神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

三十六





 ミレイ達と一同は、余りの吼える声に耳を塞ぐ。
 「な、なんて吼え声!」
 ミレイは、眉間をしかめた。他の者達も、同様の反応をしている。
 程無くして咆哮が止む。するとキマイラは、突進してきた。

 ミレイ達は武器を手に身構える。
 その時、「今っすよ!」と軽そうな男の声が響き、図体のでかい男が肩に抱えていたシェインを放り投げた。
 キマイラに向かって。
 「シェイン様!」
 アイリスの叫び声が響く。
 ミレイは助けようと駆けるが、間に合いそうにないだろう。
 シェインが、キマイラの獰猛な牙に迫る、その時。

 素早く跳躍するヴェルストが見えた。
 彼は空中で、シェインの肩と足に手を回し抱えると、自身に飛行魔法をかけて安全な所まで飛ぶ。
 次に地面に着地するのだった。
 「こっちは大丈夫だ! あとは、てめぇらに任せたぞ!」
 「言われなくてもそうするわ!」
 ミレイは、助走して跳躍するとキマイラの首元に乗る。
 次にすぐさま斧を打ち付け、背を駆けていきながら、切り裂いていく。
 勿論、神聖具でない武器なので、再生していくが。気を引くには十分だった。

 「今よ!」ミレイは、キマイラの背から飛び降りる。
 「神罰の光よ」
 アイリスは神罰の十字架を握った。
 次の瞬間上空から、キマイラの胴体へ、幾つもの光が降り注いでいく。
 その光の攻撃を受けて、鳴き声を上げる。
 その隙を逃さず、シングは駆け出していた。
 「今度こそ······!」
 距離をすぐに詰めたシングは、キマイラの脚を伝いつつ駆けて、肩に到達すると跳ぶ。
 更に鋭光の槍を構えつつ、穂先に光子状の刺を生やした。
 あとは落下しながら、首目掛けて鋭光の槍を振り下ろしていく。

 だがキマイラは、咄嗟に反応する。
 なんと、光子状の刺を喰らったのだ。
 「なっ!?」
 驚くシングだが、それだけでは終わらなかった。
 キマイラは、口から光子状の刺を吐き出すように放つ。
 その攻撃は、空中で無防備なシングの脇腹を捉えた。
 「ぐっ!」
 シングは、光子状の刺を受けた反動で、後ろに飛ばされて地面に落ちる。
 「シング!」
 ミレイの必死な声が響いた。
 シングは上体を起こす。目の前には、キマイラの獰猛な牙と口が迫っていた。
 「僕は······こんな所で死ぬのか······」

 その時、リアの声が響いていく。
 「白き世界よ、辺りを包め······マジック・ミスト!」
 彼女が詠唱を終え、魔法名を叫んだ。
 すると辺り一帯に、白いもやが発生していく。
 「こっちなのです!」
 そうリアの声がした。声の方向に、炎らしき明かりがある。
 ミレイとシングは、その明かりを目印に退避していった。



 程無く、離れた場所でシング含めた負傷者は、神官達の聖法術で治療を受けていた。
 ミレイ達と司教アイリス、王国指揮官は、顔を並べ重苦しい雰囲気を出している。
 アイリスは思案顔で呟く。
 「神聖具が二つあっても勝てないなんて······何か策は······」
 王国指揮官も打開策を考えているようだが、無言のままだった。

 突如、声を上げる者がいた。シェインだ。
 「方法ならあるよ······ボクが神聖具を創る」


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