お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

幼馴染みと先輩





 「りょうちゃん、今日の練習後、ちょっと時間あるかな?」

 部活の練習の休憩中にりっちゃんさんにそう声をかけられた僕はりっちゃんさんの質問には時間ある。と答えたが何の用だろう。と気になったのでりっちゃんさんに要件を尋ねると部活の係でやることがあるから一緒にやって欲しい。とのことだったのでノータイムで了承した。

 「りょうちゃん、帰ろ〜」
 「まゆ、ごめん。今からりっちゃんさんと係の仕事するからまだ帰れないんだ。先に帰っててくれて大丈夫だよ」
 「ごめんね。まゆちゃん、りょうちゃん少し借ります」

 僕とまゆのやり取りに混ざってりっちゃんさんがそう言うとまゆが少しだけムッとした表情をする。心配しなくても、りっちゃんさんには陽菜がいるし、変なことにはならないよ。

 「じゃあ、邪魔しちゃ悪いし私たちは先に帰ろうか。りょうちゃん、夜ご飯作って待ってるね」
 「りっちゃん、りょうちゃんに変なことしないでよ。りょうちゃん、呼んでくれたら迎えに来るからお仕事終わったら電話してね」
 「うん。ありがとう」

 僕はホールから出て行く春香とまゆとゆいちゃんを見送ってりっちゃんさんの元に戻る。

 「あれ、陽菜は帰らないの?」
 「うん。今日もりっちゃんさんのお部屋でお泊まりだから」

 りっちゃんさんの元に戻ると、りっちゃんさんの隣で陽菜がりっちゃんさんと楽しそうに話していたので気になって聞いてみると幸せそうな表情で陽菜に言われた。今日も。ねぇ…陽菜、ちゃんと家に帰ってるのか?とちょっと心配になるが、りっちゃんさんならちゃんと週に何回かは帰らせているだろう。

 「陽菜、今からお仕事するからちょっと大人しくしててね」
 「はーい。じゃあ、ちょっと楽器吹いてきます」
 「陽菜も春香ちゃんたちみたいに先に帰って夜ご飯の用意しててくれてもいいんだよ?」
 「陽菜、料理苦手ですし、りっちゃんさんが作ってくれたごはん食べたいし、りっちゃんさんと一緒に帰りたいから待ってます」
 「はぁ…わかった。楽器吹くのはいいけど無理しないでね。
 「はーい」

 そう言って陽菜はホールの舞台に向かって行った。陽菜が居なくなってからりっちゃんさんはちょっとだけため息を吐く。

 「りっちゃんさんも大変そうですね……」
 「大変なんてもんじゃないよ。料理に洗濯に掃除、陽菜の分まで全部私がやってるし、私の部屋だけならまだしも、最近は陽菜の実家の陽菜の部屋の掃除もたまにしてたりするから…本当に手がかかるのよ……」
 「本当に大変そうですね…」
 「あはは。まあ、でも、幸せだからいい。陽菜が笑って私の隣にいてくれれば私は幸せだから…」

 本当に幸せそうな表情で言うりっちゃんさんを見て安心した。陽菜は幼馴染みだし、今も仲良くしてるから、幸せになって欲しい。りっちゃんさんのこの表情を見ると、りっちゃんさんだけでなく、陽菜も幸せなんだろうな。と思える。

 「陽菜のこと、お願いしますね」
 「何それ、りょうちゃんは陽菜の保護者か何か?」
 「ち、違いますけど…幼馴染みとして、心配なので…」

 係の仕事の作業を進めながらそんなやり取りをしていた。陽菜の話をすると、りっちゃんさんは本当に楽しそうな表情をしてくれる。

 「陽菜は、最近大丈夫ですか?」
 「…………」

 ちょっと気になって聞いてみると、りっちゃんさんの手が止まってしまう。陽菜の話をする時、りっちゃんさんはずっと幸せそうに笑っていた。だから、きっと大丈夫なのだろう。と思った。りっちゃんさんから、最近はずっと元気だよ。と言ってもらえると思ったし、言って欲しかった。

 だが、現実は……

 手が止まったりっちゃんさんの表情を見ると、すごく悲しそうな表情をしていた。いや、悲しそう。は間違っているかもしれない。きっと、この表情は……

 「りっちゃんさん、疲れました〜」

 楽器を吹いていた陽菜がそう言いながら僕たちの方にやって来たのをみて、りっちゃんさんは先程の表情を笑顔に切り替える。

 「ちょっと休んでな。ほら、座って…」
 
 陽菜を椅子に座らせて、椅子に座った陽菜をりっちゃんさんは背後から抱きしめた。陽菜からりっちゃんさんの表情は見えないだろう。先程までの笑顔は、その瞬間に消えて、何かを恐れているような表情になっていた。

 「ちょっ、りっちゃんさん、りょうちゃん見てる前で抱きつかないで…」
 「えー、今まで散々いちゃいちゃしてるところ見せてきたのに今更恥ずかしがらなくていいよ」

 陽菜が、りっちゃんさんの方を向こうとしていたので、僕は慌てて陽菜に話を振って、陽菜の目線を僕に向けさせた。りっちゃんさんのあの表情を…陽菜には見せられないし、きっと、りっちゃんさんも陽菜に見せたくなかっただろう。

 少しだけ、後悔した。僕が余計なことを聞かなかったら、りっちゃんさんはこんな表情をしなかっただろう。余計なことを聞いた。でも、こんな表情を陽菜の側でもしてしまうくらい、りっちゃんさんは何かを抱えているのだろう。

 幼馴染みとして、陽菜のことが心配だ。後輩として、りっちゃんさんのことも心配だ。だけど、今は何もできない。陽菜に、こんな表情のりっちゃんさんは見せられないから。







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