神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

六十





 ミレイとシングは森林から出て、皆の前に姿を現す。すると、「ミライさーん、シングさーん!」とリアが駆け寄って来た。
 ミレイに近付き、「その様子だと上手くいったようなのですね」と抱き付く。
 「良かったのです~!」

 「あんたのお蔭よ、リア······」
 ミレイは、彼女の頭を優しく撫でる。
 「ミレイさん······」
 リアの目尻に涙が溢れていた。



 ──時が過ぎ、アジ・ダハーカとの戦いが始まろうとしていた。
 北の上空から近付いてくる、らしき影。
 王国軍の指揮官は、ヴェルストに近付くと、声を掛ける。
 「では、お願いします、ヴェルスト殿」
 ヴェルストは不満そうに舌打ちする。
 「なんで、オレが······」
 「仕方無いじゃない。あんたしか、無理だからよ」
 「頼むよ、ヴェルスト」
 そう言うのは、シング。
 「ファイト! なのです! リアは応援してますよ!」

 その言葉の数々に、ヴェルストは呟く。「だりぃ······」
 すると、アイリスが発言する。
 「あら、ヴェルストさんは、恐れているのでしょうか? もし······ディザスターの気を引けなかったら、自分の魔法じゃ無理だったら······とでも思っているのですか?」
 「今、なんっつった? 見てろ、今からやってやるからよ」

 ヴェルストは、片足を前に踏み出した。次に、右腕を引き、拳を前斜め上へ向けて構える。
 「ウィンド・エンチャント······」
 魔法名と共に、右拳に風が纏われていく。
 「トルネード・ランス」
 更なる言葉で、風が勢いを増す。次第に大きくなっていき、巨大な竜巻の槍と化していた。
 「見てやがれ!」
 ヴェルストは拳を突きだしていく。
 「リベレイション!」
 その叫びと同時に、巨大な竜巻の槍が放たれ、上空にいるディザスターへ怒濤の勢いで進む。

 その竜巻の槍は、飛行している標的に命中しそうだと、誰もが思った。
 「おお······!」と、兵士の間から声が洩れでた程だ。

 だが現実は甘くなかった。

 竜巻の槍は、ディザスターを貫きそうという所で、その標的が飛行の軌道を横に反らしたのだ。
 それが原因で、ヴェルストの魔法は更に上空へ、消えていく。

 傷を負わせられなかったが、気を引く事には成功したらしい。
 ディザスターは、ミレイ達に向けて滑空してきた。
 その速度は物凄い勢い。
 みるみる、ディザスターの姿が小さくなくなっていき、あっという間に全身の形が顕になる。
 その災厄の怪物は、地上からある程度の距離を保つため、翼をはためかせる。

 その風が一同へ吹きつける。
 誰もが、言葉を失っていた。そのディザスターの姿に。
 「······あれが、アジ・ダハーカって訳ね」ミレイは緊張感を滲ませた表情をしていた。
 「うん······。只、昔読んだ文献だとアジ・ダハーカは他のディザスターとは違うらしいよ。なんでも、魔法を使うらしい」
 シングがそう説明した。
 「あの図体で、魔法を使ってくる訳? 反則じゃない······」

 ミレイの言う通りアジ・ダハーカは、キマイラの時より、巨大な体躯をしている。

 その外見は、三つの頭部を持ち、翼がある竜。
 それと、赤色に光る瞳が威圧感を放っていた。

 「魔法使団、魔法を放て!」
 その声で、既に詠唱を終えていた魔法使団は、魔法を発動する。
 放たれた様々な魔法は、アジ・ダハーカに命中した。
 神聖具による攻撃ではないので、すぐに再生するが。
 それでも、目眩ましにはなっただろう。

 「あたし達も行くわよ!」
 ミレイは一番に駆け出した。
 二番手にヴェルスト。
 その次に、シングも続いた。


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