お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

怒りの矛先





 「りょう君は黙っててね」

 僕の実家の玄関から庭に移動してすぐにみのり先輩は僕に言う。私が用があるのはまゆだけだから…と…

 「りょうちゃん、そこにいてくれればいいから」
 「わかった」

 まゆにそう言われると僕には断ることはできない。まゆは少しだけ足を震わせていたのでそっと手を繋いであげる。

 「あらあら、見せつけてくれちゃって…そもそもりょう君もりょう君で悪いよね。あんなに春香ちゃんのこと大好きだったのに大学入ってまだ半年も経っていないのにそんな子と付き合ってさぁ…」
 「りょうちゃんを悪く言わないで…まゆのことならいくらでも悪く言ってくれていいから……悪いのは全部まゆなの…りょうちゃんと春香ちゃんが両想いってわかってたのにりょうちゃんと春香ちゃんの間に強引に入り込んだのはまゆなの。まゆが全部悪いの…だから、りょうちゃんや春香ちゃんを悪く言うのはやめてください」

 まゆは必死になってそう言ってくれる。それを聞いたみのり先輩はまゆを好き放題悪く言っていた。僕や春香に向けることのできない怒りを全てまゆにぶつけているみたいで、僕はその様子を黙って見ていることなんてできるわけがなかった。

 「みのり先輩、やめてください…まゆも、自分が全部悪いなんて言わないで…まゆを選んだのは僕、まゆを受け入れたのは僕と春香、大丈夫、まゆは悪くない。まゆが悪いってなったら僕と春香も悪くなる。僕たちの関係が悪いものになっちゃう。僕たちは幸せでしょう?悪くなんてない。だから、胸を張って堂々としていればいい」
 「りょう君、黙って」
 「みのり先輩も、まゆに怒りの矛先を向けないでください。僕に向けてください。これ以上、まゆを責めるなら許さないですよ」

 僕が静かにそう言うと、みのり先輩は黙り込む。

 「みのり先輩、春香のこと、本当に心配してくれてありがとうございます。でも、それで喧嘩していたら元も子もないですよ。みのり先輩、春香と仲良いから知ってると思いますけど、春香、意固地になってるだけで本当はみのり先輩と仲直りしたいはずです。お願いですから、春香と仲直りしてあげてください。みのり先輩だって、本当は仲直りしたいんじゃないですか?みのり先輩も怒るとなかなか意固地になっちゃうから、僕の家に来たはいいけど、春香と話せないからまゆを呼んだんですよね?だから、まゆが僕が側にいることを条件に出した時に拒否しなかったんですよね?お願いします。春香と、話して仲直りしてあげてください」

 みのり先輩に頭を下げて誠心誠意お願いをする。

 「春香ちゃん連れてきて…」
 「ありがとうございます。まゆ、お願いしていいかな?たぶん、僕が呼んでも来てくれないだろうからさ、まゆにお願いしたい」
 
 たぶん、僕が呼んでも春香は意固地になって来てくれない。でも、まゆが呼んでくれれば違う結果になるかもしれない。と思いまゆにお願いをするとまゆは笑顔でわかった。と答えてくれて家の中に入って行く。

 「まゆ、いい人でしょう?」

 まゆが居なくなって僕はみのり先輩に言う。きっと、まゆはみのり先輩に苦手意識を持っている。みのり先輩にボロクソに言われてからまだあまり時間が経っていないにもかかわらずに、春香とみのり先輩が仲直りするために笑顔で協力してくれる。そういう広い心を持ったまゆのことを僕は大好きだ。

 「そう、だね…」
 「もし、春香と仲直りできたらまゆとも少し話してあげてください。たぶん、喜ぶと思いますよ」
 「そう、だね……」
 
 何かを考えているような様子でみのり先輩は淡々と返事をする。春香とみのり先輩が仲直りをして、まゆがみのり先輩と仲良くなる。そんな未来をイメージしながら僕は春香とまゆを待つ。






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