お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

初めての合奏





 「嫌すぎる…」

 合奏の時間の少し前、まゆは椅子に座るりょうちゃんの膝の上に腰掛けて背後からりょうちゃんに抱きしめてもらいながらそう呟いていた。

 「まゆなら大丈夫だよ。まゆの指揮楽しみにしてるね」
 「それ、励ましじゃなくてプレッシャーだよ……まゆ、泣くよ」
 「あー、ごめんね。で、でも、まゆなら本当に大丈夫だと思うよ。怖かったり、嫌がってないでさ、せっかくなんだから楽しみなよ。指揮者なんて、みんなから認められてないとさせてもらえないんだよ。せっかくの機会、楽しまないと損だよ」

 まあ、たしかに……そう。かな……せっかくだし、楽しむ。か……うん。音楽だもんね。音を楽しまないと……危うく、みんなの前で、緊張して、音が苦をするところだった。せっかくの機会だし、きちんと音楽して楽しもう。

 「もう、大丈夫?」
 「うん。ありがと。せっかくだし、いっぱい楽しんでみる」
 「うん。よかった。まゆがやる気になってくれて……がんばってね。あ、あと…指揮振ってる時は…笑顔でいて欲しいな。まゆの笑顔見ながら吹いた方がテンション上がる…」
 「なぁに。それ…まあ、それくらいなら…いいよ」

 まゆの返事を聞いて嬉しそうな表情をしてくれるりょうちゃん。かわいいなぁ。まゆの笑顔なんてりょうちゃんが望めばいくらでも見せてあげるのに……

 
 そんな感じのやり取りをして、ホールの舞台に向かう。指揮台の前で及川さんが待っていてくれたので、基礎合奏のメニューのおさらいと、初見合奏する曲で、テンポが切り替わるところの指揮の振り方を軽く教えてもらうが、基本的にはまゆの好きなように振ればいいとのことだった。

 というわけで合奏の時間、合奏前にまゆはりっちゃんと並んで指揮台の前に立つ。

 「先程2年生で話し合って、次期団長は私で学生指揮者はまゆちゃんという形で仮決定をしました。まだ、正式決定ではありませんがよろしくお願いします。とりあえず、今から、まゆちゃんにいきなり指揮振って。と無茶振りをしてあるので…まゆちゃん、後はお願いします」

 全体に向けて軽い挨拶だけしてりっちゃんはさっさと自分の席に戻ってしまう。りっちゃんが隣に居なくなって、今、指揮台の前で立っているのはまゆだけ。と思うと、どうしても緊張してしまう。

 だから、まゆはりょうちゃんの顔を見た。そして、りょうちゃんに笑顔を向けて、気持ちをリセットする。

 「先程、りっちゃんからも説明があった通り、今日の合奏はまゆが担当させていただきます。初めてのことなので上手くいかないことが多々あると思いますが、精一杯頑張るのでついてきてください。あと、何か意見ありましたら直接言っていただけるとありがたいです。一からのスタートなので、いろいろな意見を聞いて、いろいろ教えていただいて、いろいろ考えて、みんなで音楽がしたいです」

 まゆがそう言うとりょうちゃんと春香ちゃんとりっちゃん、ゆいちゃん、及川さん、みーちゃん、あーちゃん先輩が拍手をしてくれて、それに合わせてみんなが拍手をしてくれたので、まゆは慌てその場で頭を下げる。

 「では、まず、基礎合奏からお願いします」

 基礎合奏は無難に済ませる。いつも、及川さんがしているメニューをこなして、まゆが思ったことを伝えるが、思ったことを言葉にして伝えることの大変さを思い知る。

 「じゃ、じゃあ、次、曲合奏やります。とりあえず、テンポの切り替えの箇所を一回練習さしてもらってから通し合奏で大丈夫ですか?」

 いきなり曲合奏はきついので、曲合奏の雰囲気を知る為にテンポの切り替え練習をお願いした。

 テンポの切り替えの練習をした際に思ったこと、このままじゃだめだ。と思った。このままだと、まゆはいらない。メトロノームで十分になってしまう。まゆは指揮者でメトロノームじゃない。指揮者として、まゆは、まゆに出来ることをしないといけない。では、まゆに何ができる?

 そう考えていたら、通し合奏が始まってしまう。今のまゆはただのメトロノーム…このままじゃ…ダメだ。






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