神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

四十一





 決闘がミレイの勝ちに終わってから、二人は治療を受けていた。
 ふと、横になっていたアイリスが、そっと目蓋を開ける。
 「······そういえば、私は······」
 彼女は、上体を起こす。
 「負けてしまったのですね······」

 「まだ、無理はしない方がいいわよ。この後、嫌でもディザスターと戦って貰うんだから」
 ミレイは、アイリスを一瞥してからそう口にした。
 「そうさせて頂きます」
 アイリスは、もう一度横になる。
 「まさか、貴方に負けてしまうなんて······私一応、接近戦の訓練も受けていたんですが」
 「そう······ただ単に、あたしの運が良かっただけよ。あんた、充分強かったわ」
 「慰めはいりません。貴方、いえ、ミレイが強かっただけの事です」

 「何よ······褒めたって何も出ないわよ······」ミレイは、赤く染まった頬を指でかく。
 「事実を言っただけの事です」
 「それはそうと、約束は守って貰うわよ! あたしが勝ったんだし、シェインの意思を尊重して貰うんだから」
 ミレイの言葉に、聖女ソフィーが答える。
 「それは······勿論守りますよ。まさか、不利な状況でミレイが勝つなんて······」

 「ありがとう、ミレイの姉ちゃん······ボク、良いんだね······神聖具を創っても······?」
 シェインは、瞳を涙で潤わせていた。
 「良いに決まってるじゃない。何のために、あたしが闘ったのよ?」
 「うん······ホントにありがとう······」
 シェインが嬉しそうに涙ぐんでいると、姉のソフィーが声を掛ける。
 「······シェイン······私は······」
 シェインは、涙を腕の袖で拭く。
 「ソフィー姉ちゃん、ボク······ホントに、救世主のように神聖具を創るのが夢だったんだ」
 「そうよね······昔から言ってたものね」

 「うん、ようやく叶うんだよ」
 シェインは嬉しそうにそう言った後、急に真剣な表情になる。
 「ソフィー姉ちゃん、先に言っておくね。今までありがとう······」
 姉のソフィーは、シェインに近付くとぎゅっと抱き締めた。
 「シェイン、そんな別れみたいな事、言わないで······私の聖女の力で、あなたは死なせませんよ」



 「これで良いの?」
 「うん、ミレイの姉ちゃん。神聖具を創るには、元となる道具や武器が必要なんだよ」
 シェインは座りながら、地べたに置かれたヴェルストの魔法を発動する媒体の指輪や、ミレイの両刃の大斧を見ている。
 「リアのは、必要ないのですか?」
 「残念だけど、リアの姉ちゃんは、補助や支援の魔法だから大丈夫だよ」
 「そうなのですか······」
 リアは何処か、残念そうな表情だ。

 「それじゃ、始めるよ」
 シェインはまず、ヴェルストの魔法媒体の指輪を手に取る。
 すると、まばゆく指輪が輝きだした。
 

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