神聖具と厄災の力を持つ怪物
十
再び都市を出発して、太陽が四度昇り、南西に差し掛かった頃。
「嬢ちゃん、良いぞ! その調子だ!」ダークスの威勢の良い声が響く。
「当たり前よ!」
ミレイは駆けながら、蛙の怪物を大斧で切る。すると、蛙の怪物は体液を散らしながら、絶命した。
「あとは、あのデカブツだけね」
ミレイは、巨大な蛙の怪物を見据える。
「ミレイ、油断は禁物だよ」
「あんたに言われなくても分かってるわ」釘を指してきたシングに、そう返答したミレイは、大斧を斜め上段に構えていく。
シングも鋭光の槍を、ダークスも中型の斧を構える。
「魔法使いは詠唱を! 詠唱が終わり次第、仕掛けます!」
副指揮官の指示の元、魔法使い達は呪文を唱えていく。
少しして、詠唱が終わると口々に叫ぶ。
「アース・エンブレイス!」
「ウィンド・カッター!」
「サンダー・アロー!」
まず最初に、土が巨大な蛙を包んで動きを止める。次に、様々な魔法が入り乱れて、命中していった。
「今です! 前衛、突撃!」
ミレイ、シング、ダークス含めた前衛が駆けていく。
ダークスは、巨大な蛙の前肢を斧で切りつける。
シングも、もう片方の前肢を槍で切りつけた。
「ミレイ!」
「嬢ちゃん、今だぜ!」
シングとダークスの言葉に後押しされるように、ミレイは高く跳び上がる。
巨大な蛙の頭上まで跳ぶと、落ちていく中で、上段に構えた大斧を勢い良く振り下ろしていく。
そのまま、大斧で頭部の中央を縦に両断していった。
巨大な蛙はこの一撃が致命打になって、体液を盛大に散らしながら、地面に伏す。
「やったじゃねえか、嬢ちゃん! 大分、斧の使い方が良くなってきたぜ!」
ダークスは、近付いてきてミレイの背中を叩く。
シングは、どこか元気がなさそうだ。
ミレイとダークスから距離を取って、二人の様子を眺めていた。
「それはそうと······」副指揮官が近付いてきて、話を切り出す。
「王都ヴァストレが見えてきましたよ」
一行は、王都の街中に入っていた。
王宮へ向かう道中、擦れ違う人々の視線が注がれる。
中には、人の頭で体に、二本の角と牛の尻尾を生やした牛人がいたりした。
ミレイと違い、本物の亜人だろう。
街中のため進行速度が遅いので、かなりの時が経って、ようやく王宮の門が見えてきた。
すると一旦、一行は進みを止める。
ダークスは馬車から降りると、ミレイとシングに別れを告げ始める。
「俺はここまでだ。嬢ちゃん、坊主、また会えたら会おうぜ」
「はい。ダークスさん、お元気で」
「斧の戦い方を教えてくれて助かったわ、おっさん」
「だから、俺はおっさんじゃねえ! お兄さんだ!」
「はいはい」
「ったく。······それじゃあ、又な!」
そう言うとダークスは、踵を返して去っていくのだった。
再び進んでいき、王宮の門前まで来ると副指揮官に促され、ミレイとシングは馬車を降りる。
「それでは、私に付いてきてください」副指揮官は、警備兵によって開けられた門をくぐって、宮廷内に入ろうとした。
その時。
「これは! シング様とミレイ・リィンザー様では御座いませんか!?」
ミレイとシングを呼び止める声が響いた。
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