神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻





 「ミノタウロスの周囲攻撃に気を付けつつ脚を狙うんだ!」
 軍の兵士と冒険者達は、脚を狙って突撃していく。
 ミノタウロスの脚に傷は付いていくが、みるみる再生していく。
 するとがたいの良い男が、「これならどうだ!?」と斧で脚首を深く切る。

 ミノタウロスは、バランスを崩して地面に片膝と拳を突くが、傷は再生していく。
 「今だ! 坊主!」
 がたいの良い男が声を上げる前に、シングはミノタウロスへ向かって走り出していた。
 次に地面に突いた拳、腕を伝って駆け、肩に到達すると宙に跳んで、槍を突こうと構えていく。

 シングは、頭部を狙って槍を突く。がミノタウロスは頭を動かしてずらした。
 槍は頭ではなく、左目に命中する。
 ミノタウロスは悲痛な咆哮を上げて、左腕で槍を掴むとシングごと放り投げた。

 シングは、宙を飛んでいき樹木に叩き付けられる。
 「ぐっ!」むせるような背中の痛みに、体を起こせないでいると、シングへ向かってミノタウロスが突進していく。
 「させないわよ!」
 ミレイは止めようと、剣で脚を斬りつけるが傷が浅かった。
 そんな浅い傷では、再生能力を有するミノタウロスを、一瞬でも止める事は出来ない。

 ミノタウロスは、すぐに距離を詰めていき、脚で踏み潰そうとする。
 「シング!」ミレイの叫びが響く。

 「ウィンド・カッター!」
 もう一人の叫びと共に、突如、幾つもの風の刃がミノタウロスへ向かっていった。
 その内の風の刃が脚に命中し、切断する。ミノタウロスは、叫び声を上げて横に倒れ込んだ。
 「ぼ、ぼくらに援護は任せてください!」
 魔法を放ってシングを助けた、気弱そうな魔法使いがそう声を上げる。
 他の魔法使いや神官達も気力に満ちた表情で後ろに立っていた。

 シングは、ゆっくりと体を起こし、槍を構える。
 ミノタウロスも、脚がもう再生しており、立ち上がっていく。
 シングはすぐさま、死角の右側面を駆ける。その際、槍を振るって傷を付けた。
 続けて、ミノタウロスの斜め後方に回り込むと、槍で脚を突く。
 「はぜろ!」
 叫び声と共に、無数の光子状の刺が、内部から脚を貫いた。

 ミノタウロスは雄叫びを上げて、身体を回転させると、その反動で槍を引き抜く。だが、それだけで終わらなかった。
 さらに、後ろ越しから大斧を振り回して、シングを攻撃してくる。
 「しまっ······」
 シングにとっては、死角からの攻撃で反応が出来ず、回避も防御も仕様が無い。
 「任せな、坊主!」
 「任せなさい!」
 頼もしい声が響く。と同時に、ミレイが盾で、がたいの良い男が斧で、ミノタウロスの攻撃を防いだ。
 その際二人は、衝撃に押されて後退あとずさりしていった。

 「今よ、決めなさい!」
 「やっちまえ! 坊主!」
 シングは、駆けてミノタウロスの大斧へ跳び移る。続けて、腕を伝っていき肩に到達すると、宙に跳んで槍で突こうと構える。
 ミノタウロスは阻止しようと、左手で掴もうと動かしていく。
 「スタン!」
 突如、声が響いた。すると、魔法エネルギーのようなものがミノタウロスにまとわりついて、動きを止める。
 どうやら、一人の魔法使いが支援魔法を使ったようだ。

 「今度こそ!」
 シングは槍で、ミノタウロスの頭部を突く。
 「浅いか!? なら、はぜろ!」
 シングの声に応じるように、槍から無数の光子状の刺が生えて、中から串刺しにする。
 すると、ディザスター、ミノタウロスは倒れていった。
 暫くして、ミノタウロスが起き上がらないのを見ると、たちまちにみなから歓声が上がった。


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