神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

六十四





 三つ頭の竜が、落ちていってる様子を見ながら、ミレイ達は駆ける。
 落下する地点から、ある程度の距離を取ってミレイは、急に止まった。
 リアもアイリスも、後方で支援するため、歩みを止める。
 すぐさまミレイは、断罪の大斧を中段に後ろへ構えた。するとその神聖具が輝き始めていく。
 光はどんどん強くなり、アジ・ダハーカが地面に落ちる頃に合わせて、ミレイは大斧を振るう。

 すると、大斧より大きい光の斬撃が放たれ、一直線に向かっていった。
 アジ・ダハーカは前肢から着地し、その影響で地響きが起こる。
 瞬間、放たれていた光の斬撃の方は、首元より下に命中。
 少し傷を負い、血が吹き出していった。

 シングも仕掛けようと、全速力で距離を詰める。
 アジ・ダハーカは、先程の光の斬撃を受けて、吼えていく。
 シングはそれでも、駆ける。
 更に上空から、ヴェルストが急下降していた。
 「トルネード・ランス」
 ヴェルストがダガーに纏っていた、暴風の剣の形状が竜巻の槍へ、変わっていく。
 その時、アジ・ダハーカの一つの頭の両目が、紅と漆黒の色に光だした。

 次に、魔法陣がヴェルストへ向かって展開され、黒い火球が放たれる。
 黒い火球は、彼の魔法、竜巻の槍を包んでいった。
 「何だぁ? これは······!?」
 やがて竜巻の槍を伝って、ヴェルストへ迫る黒い炎。
 「ヴェルスト!」
 シングはアジ・ダハーカとの距離を詰めながら、危機的状況の彼を気にしていた。
 更にシングは、走る速度を上げて近付くと、鋭光の槍を斜め上へ構え突き出す。同時に、光子状の棘が一直線に伸びていく。
 光子状の棘は、アジ・ダハーカの一つの頭を捉え、貫いた。
 「咲き貫け!」
 次の瞬間、棘が内部から無数に貫く。

 はずだった。実際はいつの間にか、アジ・ダハーカが複数の魔法陣を展開させ、黒い火球を放ってきたのだ。
 シングに黒い火球が迫る。
 「くっ!」

 「魔力を打ち消す力! 此は対なる方にある、霧散せよ! アンチ・マジック!」リアの声が響き渡り、杖の先から光が放たれ、黒い火球を照らした。
 だが消滅せず、そのままシングに迫っていく。
 「あれ、何でなのですか!?」

 黒い火球が当たる寸前。
 「シング!」
 駆けていたミレイは、シングを後ろから抱き締めつつ、斜め前へ跳んだ。
 そのお蔭で、回避する事が出来たのだった。
 ミレイは、振り返る。
 「あの黒い炎は······何なのよ······?」
 黒い火球が当たった地面の草や、樹木が燃えていた。

 「······リアのアンチ・マジックで消せないなんて······何なのですか? あれは、魔法のはずなのに」
 リアはショックを受けた表情をしている。
 頭上から降りてくる者がいた。ヴェルストだ。
 彼はリアに話し掛ける。
 「あれが厄災の力って奴じゃねぇのか?」
 「私もそう思います」アイリスも同意した。
 「厄災の力なんて反則なのです~! これじゃ、リアは役立たずなのですよ」

 この時、リアの背後に近付く者がいた。


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