お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

旅行の終わり






 「りょうちゃん、八つ橋食べよ!」

 人力車を降りて、まゆとゆいちゃんと合流すると、まゆがすぐ近くにあったお土産屋さんの八つ橋を指差して言う。

 「そうだね。いくつか買ってこうか。まゆはご両親の分とかも買ってかないといけないもんね。あと、部活用に幾つか買ってこうか」

 まゆの提案に賛成しながら八つ橋をいくつか購入しようとするが、今日はまだまだ予定があり移動する際邪魔になる。八つ橋は京都なら割とどこにでも売っているので、とりあえず今、僕たちが食べる分だけを購入して近くの広場のベンチに座る。

 「また負けたぁ……」

 僕の両隣に座る春香とまゆを見てゆいちゃんは残念そうに言う。また、春香がゆいちゃんに譲ろうとしないように僕は春香の手を握る。

 「あ、そうだ。じゃあ、これはダメ?」

 そう言いながらゆいちゃんが僕の膝の上に座る。か、かわいいけどさ、これはさすがに恥ずかしい…周りの目線が……

 「ゆ、ゆいちゃん!?さ、さすがにここでそれはダメ。ほ、ほら、場所変わってあげるからこっち座りなよ」

 春香は慌ててゆいちゃんにそう言って、僕の隣を開ける。それを見たゆいちゃんはえ、でも…と言うが、春香に腕を引かれて僕の隣に強制的に移動させた。

 「さ、ほら、八つ橋!早く食べよ!」

 僕もまゆもゆいちゃんもどこか納得のいかない。というか、複雑な表情をしているのを見て春香は笑顔で言って先程買った八つ橋の袋を開けてみんなに配ろうとする。

 春香の優しさと気遣いを無駄にしないために僕とゆいちゃんは笑顔で春香から八つ橋を受け取る。その後は、なんか、少しだけ空気が重いような感じがした。いろいろな場所を回ったが、空気は明るくならず、写真も…思い出も…午前から増えていない。

 「ゆいちゃん、まゆが送ってくから今日は帰ろう。りょうちゃん、まゆ、今日実家に帰るね。京都のお土産渡したいからさ……」

 帰りの車の中でまゆが僕に言う。ゆいちゃんは黙って頷いた。春香は…

 「え、まゆちゃんもゆいちゃんも帰っちゃうの?今日も一緒にいようよ」
 「春香ちゃん…無理、しないの。今日は、まゆもゆいちゃんもいないから」

 まゆは春香にそう言って、それ以上、この話をしようとしなかった。

 楽しいはずの京都旅行は…あっという間に終わった。最初はすごく幸せだったのに…結局、僕は3人を幸せにできなかった。

 「りょうちゃん、春香ちゃんのことよろしくね」

 僕たちが暮らすアパートの駐車場に車を停めて、僕と春香を降ろすときに、まゆは小声で僕に言う。

 そして、ゆいちゃんを連れて駐車場から去っていった。

 「春香、部屋に入ろう。疲れたよね。今日は2人でゆっくり休もう」
 「う、うん…」

 明らかに不満がある感じだった。いや、不満ではない。たぶん、不満ではなく、不安なのだろう。正直、僕も不安だ。

 「りょうちゃん、私たち、4人で幸せになれるよね……」

 泣きそうな表情で僕に言う春香…幸せにする。と、決めた人にこんな表情をさせてしまい、罪悪感を感じる。幸せになれるよ。幸せにする。そう、言ってしまうのは簡単だった。でも、今の春香の前で、そんな出まかせを言いたくなかったし、言えなかった。

 僕は春香を抱きしめる。今の僕にはそれしかできない。目の前で泣く。僕の1番大切な人を抱きしめることしか……

 大丈夫だよ。と言ってあげたい。でも、声が出なかった。まるで、僕が、今、大丈夫ではない。と言うように、僕は声を出すことができなかった。

 「りょうちゃん、りょうちゃんはずっと、私の側にいてくれる?」

 泣きながら、縋るように僕に尋ねる春香…これだけは答えられた。今、僕の側には春香しかいない。春香までいなくなったら僕も耐えられないから……

 「りょうちゃん、助けてよ。なんとかしてよ。いつもみたいに…なんとかしてよ。4人で幸せになりたい……」

 子どものように泣き出す春香の頭を撫でながら僕は春香を連れて部屋まで歩いた。







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