神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

二十六





 一行は、二ヶ月程の航海を得て、神聖グラシア国の島にある港都市に着いていた。
 更に、七度ななたび太陽が昇りを繰返し南に差し掛かった頃、中心地である都に辿り着いたのだった。

 「やっと着いたのですよ~。リアは疲れました······」
 リアは、膝に手を突いた姿勢でそう言った。
 「早速で悪いのですが······聖女様と教皇様に謁見したいので······」
 指揮官の言葉を聞いて、ミレイがリアに言う。
 「······だ、そうよ。リア、さっさと行くわよ」
 「そんな~。ミライさん、待ってなのです~」
 先に行こうとするミレイとリアを、指揮官が呼び止める。
 「お待ち下さい。まず先に行くところがありますので······」

 「先に行く所······? どこよ?」
 ミレイは、疑問を浮かべた表情をしていた。
 「どこなのですか?」
 リアも分からないみたいだ。
 シングも分からず、「どこだろう?」と言っている。
 すると、ヴェルストが溜め息を吐き、発言する。
 「お前ら、本気で言ってやがるのか? オレらは、長旅をしてきてんだ。それにここは、水の都とも呼ばれてる。一つしかねえだろうが······」

 その言葉で、ミレイ、シング、リアは閃いた。
 指揮官はヴェルストに賛同するように言葉を発する。
 「その通りです。我々が先に行く所は······」



 一行は、街中にある大きな建物に来ていた。
 「ここが······」
 ミレイは若干嬉しそうに、何か言おうとする。
 だが、目を輝かせたリアに遮られる。
 「ここが、浴場なのですね!」
 「そうね。それはそうと、リア、声がでかいわよ······目立つじゃない」
 ミレイは微かに、恥ずかしそうにしていた。

 「それじゃ入りに行くのです!」
 リアはそう言うと、ミレイと共に右の通路に入って行こうとする。
 シングやヴェルストは、左の通路へ向かっていく。
 去り際にミレイは、シングに話し掛ける。
 「後でね」
 「うん」



 浴場にて、一糸まとわぬ姿のミレイは、考えていた。
 (······シング、浮かない顔をしていたわね······でも、決めたじゃない······あたしがシングを支えるって······)
 「······ラ······イ······ん······」
 「······ラ······さ······ん」
 「ミ······イ······さ······ん」
 「ミライさん!」
 そこでようやく、ミレイはリアに呼ばれている事に気付く。
 「なっ! 何よ! 驚かせないでよ!」

 「さっきから呼んでいたのですが······考え事なのですか?」
 「なんでもないわよ」
 「リアで良かったら、相談にのるのですよ?」
 「あんたに相談しても、役に立ちそうにないわね」
 ミレイは冗談めかして言った。
 「ひどいのです~」
 リアは、軽く傷付いたような表情をする。
 「冗談よ」
 ミレイはそこで、一息吐くと語り出す。

 「あいつの事なんだけど······」
 「あいつとは誰なのですか?」
 「シングの事に決まってるじゃない······そのあいつが、何か悩んでるみたいなのよ······」
 「気付かなかったのです! シングさんが悩みを抱えていたなんて······いつからなのですか?」
 リアが問うと、ミレイは答える。
 「ヴィンランド王国の宴の夜からよ······」
 「ミレイさんは、どうするつもりなのですか?」
 リアは、真剣な表情で質問した。この時彼女は、ミレイの名前をミライと間違えなかった。

 「相談にのるって言っても、無理だったんだから······決まっているじゃない。あたしがあいつを······シングを支えてあげるだけよ」
 ミレイの言葉を聞いて、リアは「そうなのですか······」とだけ言った。
 そこでリアは一拍置き、再び言葉を発する。
 「なら、協力するのですよ! リアもシングさんを支えるのです!」
 「リアなら、そう言うと思ったわよ······」
 「ミライさん! それじゃ、シングさん支援同盟結成なのですよ!」
 リアは高らかに声を上げた。
 「あんたは逆に、思わない失敗しそうで怖いわ」
 「何言ってるのですか。リアに任せてくれれば、安心なのですよ」
 リアは胸を張る。
 「頼んだわよ、リア」
 「はいなのです!」

 「それはそうと······」
 ミレイは、リアの首元から少し下に視線を注いでいる。
 「リア、あんた······あたしより良いもの持ってるじゃない······」
 リアは咄嗟に、胸を両腕で隠す。
 「ミライさん、何言ってるのですか!? リアなんて、平均的で······!」
 慌てつつ言うリア。
 「何よ? それは、あたしの胸が小さいって言いたいの?」
 ミレイはそこまで言うと、何かを閃いた表情をする。

 「そうゆうあんたには······こうよ!」
 ミレイは、リアの胸を触ろうとする。
 「ミライさん、やめ······やめるのですよ~」
 「この感じ······平均とはいえ、あたしよりはあるし······羨ましいわ······」
 「やめるのですよ~。いい加減に······」
 リアはそう言うと、反撃に出た。
 「するのです!」
 ミレイの胸に両手で触るが、そこで「ん?」と声を上げ、動きを止める。
 「何よ? どうしたのよ、リア?」
 「ミライさん、揉める程ないのです······」
 リアのその言葉に、ミレイは「悪かったわね! なくて!」と半分腹を立てた。
 ミレイは再び、リアに襲い掛かる。

 「ミライ······さん! やめ······やめるのです! リアが悪かったから、許してなのですよ~」
 「いいえ、許さないわ! リア、あんたの胸で払って貰うわよ!」
 「そんな、ミライさん······! 許してなのです~」

 ミレイの手によって、リアの声が浴場一杯に響き渡った。


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