神聖具と厄災の力を持つ怪物

志野 夕刻





 ミノタウロスは言葉を理解できた訳ではないが、突然の大声に動きを止めて、シングの方に向き直っていく。

 「ミレイ、ごめん。やっぱり、これを使うよ······」
 シングは、背負っていた長い何かを地面に置き、白布をほどいていく。
 「······使うからには勝ちなさいよ」
 ミレイは不満そうだが、その中で仕方ないと諦めている。
 何故なら、彼とは幼い頃からの付き合いが長いため、こうなってしまったら止められないと分かっていたのだ。

 「ああ、勝つさ。守れる時に······守れなかった後悔はしたくないからね」
 シングは、ミレイにそう返答すると白布をほどき終った。
 中からあらわになった何かは、二メートル程の槍で、シングはそれを手に取ると立ち上がる。

 「さて······」シングは、ミノタウロス目掛けて全速力で走り出す。
 向かってくるのを見て、ミノタウロスは大斧を横に構えていく。
 シングは距離を詰めていき、大斧の攻撃範囲に入る。
 すると、すかさず大斧の横薙ぎがくるが、上体を屈めてかわした。
 続けてシングは、槍でミノタウロスの左脚を突く。

 「刺よ、はぜろ!」
 シングが叫ぶと、ミノタウロスの脚を、内部から無数の光子状の刺が生えて貫いた。ミノタウロスは、たまらず悲痛な声を上げて片膝を突く。
 シングは、すぐに槍を引き抜くと、眉間に狙いを定める。

 次の瞬間、槍の穂先から光子状の刺が生えて、高速で真っ直ぐに伸びていく。
 眉間に迫った時、光子状の刺はミノタウロスの手に掴まれる。
 それだけでなく、もう片方の手で、大斧が斜めに振り下ろされていく。
 「くっ!」
 シングは咄嗟に、光子状の刺を消してかわそうとする。

 だが、一瞬反応が遅い。そのためシングは、後方へ跳びつつ、槍の柄で防ぐ構えを取った。
 大斧と槍の柄がぶつかり合う金属音が響くと、シングは後方へ飛ばされていく。その中で、転がりながら受け身を取っていき、最後は足を地面に着けて止まった。



 「あんた、詰めが甘いわよ!」
 戦いを眺めていたミレイはかつを飛ばす。
 不意に、一人のがたいの良い男が、ミレイに話し掛けてくる。
 「なあ、嬢ちゃん。あの坊主の武器は何なんだ?」
 「さぁね。知らないわ」
 「おいおい、教えてくれたって良いだろ? それに、あの武器でやった傷が再生してねえよな?」
 「······秘密よ」
 ミレイは、真剣でかたくなな面持ちをしていた。

 その様子を見て察した、がたいの良い男はある考えに行き着く。
 「······まさか、あれは······神聖具の······槍だってのか? でも、あれは······あれを持ってた······王国は滅んだはずじゃ······」



 シングは緊迫の表情で、槍を構えたまま動かないでいる。
 いや、動けないでいた。
 そうしていると、ミノタウロスの方からシングに突撃していく。
 あっという間に距離は詰まり、大斧の横薙ぎが迫る。

 シングは、前進しながら又もや屈んで、横薙ぎをかわした。
 さらにれ違い様、槍を振るい穂先の刃で脚に傷をつける。
 背後を取ったシングは、槍の穂先をミノタウロスの後頭部に向けて、「貫け!」と叫んだ。

 槍の穂先から、光子状の刺が生えて伸びていく。
 だが、ミノタウロスの尻尾が鞭のように振るわれて、横方向にシングを叩く。
 すると、尻尾の一撃で倒れ込んだシングに、ミノタウロスが向き直っていく。

 その動作を終えると、続けて、大斧を頭上に構えていく。
 「させないわよ!」突如、ミレイの声が響いた。彼女は背後から、ミノタウロスの左脚を剣で斬りつける。
 だが、シングの槍とは違って、ミレイの剣で傷を与えた箇所は、瞬時に再生してしまう。

 「ミレイ、逃げるんだ!」シングはそう叫ぶが、遅かった。
 ミレイに向かって、ミノタウロスの左腕が凄い勢いで振るわれ、迫っていく。
 咄嗟に盾を構えて防ごうとする。が恐らく、衝撃は殺しきれず、後方へ飛ばされるだろう。
 「きゃっ!」

 予想通りミレイは、後方へ飛ばされていく。いや、一つ予想外がある。
 それは、かなりの距離を飛ばされている所だろう。
 「ミレイ!」
 シングの声に隠された思いに応えるように、声が響く。
 「任せな!」がたいの良い男は、ミレイに向かって駆け出していた。

 ミレイが地面に打ち付けられるすんでの所で、がたいの良い男は跳び、両手を伸ばして受け止める。
 「嬢ちゃん、無事か?」
 「おかげさまで大丈夫よ」
 ミレイは体を起こし、ミニスカートの後ろをはたく。

 「なあ、嬢ちゃん。俺もあの坊主に加勢するぜ。戦わず眺めてるだけじゃ、この筋肉が泣くからな」がたいの良い男は、やる気に満ちた笑顔を見せる。
 「そう、勝手にすれば」
 「ということで坊主! 俺も加勢するぜ! 指揮は誰が取る!?」
 一方シングは、ミノタウロスと再び戦っていた。攻撃をかわしながら、がたいの良い男の問いに答える。

 「そちらで決めて下さい!」
 「了解だ! それまで持ちこたえろよ!」がたいの良い男はそう言うと、思案顔をする。
 「······俺はあの坊主が適任だと思うんだがな」がたいの良い男の独り言に、一人の王国軍の者が近付いてきて、言葉を発する。
 「その必要はない。ここからは私が指揮を取りましょう」

 ミレイとがたいの良い男は、王国軍の者に向き直る。
 「あんた、軍の関係者ね」
 ミレイの言葉に、「その通りです。私は、もしものための副指揮官。指揮なら私に任せてください」と副指揮官は返答した。
 「じゃあ、これで決まりだな」
 がたいの良い男は、口角を吊り上げた。

 「俺らも戦わせてくれ! あの坊主だけに戦わせるなんて出来ないからな」
 「オレもだ!」「おれも!」
 突然、周りにいた冒険者達から口々にそう声が上がっていく。
 その様子を茫然ぼうぜんと眺めているミレイ。
 「良かったな、嬢ちゃん」
 がたいの良い男は、ミレイの肩を叩く。

 「それではこれより、あの少年の加勢に入ります!」
 副指揮官の声がみなに響いた。


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