お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

お別れしよう。






 「ゆいちゃん。まだ、起きてるよね?」

 電気を消して暗くなったリビングで、少し離れた場所に敷かれている布団で眠っているはずのゆいちゃんに僕は声をかける。

 「うん。起きてるよ…りょうくんがすぐ側にいるって思うと寝れなくて……」
 「ゆいちゃん、じゃあ、少しだけお話ししたいんだけどいいかな?」
 「いくらでも話してくれていいよ。全部聞くから」
 「ありがとう。電気、付ける?」
 「このままで大丈夫だよ」
 「わかった」

 正直、電気を付けたかった。電気を付けて、ゆいちゃんの顔を見ながら話をしたら、ゆいちゃんがどう思うのかすぐに分かるから…電気を付けないと、無意識のうちにゆいちゃんを一方的に傷つけてしまうかもしれない。だから、そうならないために電気を付けたかった。

 でも、そうしないでゆいちゃんに付けていい?ではなく、付ける?と尋ねたのは…きっと、怖かったからだ。電気を付けて、ゆいちゃんを傷つけたら、ゆいちゃんの悲しむ表情を見ることになってしまう。それは、僕が辛い…ゆいちゃんの悲しむ表情は見たくない…ゆいちゃんを傷つける覚悟なんて…できないから……だから、判断をゆいちゃんに委ねた。ゆいちゃんが選んだから電気を付けなかった。と、後で何かあったときに自分に言い訳をするために…僕は、本当にずるい人間だ……

 「話す前に、ひとつだけいい?」
 「え、あ、うん…」

 話を始めようとしたタイミングでゆいちゃんにそう言われて僕は慌てて返事をする。

 「私さ、やっぱり、りょうくんのこと大好き。きっと、この感情は消えない。もし、りょうくんが、私のこの感情が邪魔だっていうならさ、もう、私のことなんて気にしないで…りょうくんが、私のこの感情を邪魔って言うなら…りょうくんにとって、この感情が迷惑なものになるのなら、私はもう、りょうくんの前からいなくなるよ。今日で、りょうくんと関わるのは最後にする。ごめんね…りょうくんの話を聞く前にこんなこと言って…でもさ、りょうくんの話を聞いた後にこう言うのは嫌だったの。りょうくん、私のこの感情…私がりょうくんのことを大好きだって感情がいらないなら、私を切り捨てて…」

 きっと、ゆいちゃんは泣いている。鼻を啜るような音と、涙を拭うような音を立てながら、ゆいちゃんはゆっくり僕にそう言った。きっと、ゆいちゃんは今から僕が何を話そうとしているのかを薄々気づいていたのだろう。春香とまゆがこの場にいないで、僕とゆいちゃんを2人きりにした時点で、悟っていたのだろう。

 極端すぎる…と、思う。でも、それは僕の立場だから言えるのかもしれない。僕が、ゆいちゃんの気持ちを拒んで、ゆいちゃんと今後も仲良くする道を選んでも、ゆいちゃんからしてみれば、その道は、辛いものだろう…大好きな人が自分以外の人と幸せにしているのを間近で見ながら、絶対に自分に振り向いてくれない人と仲良くしないといけないのだから……だから、ゆいちゃんには、この極端な2択しかないのだろう。ゆいちゃんのことを考えると、この2択から選んであげた方が優しさなのだろう。

 そうなると、選択は1つしか残らない。僕は、ゆいちゃんの気持ちには応えられないから。でも、素直にはあきらめられない…わがままだけど、ゆいちゃんは僕にとって大切な友達だから…そうでなかったら、ゆいちゃんはこの場にいないし、こんなに悩むこともなかった。ただ、一方的にゆいちゃん傷つけて別れを告げただろう。

 でも、ゆいちゃんにそんなことはできなかった。ゆいちゃんは大切な友達だから……

 「ゆいちゃん、わがまま言わせて…ゆいちゃんと友達でいたい」
 「私もそうしたかったし、そうするつもりだった。でも、無理、我慢できない。どうしても、りょうくんのこと、好きって思っちゃう。だから、選んで…私を切り捨てて、大丈夫。覚悟はできてるから……」

 脅しなんかではない。私と仲良くしたかったら付き合え。と言う脅しではなく、ゆいちゃんはもう、僕と縁を切ることを覚悟していた。期待なんて全くしておらず、ただ単に別れを告げてほしい。と、本気で思っているみたいだった。それなのに、僕はゆいちゃんを傷つけたくないとか、ほかに選択肢はないのか、とか、曖昧で中途半端な覚悟しかできていない。このままの状態で、僕がゆいちゃんと話しても、最終的にはより一層、ゆいちゃんを傷つけてしまうだけではないのかと思う。

 ならば、もう、この場で、終わらせた方がいいのかもしれない。ゆいちゃんと友達でいたい。と言う僕のわがままは捨てて、ゆいちゃんの望み通り、終わらせることが、ゆいちゃんのためなのかもしれない。

 「わかった。今日で終わりにしよう」
 「ありがとう」

 涙声でゆいちゃんはそう言って、布団の中で泣いていた。側に行って慰めてあげたかった。でも、僕にそんな資格はなかった。






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