神聖具と厄災の力を持つ怪物
十一
二人に話し掛けてきた声の主は、白髪の男性だった。長い後ろ髪は結んでおり、前髪は後部へ撫で付けている。
「アルバート······!」ミレイは呟く。
「ウォルソン宰相、二人とお知り合いですか?」
副指揮官は宰相に問う。
「知り合いも何も、お二方は今は亡きランカスター王国の王子と公爵令嬢。公的な場でお会いしていて知ってるまでのこと」
「二人が······いえ、お二方が······まさか」副指揮官は、驚愕の面持ちでミレイとシングをちらりと見る。
「それにしても、御二人がディザスターの襲撃から生きていたとは······私は嬉しい限りで御座います。そういえば······ミレイ様······。その角と尻尾は一体······?」
宰相の声色が喜びから、わなないたものに変わっていく。
「アルバート、これはディザスターのせいで······」
ミレイが説明しだすと、副指揮官が間に入った。
「その事なんですが、詳しいことは後で説明致します」
「そうですか、了承しました」
宰相は頷いた。
その時、シングは呟く。
「ディザスターの襲撃······?」
先程の宰相の言葉を。
まるで、初めて耳にした事実のような表情をしていた。
「シング様······? どうかしましたかな?」
宰相の問いに、シングは口を開く。
「ウォルソン宰相、ランカスター王国が滅んだことについてですが、話したい事があるんです。これから、国王陛下に謁見出来ないでしょうか?」
シングの真剣な表情に、事情があると察した宰相は、「了承しました。私から陛下に話を通しておきましょう」と頷く。
続けて、「そうとなれば、御二人には準備をして頂けなければ。こちらへ」と王宮内へ案内しだした。
夕暮れになった時に、女性の使用人二人に案内されて、ミレイとシングは、謁見の間の扉の前にいた。
「こちらになります。どうぞ、お入り下さい」
警備兵二人が、装飾の入った扉をゆっくり開けていく。
完全に開け放たれた時、ミレイとシングは大広間へ入っていった。
二人はそのまま進んでいき、程良い所で止まると、腰を落として顔を伏せる。
暫くして、ヴィンランド国王の声が響く。
「顔を上げよ」
ミレイとシングが顔を上げると、豪奢な椅子に座る一人の男性がいた。
年齢は二十代後半位で、金色の髪に青い瞳。
顔立ちは、切れ長の目元が特徴で、自信たっぷりな印象だ。
髪は短すぎず長くもなく、前髪は真っ直ぐ下ろしている。
隣には宰相が控えていた。
「久しい顔だな。シング・オブ・ランカスターにミレイ・リィンザー?」
国王はそう話を切り出し、次にミレイの風貌をじろじろと見る。
「それにしても妙な姿になったものだな? ミレイ・リィンザー?」
国王は笑いだす。
「失礼ですぞ、陛下」
宰相は国王を諫める。
「これは失礼だったな。許せ」
「いえ、問題ありません。それより陛下こそ、相変わらずお元気そうで何よりです」
ミレイは、皮肉混じりにそう言った。
「して、挨拶に来たわけでもあるまい。申せ」
国王がそう促すと、シングは口を開く。
「はい、見ての通りミレイは、ディザスターの厄災の力で牛の角等が生えてしまっています。宜しければ、貴国の神聖具、救済の杯を使用させて頂きたいのですが」
「ほう、だが、只で使わす訳にもいくまい。何せ神聖具だからな」
国王が渋ると、宰相が割って入る。
「陛下、私からもお願い致します」
「爺、いや、ウォルソン宰相。何も神聖具を使わせないとは言ってない。只、条件があるだけだ」
国王の言葉に、シングの表情が変わる。
「条件······ですか?」
「そうだ。二人にはディザスターの討伐に尽力して貰いたい。その手始めに、神聖グラシア国の協力を取り付けてほしいのだ。使者としてな」
「ディザスター討伐と神聖グラシア国の協力の取り付けですか······」
シングは思案顔をして、ちらりとミレイの方を見る。
すると、視線に気付いたミレイは、目線を送り返して頷く。
「分かりました。お受けします」
シングは、国王に向かってそう言葉を発した。
「そうか。それは助かる。それと、神聖グラシア国にもディザスターが現れている情報があってな。そのディザスターも討伐して貰えると助かる」
そこで、国王は片方の口角だけを上げて、笑う。
「なに、二人だけで討伐してもらおうとは考えておらん。一人、優秀な仲間を付けよう。それと、魔法使団と王国兵もな」
「それと国王陛下、まだお話ししたい事があります。我が亡き父、その王国、ランカスターが滅んだ経緯についてです」
シングは、もう一つの本題を切り出すのだった。
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