お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

クモリ






 りょうちゃんとゆいちゃんと分かれて部屋に戻ろうと廊下を歩いていると目の前からめちゃくちゃかわいい女の子が歩いてきた。

 「春ちゃん、おはよう。昨日は大丈夫だった?」
 「…………」

 返事をしてくれない。えっと、どうしたんだろう。体調でも悪いのかな?

 「あそこは春香ちゃんの席だから…春香ちゃん以外は認めないから。私のお姉ちゃんは春香ちゃんだけだから」

 そう、短くまゆに伝えて、春ちゃんは来た道を戻っていく。お姉ちゃんは春香ちゃんだけ…その一言で春ちゃんがまゆに何を言いたいのかは伝わってきた。認めてもらえた。そう、思っていたのに…ショックだった。



 「あ、春ちゃん…よかった。起きたら隣にいなかったから心配してたんだよ。大丈夫?具合、悪くない?」

 まゆちゃ……まゆさんに言いたいことを言った後、部屋に戻るとさっきまでぐっすりと眠っていたりょうたが私を出迎えてくれた。

 「うん。大丈夫だよ。ちょっと朝のお散歩してたの。あ、昨日は迷惑かけてごめんね…」

 りょうたに今、私がしてきたことは知られたくなかった。だから、適当に部屋の外に出ていた理由を伝えてから話を変えて、もう、私にとって都合の悪い話は終わらせた。

 「昨日のこと覚えてる?」
 「あ、あまり覚えてない…んだけど……私、何か変なことした?」
 「ううん。いつもより可愛らしい甘えん坊な春ちゃんになってただけだよ。めっちゃかわいかった」
 「ちょっ…何それ…忘れて…恥ずかしい…じゃん……りょうた…私がかわいかったからって私に変なことしてないよね?」
 「し、してないよ」

 本当かな…朝、私を思いっきり抱きしめて寝てたやつに言われても説得力ない。まあ、りょうたに私に手を出す度胸はないか……

 「りょうさんたちは大丈夫かな」
 「大丈夫だと思うよ。さっき会ったし…ま、どうせ後で合流するだろうからさ。今は2人でいよう」

 さっき、春香ちゃんに今日も一緒にいよう。って連絡を送っておいた。春香ちゃんはまず、断らない。まゆさんとゆいさんも、断れないだろう。春香ちゃん、ごめんね。春香ちゃんのためだから……

 そうやって、春香ちゃんに心の中で何回も謝りながら私はりょうたと部屋の中でグダグダしていた。


 「まゆちゃん、どこ行ってたの?りょうちゃんとゆいちゃんは?」

 まゆが複雑な心境で部屋に戻ると春香ちゃんが明らかにご機嫌斜めな様子でぶすーっとしていた。不貞腐れていても春香ちゃんはかわいい。

 「春香ちゃん、りょうちゃんから伝言、後で2人でお散歩しようね。って……」

 春香ちゃんに伝言を伝えた時、先程、春ちゃんに言われた言葉を思い出した。りょうちゃんと、春香ちゃん、今は…2人きりになって欲しくない……と思ったが、そんなわがままは言ってられない。最初に抜け駆けしたのはまゆだから……

 「もう…ずるいなぁ…」

 なんとなく状況を察した春香ちゃんはそう言いながらスマホの操作を始めた。しばらくして、「あ、春ちゃんから今日も一緒に何かしよ。って連絡きてるよ」と嬉しそうにまゆに言う春香ちゃんを見て複雑な気持ちを抱きながら、今のまゆにできる限りの笑顔で、昨日までのまゆが言いそうな返事をしておいた。

 昨日までのまゆなら、心の底から、笑って喜べたのかな。今はなんか、ちょっとだけ、憂鬱だ……そんなまゆの気持ちを表すように、空が少しだけ曇ってきていた。






「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く