お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

不甲斐ない






 陽菜ちゃんを病院に連れて行って、陽菜ちゃんのお母さんが来てくれるのを待つ。久しぶりに陽菜ちゃんのお母さんと会って、私とりょうちゃんを懐かしそうな表情で見つめていた。

 陽菜ちゃんのお母さんに陽菜ちゃんから頼まれたことがあるから一度病院を出ます。と伝えて私はまゆちゃんにお願いしてりっちゃんの元へ向かう。陽菜ちゃんの状態も気になるので、連絡係としてりょうちゃんは病院に置いていった。陽菜ちゃんから頼まれたこと…私なんかを頼ってくれたのに、私は何もしてあげられなかったから。これくらい、しっかりこなさないと……

 「まゆも行こうか?」
 「大丈夫。まゆちゃん、いっぱい運転させちゃって疲れてるだろうから少し休んでてよ」

 本当にあっちこっち振り回してしまったから結構長時間運転して疲れてるはずだ。だから、少しでも休んでて欲しかった。

 「ありがと。じゃあ、お言葉に甘えるね」
 「うん。じゃあ、行ってきます…」

 まゆちゃんにそう言って車から降りてお店に向かう。忙しい時間は過ぎたはずだから…そこまで迷惑にはならないはずだ。とスマホで時間を確認してからお店に入る。

 「いらっしゃいませーあれ、春香ちゃん?1人?どうしたの?」

 お店に入るとすぐにりっちゃんが出迎えてくれた。忙しい時間も過ぎていたみたいでお客さんはよく見かける常連さんだけでもう食事も終えているみたいだった。

 「りっちゃん、落ち着いて聞いて…陽菜ちゃん、今…病院にいる……」
 「え……」
 「さっきね。陽菜ちゃんから…連絡もらったの……体調悪いって……だから、陽菜ちゃんの様子見て…病院連れてった。今、陽菜ちゃんのお母さんも…病院に来てくれてる…」
 「本当に?」
 「うん。今、病院にりょうちゃんがいて、陽菜ちゃんのお母さんと一緒に陽菜ちゃんの診察終わるの待ってる」

 りっちゃんが混乱した様子を見せた為、私はりっちゃんに落ち着くように言う。

 「りっちゃん、今日はお客さんもう来ないだろうし、帰りなさい。陽菜ちゃんのところに行ってあげなさい」

 奥で話を聞いていた女将さんが、りっちゃんに優しい声で言う。

 「で、でも…」
 「いいから、行きなさい。春香ちゃん、りっちゃんのことお願いしていい?」
 「え、あ、はい」
 「ほら、りっちゃん、帰る準備しなさいな」

 そう言ってりっちゃんの手を掴んで奥に向かい、りっちゃんに帰る準備をさせてくれる女将さん、結局、私は何もできなかった。ただ、りっちゃんに陽菜ちゃんのことを伝えただけ…

 「女将さん、ありがとうございます」
 「いいから、早く行ってあげなさい。春香ちゃん、りっちゃんのことお願いします」
 「はい。行こ…りっちゃん…」

 私はりっちゃんと手を繋いでりっちゃんを連れ出した。りっちゃんは何回もありがとうございます。と言いながらお店を出る。

 「春香ちゃんもありがとうね。わざわざ伝えに来てくれて…本来なら、私が陽菜の側にいないといけたかったのに…」
 「りっちゃんは悪くないよ。あ、あと…陽菜ちゃんに怒るのはやめてあげてね。本当に、急に体調崩しただけみたいだし……学祭の仕事とかバイトで疲れてるりっちゃんには心配かけたくなかったから…って、私に頼ってくれたからさ…陽菜ちゃんに会ったら、一番最初に陽菜ちゃんと会えてよかったって言ってあげて…」
 「うん。ありがとう」

 そんなやり取りをしてからまゆちゃんの車に乗る。たぶん、陽菜ちゃんはりっちゃんが病院に来ることを望んでいるが、望んでいない。

 疲れてるりっちゃんに負担をかけたくないから、病院には来なくていい。と言う陽菜ちゃんとりっちゃんに会いたいから、病院に来て欲しいと言う陽菜ちゃん…たぶん、陽菜ちゃんの中では前者の方が強いだろう。だから、陽菜ちゃんと会った時、一番最初に、りっちゃんの口から、陽菜ちゃんと会えてよかった。と言って欲しかった。そうすれば、陽菜ちゃんは罪悪感を感じずに済むだろうから。

 私にはりっちゃんにそうやって言ってあげることくらいしかできなかった。それ以外何もできなかった自分が不甲斐なく感じてしまう。






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