神聖具と厄災の力を持つ怪物
七
「それにしても角が生えるなんて······ありえないわ······」
ミレイは少し、落ち着きを取り戻したようだった。が次は、気分が落ちていた。
「なんで角が生えているのよ······」
ミレイのぼやきに、シングは言葉を発する。
「もしかしてだと思うんだけどさ。ミレイが気を失う直前、体内に赤黒い靄が入るのを見たんだ。それが関係あると思うよ」
「そういえば、そうよ······! こんな事なら、あんたを庇うんじゃなかったわ」
そう言うとミレイは、何か違和感に気付く。
シングはその様子に気付いて、「どうしたのさ? ミレイ?」と問う。
「何でもないわよ! それより、あっち向いてて!」
ミレイは、慌てた様子でそう返すと、人差し指をびっと向けた。
シングは疑問のある表情をするが、「分かったよ」と従って反対に向き直る。
すると、布地が突き破られる音が、微かに響いた。
次に、布地が擦れる音がしてくる。
突然、ミレイの声が響く。
「なっ、何よ!? これ!?」
「どうしたんだ!?」
シングは、心配になって振り向こうとする。
「こっち向かないでよ!」
ミレイは、盾を投げ付けた。
「うわっ! 分かったよ」
再び、布地が擦れる音がしてきた。
暫くして、その音は止んだ。
「もう良いわよ」
ミレイの許可がでると、シングは体の向きを変える。
「ミレイ······? そ、その尻尾は······」
シングは、ミレイを見るとすぐに気付いた。彼女のスカートの下から、短めな牛みたいな尻尾が伸びているのを。
どうやら、先程の布擦れの音は、スカートの下の衣服から尻尾を出していたかららしい。
「······言わなくても、分かってるわよ。二本の角に、牛のような尻尾······。これじゃ、まるで牛の亜人じゃない······」ミレイは、足の力が抜けて地面に座り込む。
「ミレイ、落ち着いて。元に戻る方法があるはずだよ」
シングは励ますが、その言葉は届いてないようだ。
「取り込み中、悪いな」
がたいの良い男が、ミレイとシングに話し掛ける。
「こちらの副指揮官殿が、嬢ちゃんと坊主に用があるらしい」
「悪いのですが、ミレイはこの状態です。都市に着いてからでは駄目ですか?」シングは、がたいの良い男の隣にいる副指揮官に、そう言った。
「そちらのお嬢さんにとって、良い話なんですが。都市に着いてからでも構わないですよ」
副指揮官のその言葉に、シングは反応する。「······良い話······ですか?」
「ええ、お嬢さんのその状態を治せる方法について······です」
副指揮官の言葉に、今度はミレイが反応する。彼女は、手を突いてゆっくりと立ち上がっていった。
体を起こしきった時、声を発する。
「······良いわ。話しなさい!」
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