神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

十八





 ミレイは、隼の怪物を追っていた。
 建物の屋根から屋根へ跳躍して。
 「このっ、待ちなさいよ!」
 ミレイは大斧を振りかぶって、上空へ高く跳ぶ。
 隼の怪物に届きそうかという時、ひらりと舞い上がってかわされた。
 ミレイは屋根に着地すると、声を上げる。
 「下りてきなさい!」

 隼の怪物は、くるりと上空で曲がると、滑るように高度を下げつつ向かってくる。
 「やっと来たわね!」
 ミレイは、大斧を右後ろ下段に構えて、タイミングをうかがう。
 隼の怪物が攻撃範囲に入る、その時、斜め上に大斧を振るった。

 だが、隼の怪物は、途中で上にそれるように飛んでいった。
 ミレイの大斧は空を切る。
 「なっ!?」
 ミレイは出来るだけ早く、背後に向き直ろうとする。が、物凄い強い風が吹く。
 その風によって、バランスを崩し屋根から落ちてしまう。
 恐らくは、隼の怪物が翼を閃かせて、風を起こしたのだろう。

 ミレイは背中から落ちるも無事だった。これも、厄災の力の影響とリアの強化魔法のおかげだろう。
 「いたたっ」
 ミレイは起き上がり、空を見る。
 見れば、隼の怪物はこの場から去って行く所だった。
 「待ちなさいよ!」
 ミレイは叫ぶが、隼の怪物は待ってくれない。
 次の瞬間、顔色が変わる。

 「これは······! 嫌な感じがするわね······」
 ミレイの予想通り、周囲の建物の陰から、狼の群れが出てきた。
 「さすがに多すぎるわね······」
 緊迫感のある表情で、大斧を構える。
 狼の群れは、じりじりと距離を詰めていく。
 ミレイは、近付いてくる周囲の狼に警戒しつつ、大斧を力強く握る。
 狼の群れは更に距離を縮め、その瞬間。
 一斉に駆けてきた。

 ミレイの前に、何者かが着地する。それと、ほぼ同時に、気だるそうな声が響く。
 「ブースト······ウィンド・エンチャント」見る間に、その男の両足先に風が纏っていく。
 その男は、すかさず倒立すると、片足を前にもう片足は後ろに開いた。
 「おい、屈め!」

 ミレイは、その男に言われて咄嗟に屈む。
 狼の群れは、距離を詰めると飛び掛かってきた。
 倒立して待ち構えていた男は、タイミングを合わせて、勢い良く回転する。
 すると見事に、狼の群れに次々と回し蹴りをかましていき、吹き飛ばしていく。

 生き残った狼の群れは、起き上がると警戒するように唸り声を上げる。
 「おい、狼共······まだやるってんなら容赦しねえぞ」
 男は、鋭い目付きで狼を睨み付けた。
 狼の群れは殺気を感じ取ったのか、じりじりと後退していき、やがて背を見せて逃げて行った。

 暫くして、男は、ミレイの方に向き直る。
 男は、無造作な黒髪で、頭頂部にはアホ毛が斜め上に立っていた。
 瞳は琥珀色で、一重目蓋の鋭い目付き。

 服装は、七分袖の白のインナー。その上に着ているのは、紺色でフード付きのベストだ。
 丈はロングで、ベストの前半分程を閉じている。
 ズボンはライトグレーで、黒いブーツに入れていた。

 「おい、お前······大丈夫か?」
 男は、低音で気だるそうな声で尋ねた。
 「お陰さまで大丈夫よ。助かったわ」
 ミレイの言葉に対して、男は無言で見詰める。
 「何······? 何か言いたげね」
 「······お前、力任せに戦いすぎなんだよ」
 「なっ!?」
 「そんなんじゃ、命が幾らあっても足りねえぞ」
 男がそこまで言い切ると、ミレイは顔を朱色に染める。
 「な、何よ! あんた、失礼よ!」
 「忠告してやってるだけなんだが······めんどくせえな······」
 男はそう言うと、屋根に跳び移った。

 「ちょっと、待ちなさいよ!」
 ミレイは男を呼び止める。
 「まだ何か用か······?」
 「あんた、名前は何て言うの?」
 「······ヴェルスト・ハーディだ」
 ヴェルストは名乗ると、去っていった。

 「ヴェルスト······ね。見てなさい。そんな失礼な事、二度と言わせないんだから」
 ミレイは屋根に跳び移ると、怪物共を探し始めるのだった。


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