神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻

十五





 「今思えば、大したことでもないのに······。どうして、逃げてしまったのよ」
 ミレイは今、路地裏にいる。
 「それも、あいつがあの女と仲良くするからじゃない······」
 さっきからミレイは、ひたすら不平不満等を主に呟いていた。

 そうしていると、突然声を掛けられる。「亜人のお嬢さん、どうしたのかな?」
 優しそうな男だった。
 後ろには大男と、横に恰幅の良い身長の低い男が立っている。
 「別にどうもしないわ······。それより、何か用? ないなら、どっか行って」ミレイは、冷たくあしらう。

 「この娘っ! 兄貴が話し掛けてるんだぞ! 失礼だとは······」
 横に恰幅の良い男が声を荒げた。
 最後まで言い切る前に、優しそうな男はそれを制止する。
 「こら、すんだ」
 男は続けて、次はミレイに話し掛ける。
 「お嬢さん、さを晴らしたいなら、良い所がありますよ。我々と一緒に行きませんか?」

 「止めとくわ」ミレイは即座に断った。
 「そうですか······残念ですよ」
 優しそうな男の目付きが、どす黒い雰囲気に変わる。
 「少し、手荒なことになりますが······。おい、やるんだ」
 その言葉を聞いて、大男が走り出す。
 ミレイは、迫りくる大男を前に、微かに笑っている。
 「あんた、ついてないわね」
 何故なら今のミレイは、ミノタウロスの厄災の力の影響で、筋力が上がっているのだ。
 余裕なのも当然だろう。

 「うおおおおおおー!」
 大男が雄叫びを上げる。
 それと共に、ミレイにどんどん迫ってくる。
 互いに、ぶつかり合う距離に大男が迫った時。

 大男は地面に倒れていた。
 倒れている当人は、何が起こったのか理解出来ていない。といった表情だ。
 ミレイがやったのだろうか?
 いや、大男の目の前にはシングが立っていた。
 ミレイを庇うように。
 恐らく、シングが大男を投げ飛ばしたのだろう。
 「まだ、やる? まだミレイに手を出すようなら、次は容赦しない」
 シングは、残り二人の男を睨み付ける。

 「ひいぃ!」横に恰幅の良い男が、逃げていく。
 その後を追うように、二人の男も去っていった。

 すると静寂に包まれる。
 「······又、助けてくれた」
 ミレイは呟く。
 「何か言った? ミレイ?」
 「何も言ってないわよ! それより、あんな奴ら、あたしだけでも倒せたわ! 今は、力上がってるんだし」
 ミレイは、そっぽを向いてそう言った。
 「何言ってるんだよ。ミレイは女の子なんだし、僕が守ってあげないとさ」
 シングは爽やかな笑みを浮かべる。

 「何言ってんのよ······」
 ミレイは頬を紅潮させると、言葉を続ける。
 「そんなんで格好つけたつもり?」
 「ははっ、そんなつもりは無いけどさ」シングは笑ってごまかした。
 それから一転して、真剣な表情をするとミレイを問い質す。
 「それよりミレイ、何かあった? 急に逃げるから驚いたよ」
 ミレイは、本当の事は言えるはずなく、答えに詰まる。

 「まあ、言いたくないならそれで良いけどさ」
 シングがそう言うと、ミレイは答える。
 「あたしは、只、あの女と仲良くしたくないってだけで······」
 「仲良くしなくても良いけど、喧嘩は程々にしてもらえると助かるよ。これから、一緒に旅するんだし」
 「分かってるわよ。それより、あんた、あの女に迫られて嬉しそうよね?」
 今度はミレイが、シングを問い質す。

 「いや、嬉しくはないよ。僕、好きな人がいるし」
 シングのその言葉に、ミレイは初耳だというような表情をした。
 「なっ!? 初耳ね。あんた、その続き話しなさい!」
 「何でミレイに話すんだよ」
 「気になるからよ!」
 「そんなに言うなら······聞きたい?」
 シングの表情が、真剣なものに変わった。

 ミレイは急に、聞き出すのが怖くなる。
 「······やっぱり、止めとくわ」
 「それなら、戻ろうか。リア、一人にしてきてしまったし」
 シングは、表通りに出るため歩き出す。
 「好きな人って、一体誰なのよ······?」
 ミレイはそう呟くと、シングの後を遅れて付いていった。


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