神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

三十五





 竜巻の槍が彼方へと去っていく。と貫いた箇所は、惨たらしい穴を作り出していた。
 「おい、リア! 今の内に離れてろ!」
 ヴェルストはそう促した。
 目を瞑っていたリアは、はっと今の状況に気が付くと答える。
 「は、はいなのです!」
 彼女が離れていくのを見送ったヴェルストは、再生途中のキマイラを見据えた。

 「やっぱり、神聖具って奴じゃねぇと駄目か。おい、アイリスっていったか? お前が何とかしろ!」
 「随分な言い様ですが、良いでしょう。私にお任せを」
 アイリスは神罰の十字架を握ると、「神罰の光よ」と言葉にした。
 すると、上空が円形の輝きに包まれる。
 恐らく、キマイラの大きさ程の光だろう。

 その光の広さを見たミレイ達と一同は、距離を取っていく。
 暫くして、光が降り注ぐかという所で、声が響いた。
 「そうはさせない······」
 突如、顔の下半分を隠した男二人が、剣を手にしてアイリスに襲い掛かる。
 気配を察知したアイリスは、咄嗟に金属製の杖で剣を受け止めた。
 かん高い音が一瞬響く。
 思わぬ邪魔が入り、アイリスの制御を失った上空の光は消える。
 「奇襲だぁー! 司教様を守れ!」
 神道兵達は進み出ていく。
 「我々も司教殿をお守りするぞ!」
 王国指揮官が声を上げると、兵士達は進む。

 「そうはさせないっすよ!」
 軽そうな男の声と共に、周りの王国兵、神道兵が斬られていった。
 「お前は、拘束していたはず······!」
 王国指揮官は僅かに驚いた。
 何故なら、軽そうなその男は、船で信書を盗もうとして捕まった者だからだ。
 「時間がかかりすぎだ······」
 冷静そうな男は、軽そうな男を諫める。
 「隊長、すまないっす! 思ったより手間取ったもんで」
 「で? 手筈通りだろうな?」
 冷静そうな隊長は問う。
 すると、軽そうな男の背後から、二人の男女が現れる。
 「隊長、手間取ったが大丈夫だよ。ほら」
 女の方がそう言葉を返した。
 「······」
 無口で図体のでかい男が、進み出て肩に抱えている誰かを見せる。

 その場にいた一同は、顔色を変えた。
 捕まっていたのは、シェインだったからだ。
 「お前ら、離せよ!」
 シェインは、じたばたと暴れている。
 「シェイン様! ······あなたがたは、一体······?」
 アイリスの言葉に、冷静そうな隊長が答える。
 「答えるつもりはない······我らの目的のため、その命頂くぞ! 司教アイリス!」
 隊長含めた二人の男は、剣を一旦引くと、左右から挟むようにして、再び剣で斬りかかっていく。

 アイリスは金属製の杖で防ごうとするが、どちらか一方しか受け止めれない。
 どうしたものか、一瞬考えた時。声と共に進み出る者がいた。
 「片方は任せなさい!」
 ミレイだった。彼女は、大斧を水平に振るう。
 隊長は、ミレイの大斧の一撃を跳躍してかわすと、その武器の上に乗る。
 次にすぐさま、後ろ宙返りをしながら、顎目掛けて蹴りをかました。
 「なっ!」
 ミレイは蹴りを喰らって仰け反る。
 冷静そうな隊長は地面に着地すると、「大したことないな······終わりだ」と言いつつ、今度は剣で斬りかかっていく。

 「そんな蹴り効かないわ」
 ミレイはすぐに体勢を整え、迎撃しようと大斧を斜め上に向かって振るう。
 冷静そうな隊長は屈みつつ回避し、次に状態を起こしつつ、剣で首元を斬ろうとした。
 だが、金属同士がぶつかり合う音が響く。
 見ればシングが長剣で、敵の隊長の剣を受け止めていた。
 「ミレイには手出しさせない!」
 「ほぉ······小僧、俺に勝てると思っているのか?」
 「勝てるとかじゃない······ミレイは僕が守るんだ!」
 シングは、長剣を強く押していく。
 敵の隊長も負けじと剣を押すが、突如、力を抜くと共に距離を取る。
 シングはバランスを崩して、前のめりになった。

 そこへ、敵の隊長のナイフが飛んで来る。シングは咄嗟の事でかわせず、左肩にナイフが突き刺さってしまうのだった。
 「ぐっ!」
 「小僧、気持ちがはやりすぎだ······それでは、守れるもんも守れんぞ」
 敵の隊長は素早く、再び襲い掛かっていく。
 「シングはあたしが支えるんだから!」
 その時、ミレイがそう言ってシングを守ろうと前に出た。
 片手による大斧の切り上げで、敵の隊長の水平斬りを迎え撃つ。

 だが、相手の方が動きが速い。
 ミレイは、自身の首元に刃が迫ろうとした時、思わぬ行動に出た。

 敵の隊長の大事な部分を蹴ったのだ。
 「がっ!」
 瞬間、後方にかなりの距離を転がっていき、ミレイから離れた所で止まった。
 「どぉ? あたしの勝ちね」
 ミレイは、大斧を地面にどすんと突き立てると、そう言った。
 「おい牛女、おせぇ······こっちはとっくに終わってんぞ」
 そう言うヴェルストの足元には、一人の男が倒れている。

 「司教を······始末出来なかったのは残念だが、もう一つの目的は達成できた······」
 敵の隊長はそう言うが、ミレイには何の事か分からない。
 「目的······? 何のことよ?」
 「あれを見ろ······」
 敵の隊長の言葉が何を指しているのか、疑問に思う一同。

 その中で、勘の良いヴェルストが気付く。
 「お前ら、あれを見ろ! ディザスターの再生が終わってやがる!」
 どうやら敵の目的は、ディザスターに再生の猶予を与える事だったらしい。
 ディザスター、キマイラはゆっくり振り返ると、咆哮を上げた。


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