神聖具と厄災の力を持つ怪物
三十二
その場に居たのは、二十代前半に見える女性だった。
髪色は白に近い薄い金。
前髪は右に八の割合で流しており、後ろ髪は背中の半分程まであり、毛先はカールしている。
瞳は琥珀色で、まつ毛が長い。
一言で表すと、目鼻立ちの整った美人だ。
装いは、白を基調としていて、頭には、宝石の飾りが付いた帽子を被っている。
着用しているものは、豊満な胸元を強調したデザインだ。
上腕と前腕、手は薄い布地の手袋で覆われており、肩は露出している。
長いスカート部分は、右腰辺りからスリットが入っていた。
スリット部分から覗くすらりとした足には、黒のタイツと白のロングブーツを身に付けている。
「わぁ、凄い美人さんなのです~」
リアは、その女性の美しさに素直な感想をもらす。
「で、あんたが司教?」
ミレイは問う。
「はい、私が司教のアイリス・フィーストといいます。よろしくお願いします」美しい女性、アイリスは肯定し、そう名乗った。
「そう、ずいぶん若いみたいだけど」
ミレイがそう言うと、アイリスは笑顔で言葉を返す。
「あら、貴方の方が若いと思うのですが······色んな所が」
アイリスは、ミレイの胸へ、視線をちらっと送った。
「なっ! あんた今、胸見て言ったわよね!」
ミレイは、恥ずかしさと怒りのあまり、顔を赤らめた。
「あら、胸の事なんて言ってませんが? もしかして、胸が小さいの気にしていらっしゃるんですか?」
アイリスはあえて、挑発するように言う。
「あんた、喧嘩売ってるならやってやるわよ!」
ミレイは、アイリスに向かって進み出ていく。
「ミレイ落ち着いて!」
次にするである行動を察して、シングが腕を掴んで阻止した。
「そうなのです! シングさんの言う通りですよ!」
リアも、片方の腕を掴んで止める。
だがミレイは、掴まれても二人を引きずって歩き出した。
「ヴェルスト、見てないで手伝ってなのです~!」
リアは、ヴェルストに助けを求めるが、彼は即座に断る。
「止めて、オレに得があんのか? めんどくせぇ······」
「そんな、このままだと······! ミライさんは、アイリスさんを!」
ミレイは、その間も進んでいた。
近くまで距離が縮まった時、シングとリアは諦めかける。
「もうダメなのです~!」
「ずいぶん、盛り上がってみたいだね」突如、声が響く。
そこには一人の神道兵がいた。
ミレイは、その声と姿に驚いた。神道兵の格好をしているが、ミレイの知っている者だからだ。
「あんた、もしかして! シェインじゃない!」
「久し振り。まあ、といっても、一緒に居たんだけどね。後方にだけど」
「そう、それでその格好は?」
ミレイは問う。
「神道兵の格好でもしないと、付いてこれないからね」
その言葉に、ミレイは溜め息を吐く。
「あんたは、全く······」
ミレイ以外の者は唖然としていた。シェインには心臓の病があるのを知っているためだろう。
皆、何でこんな所に? と思ってそうな表情をしている。
アイリスも驚愕の表情を浮かべていた。
「シェイン様······! 何でこの様な危険な所に······」
「やだなぁ、アイリス姉ちゃん。前みたいにシェインって呼んでよ」
「それは昔、聖女様のお世話をするため宮殿に居た時の話です」
「そんなこと言わないでよ······昔も今も変わらないじゃん。呼び捨てしてくれていた時だって、ボクは救世主の力を持ってたし」
シェインは寂しそうな表情をしている。
彼の言葉に、アイリスも何処か辛そうだ。
「変わらないものなんて······無いんです······私は······で、シェイン様は······」
アイリスの言葉が、部分的に小声でシェインとミレイ達は、良く聞き取れない。
「今、なんて······?」
シェインは聞き直す。
「······何でもありません。それよりシェイン様は、明日戦いが始まりましたら、後方の補給隊に居て下さい」
シェインは、不満そうだが了承する。
「仕方ない、分かったよ」
それから、落ち着いたミレイと仲間達は名乗っていく。
名乗りが終わると、ディザスターについての情報を聞き、後は作戦を話し合うのだった。
「では、明日はその段取りでお願いします」アイリスがそう言って、自身の天幕に向かおうとする。
すると、シングは止めた。
「あのアイリスさん、教皇様からこれを預かっていたのですが」
そう言いつつ、アイリスに手渡す。
「これは······」
アイリスは包みを開けていく。
中に入っていたのは、首に掛けられるよう細工された十字架だった。
「······まさか、神罰の十字架······!」
アイリスのその言葉に、シングは反応する。
「神罰の十字架って、この国が保有している神聖具ですよね?」
「ええ、そうです。この神聖具とシングさんの鋭光の槍があれば、勝利は見えてくるでしょう」
「それなら安心できますね」
アイリスは先程とは違って、表情を曇らせる。
「只、大丈夫でしょうか······?」
彼女の表情と発言に、シングは「何がですか?」と問う。
「いえ、何でもありません······」
アイリスが、何の事か答えなかったので、シングはそれ以上聞かなかった。
暫くして、夕食の準備が出来たので、各自食事を取る。
取り終わると、この日は翌日の戦いに備えて、早々に休むのだった。
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