驚く。
 「何······?」
 次に段々と、彼女の意識が遠のいていくのだった。



 ──ミ······さ······ん······!

 ミレイは、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。「んっ······」
 彼女は、ソッと目を開けていく。
 すると。
 「ミレイさん! 大丈夫ですか!?」
 「リア······?」
 そこでミレイは、目を見開き上体を起こす。続けて両足に視線を向けた。
 ミレイは安堵の表情を浮かべる。

 「さっきのは······? それに黒い空間は······」
 「ミレイ······大丈夫? 顔色が悪いよ」シングは、気にかけた。
 「······」
 ミレイは一瞬、放心した表情で彼を見つめる。
 「······何でもないわよ! それより、シングも顔色良くないと思うけど?」
 「ハハッ、アジ・ダハーカに幻を見せられてたからね」
 シングは、片手を後頭部に当てながら言葉を返した。

 「あんたも? さっきのは、幻だったのね」
 「うん、しかも二つ目の厄災の力だよ」
 「そうゆう事だったのね」
 「でも、安心だよ。こちらには、あれがあるからね」
 「『あれ』? 一体何よ?」
 シングはそこでリアに呼び掛ける。
 「リア」

 すると、リアは得意気な表情で、間をためる。
 「リア、何よ。その顔······」
 「ミレイさん! 驚かないでほしいのです!」
 「う、うん、分かったわ。いいから何なのよ?」
 「それはこれなのです!」
 リアは、後ろに隠していた何かをミレイの眼前に突きだした。

 「それって······救済の杯じゃない!」
 「なのです! 陛下が後方の隊に預けていたみたいです」
 「じゃあ、安心ね。リア、任せたわよ」
 「只······」
 リアは顔を俯かせる。
 「何か、あるの?」

 「なのです······。この神聖具は、厄災の力を狙って打ち消しますが、一日に限りがあるのですよ」
 「限り?」
 「はい、この杯の器の底に、黒いのが溜まってますよね?」
 「確かに······黒い何かがちょっとあるわね」
 「これは、打ち消した厄災の力なのです。つまり、器一杯になると、その日は神聖具を使えなくなるのです」

 ミレイは、顔を下に向け考えた。

 程無くして、発言する。
 「つまり、いかに速く倒すかって事ね」
 「はい······でも、リアは不安です。まだ、ディザスターが厄災の力を隠している気がして······そんな気がするのです」

 リアの言葉を受けて、ミレイは立ち上がる。
 「大丈夫よ、リア。あんたは、打ち消す事だけに専念しなさい。あとは、あたしとシングがやるわ」

 「はい······分かったのです」
 不思議とリアの表情が和らいだ。それも、ミレイが何とかしてくれそうな感じがしたからだろう。
 「そうだよ、リア。攻撃は僕らに任せてほしい」
 シングもそう言うと、ミレイは──。

 「じゃあ、行くわよ!」と二人に声を掛けた。
 三人は歩き出すのだった。


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