神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻





 再び都市を出発して、太陽が四度よんたび昇り、南西に差し掛かった頃。



 「嬢ちゃん、良いぞ! その調子だ!」ダークスの威勢の良い声が響く。
 「当たり前よ!」
 ミレイは駆けながら、蛙の怪物を大斧で切る。すると、蛙の怪物は体液を散らしながら、絶命した。
 「あとは、あのデカブツだけね」
 ミレイは、巨大な蛙の怪物を見据える。
 「ミレイ、油断は禁物だよ」
 「あんたに言われなくても分かってるわ」釘を指してきたシングに、そう返答したミレイは、大斧を斜め上段に構えていく。

 シングも鋭光の槍を、ダークスも中型の斧を構える。
 「魔法使いは詠唱を! 詠唱が終わり次第、仕掛けます!」
 副指揮官の指示の元、魔法使い達は呪文を唱えていく。
 少しして、詠唱が終わると口々に叫ぶ。
 「アース・エンブレイス!」
 「ウィンド・カッター!」
 「サンダー・アロー!」

 まず最初に、土が巨大な蛙を包んで動きを止める。次に、様々な魔法が入り乱れて、命中していった。
 「今です! 前衛、突撃!」
 ミレイ、シング、ダークス含めた前衛が駆けていく。
 ダークスは、巨大な蛙の前肢を斧で切りつける。
 シングも、もう片方の前肢を槍で切りつけた。
 「ミレイ!」
 「嬢ちゃん、今だぜ!」

 シングとダークスの言葉に後押しされるように、ミレイは高く跳び上がる。
 巨大な蛙の頭上まで跳ぶと、落ちていく中で、上段に構えた大斧を勢い良く振り下ろしていく。
 そのまま、大斧で頭部の中央を縦に両断していった。
 巨大な蛙はこの一撃が致命打になって、体液を盛大に散らしながら、地面に伏す。

 「やったじゃねえか、嬢ちゃん! 大分、斧の使い方が良くなってきたぜ!」
 ダークスは、近付いてきてミレイの背中を叩く。
 シングは、どこか元気がなさそうだ。
 ミレイとダークスから距離を取って、二人の様子を眺めていた。

 「それはそうと······」副指揮官が近付いてきて、話を切り出す。
 「王都ヴァストレが見えてきましたよ」






 一行は、王都の街中に入っていた。
 王宮へ向かう道中、擦れ違う人々の視線が注がれる。
 中には、人の頭で体に、二本の角と牛の尻尾を生やした牛人がいたりした。
 ミレイと違い、本物の亜人だろう。



 街中のため進行速度が遅いので、かなりの時が経って、ようやく王宮の門が見えてきた。
 すると一旦、一行は進みを止める。
 ダークスは馬車から降りると、ミレイとシングに別れを告げ始める。
 「俺はここまでだ。嬢ちゃん、坊主、また会えたら会おうぜ」
 「はい。ダークスさん、お元気で」
 「斧の戦い方を教えてくれて助かったわ、おっさん」

 「だから、俺はおっさんじゃねえ! お兄さんだ!」
 「はいはい」
 「ったく。······それじゃあ、又な!」
 そう言うとダークスは、踵を返して去っていくのだった。

 再び進んでいき、王宮の門前まで来ると副指揮官に促され、ミレイとシングは馬車を降りる。
 「それでは、私に付いてきてください」副指揮官は、警備兵によって開けられた門をくぐって、宮廷内に入ろうとした。

 その時。
 「これは! シング様とミレイ・リィンザー様では御座いませんか!?」
 ミレイとシングを呼び止める声が響いた。


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