お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

お迎え






 後期の講義が始まって1ヶ月ほどが経過する。後期の日程にもだいぶ慣れて、生活のテンプレも出来上がってきた時期の10月半ば…

 「めっちゃ疲れた……」
 「ほんとに疲れましたね………」

 土曜日の夕方、講義もないのに大学に来た僕は疲れた表情をしているりっちゃんさんの隣を歩いていた。

 「りっちゃんさんは今からバイトなんですよね?」
 「そうだよ……」

 すごいなぁ…僕だったら疲れたからってこの後何もしたくなくなるのに……

 僕とりっちゃんさんがめっちゃ疲れながら2人で大学にいる理由…それは、11月の頭にある学祭の打ち合わせがあったからだ。

 吹奏楽部はステージ演奏があり、その打ち合わせやポスターの作成・設置など、いろいろやることがあって、大学内を2人で走り回っていた。

 「よくこの後にバイトの予定入れましたね…」
 「あはは。私以外に入れる人いなかったから…まあ、陽菜がお客さんとして来てくれるって言うからどれだけ疲れてても頑張れるよ」

 相変わらずのバカップルコメントをいただいてお腹いっぱいです。まあ、たぶん、僕も…アパートに帰って春香とまゆとゆいちゃんの顔を見たら疲れなんて吹き飛ぶんだろうな……

 「あれ以来陽菜の体調は大丈夫ですか?」
 「うん。めっちゃ元気だよ。次、隠し事したら本気で陽菜との関係考え直す。って言ったから、最近はちょっと体調悪かったりしたら家で大人しくしてるし…」
 「そうですか。なら安心です」
 「あはは。大人しくしてる家が陽菜の実家だったら安心なんだけどね…」
 「あっ…なるほど…

 察した。陽菜が実家で大人しくしてるなんておかしいと思ったんだよ。ていうか、陽菜、ずっとりっちゃんさんのアパートにいるのかな……

 「もういっそのこと陽菜と一緒に住んだらどうです?」
 「現状、そんな感じだよ……陽菜、多くて週に1回しか帰らないから……」

 やば……と、思ったが、ゆいちゃんもそんな感じだわ。

 「まあ、でも…陽菜が側にいてくれると私も幸せだから…側にいて欲しいんだけどね……」
 「あはは。陽菜のこと、よろしくお願いします」

 陽菜の幼馴染みとしてりっちゃんさんにお願いする。陽菜を本当に幸せにしてあげて欲しい。と……りっちゃんさんは迷わずうん。と答えた。

 「じゃあ、りょうちゃん、私、こっちだから」
 「はい。お疲れ様です」
 「うん。お疲れ様。学祭まで、こういうことがあと何回かあると思うから覚悟しておいてね」

 引きつった笑みを浮かべて僕にそう言うりっちゃんさんを見送ってから僕は大学の駐車場に向かう。

 「りょうちゃん、お疲れ様」
 「まゆ、わざわざ迎えに来てくれてありがとう」

 笑顔で僕を迎えに来てくれたまゆを見て疲れは一気に吹き飛んだ。僕はまゆの隣に座ってシートベルトを付ける。

 「あれ、春香は?」
 「ちょっと手が離せないことがあって来れなかったの。りょうちゃんを迎えに来れなくてめっちゃ残念そうにしてたよ」

 ゆいちゃんはバイトで不在だが、春香は特に予定がなかったから、春香も一緒に来てくれるかな。と思っていたが、急用ができたみたいだ。

 「りょうちゃん、本当にお疲れだね…」

 僕の表情を見てまゆは笑いながら言う。僕の表情を見ただけで僕が疲れきっていることを察してくれるのはさすがとしか言いようがない。

 「……………」

 謎の静寂が訪れる。最初は、まゆが疲れている僕を休ませる為に黙ってくれているのかな…と思ったが、まゆの表情を見ると違う。と一瞬でわかった。先程から、まゆは僕に何か言おうとしているが口を開いたところで言葉を発するのを止めている様子だった。

 「まゆ、どうしたの?何か言いたいことあるならなんでも言ってくれていいよ」
 「え?」

 僕に声をかけられて驚いた表情をするまゆがかわいかった。なんで、わかったの?と聞かれたが、たぶん、僕とまゆの立場が逆だったらまゆも気づいてるよ。と答えた。

 僕は、まゆのことが大好きだから、いっぱいまゆの表情を見ている。だから、いつもとちょっと違うことがあれば、なんとなくは分かる。

 「今ね。春香ちゃん、陽菜ちゃんのところにいるの」
 「え!?陽菜に何かあったの?」
 「お、落ち着いて…まだ、よくわからないの。りょうちゃんを迎えに行こうとしてたら陽菜ちゃんから春香ちゃんに電話がかかってきて…体調悪いから助けてって……りっちゃんは今日、部活の仕事とかバイトとかで忙しいくて頼めないからって…だから、りょうちゃん迎えに行く前に春香ちゃんだけりっちゃんのアパートに送ったんだけど…」

 まゆも、動揺しているみたいだった。同じパートの後輩がそんな状況になってたら、そうなるよね。

 「まゆ、落ち着いて、大丈夫だから…春香と連絡は取れてる?」
 「さっきから音沙汰ない……」
 「そっか…とりあえず、りっちゃんさんのアパート付近で待機しよう。もし、何かあったら春香から連絡くるだろうし、何かなかったとしても、春香を迎えに行かないといけないもんね」
 「う、うん。そうだね」

 まゆはすぐにりっちゃんさんのアパートの方に車を走らせて近くのコンビニで待機をするが、全然落ち着けなかった。幼馴染みとして、陽菜のことが、本当に心配で、春香からの連絡が来るまでは生きた心地がしなかった。






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