お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

ずっと側に






 「…………りっちゃん…………さん?」
 「起きたんだ。よかった。体調はどう?大丈夫?」

 薄暗い部屋のベッドで目を覚ますと、りっちゃんさんが私の手をギュッと握っていてくれていた。窓からは少しだけ日の光が見え始めていたことから、かなり早朝の時間であることはわかった。

 「えっと…だ、大丈夫です…」
 「そっか。なら、よかった。陽菜のことを春香ちゃんに聞いた時は本当に心配したんだよ」
 「ごめんなさい…」
 「謝らないでいいよ。今回は、無理せず誰かに助けて。って言えたんだからさ…」
 「春香ちゃんは?」

 お礼を言いたかった。いっぱい助けてもらったし、りっちゃんさんをここに連れてきてくれたのも春香ちゃんたちだろうから…

 「あまり大勢でいるのも病院に迷惑だからさ、私が残って帰ってもらったよ。陽菜ちゃんのお母さんも来てくださったけど、私と陽菜の2人きりにしてくれた。だから、陽菜は今から春香ちゃんとりょうちゃんとまゆちゃんとご両親に起きて元気です。ってちゃんと伝えてありがとう。って言いなさい」

 そう言ってりっちゃんさんは私にスマホを渡した。起きたばかりで上手いこと文章が考えられなかったけど、りっちゃんさんに相談しながら、陽菜自身の言葉で、助けてくれた人たちに感謝を伝えた。

 「一応、しばらく入院だって…」
 「やっぱり…そうですよね……」

 すごく言い辛そうな表情でりっちゃんさんは陽菜にそう伝えてくれた。覚悟はしていたけど…やっぱり、そう、なっちゃったか……

 「毎日、お見舞い来るから」
 「ありがとうございます。でも、無理のない範囲で大丈夫ですよ」
 「毎日、来るよ」

 やっぱり、りっちゃんさんは優しい。陽菜の気持ちを考えて、優しくそう言ってくれるのだから…そんな余裕…ないはずなのに…きっと、りっちゃんさんは毎日、笑顔で陽菜に会いに来てくれるんだろうな……

 「やっぱり、間に合わない…ですか?」
 「…………」
 「ごめんなさい……」

 りっちゃんさんに、こんな表情をさせてしまって申し訳ない。悪いのは…こんな時に限界を迎えてしまった陽菜の身体なのに……

 「謝らないで…うん。予定…では……間に合わない……みたい……」

 すごく悲しそうな表情で、りっちゃんさんは陽菜に言う。やっぱり、学祭までに退院できないかぁ。陽菜にとって、最初で最後の学祭かもしれないのに……残念……だなぁ。

 「…………学祭の日はさ、ここで2人でみんなの演奏聴こうよ。友達に頼んで、ビデオ通話で中継してもらってさ……」

 優しいなぁ。でも、りっちゃんさんの楽しい思い出になる時間を……こんな狭い部屋で過ごして欲しくない。

 「ダメですよ。係のお仕事とかもあるんですから、ちゃんと行って、陽菜の分まで楽しんで来てください。お土産に、学祭の話をいっぱい聞かせてもらえたら、陽菜は満足ですから……」
 「係の仕事は大丈夫。ちゃんと、優秀な後輩に引き継いでおくから……」
 「りっちゃんさんがいないと…演奏の質、下がっちゃいますよ……」
 「大丈夫、みんな、上手いから、私がいなくても、大丈夫」
 「陽菜の分まで…楽しんできてくださいよ……」
 「陽菜と一緒に、ここで過ごすよ。私には、それが一番の幸せだから……」
 「いいんですか?」
 「うん」

 迷わず、答えてくれたりっちゃんさんの優しい表情を見て、陽菜は泣いてしまう。泣いてしまった陽菜をりっちゃんさんは優しく抱きしめてくれる。

 「私には、陽菜と一緒にいてあげるくらいしかできないからさ…陽菜と一緒にいさせてね」
 「はい。ありがとう…ございます……」
 「早く、治してね。私を置いて…勝手にどこかに行ったら許さないから……」
 「はい。ずっと……りっちゃんさんの側にいます……」
 「うん。ありがとう。私も、陽菜の側にいるね」

 いっぱい泣いてしまった。学祭に出られない悲しさで泣いているのではなく…陽菜が大好きな人の優しさに……泣かされてしまった。

 その、優しさで、学祭に出られない悲しさも吹き飛んでしまいそうなくらい、陽菜は幸せだった。








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