お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
意固地
 「りょうちゃん、まゆちゃん、そろそろ起きて」
 「「あと5分」」
 朝、春香に起こされるが昨日の夜、結構遅い時間まで花火したりしてはしゃいでいたせいでまだ眠かった。僕とまゆが綺麗にハモリながらまだ寝たい。と言うと春香に掛け布団を取り上げられた。
 「ほら、起きて。朝ごはん出来てるから、早く食べないとおばさんに怒られるよ」
 エプロン姿の春香にそう言われて僕とまゆは起き上がる。あれ、そういえばまゆも今日の朝は春香とお母さんと料理する!って言ってなかったっけ?
 「え、春香ちゃん、何で起こしてくれなかったの?」
 「起こしたよ」
 「えー」
 「つい今さっき起こした時と同じこと言って寝たよ」
 春香にそう言われて返す言葉がなくなったまゆの表情が少しだけ面白かった。まあ、春香みたいにしっかり朝の支度してくれてるのもいいけど、ちょっと朝が弱いくらいの方が可愛げがあっていいと思うよ。
 朝食をいただいた後、まゆは僕のお母さんと2人でお話ししたいと言い、お母さんと2人で朝食の後片付けをしてくれた。その間、僕と春香はリビングのソファーに座ってまゆを待っていた。
 「春香、大丈夫?」
 「え、何が?」
 「みのり先輩のことだよ。このままでいいの?」
 春香が、みのり先輩と喧嘩のようなやり取りをして帰って来たと言う話は昨日、春香から聞いた。春香とみのり先輩が本当に仲良しなのを知っているから、このままにしておくのは心配だ。このまま、何事もなくアパートに帰ってしまったら、春香とみのり先輩はもう二度と昔のように仲良くいることはないような気がしていた。そんなのは僕が嫌だった。
 「私にはりょうちゃんとまゆちゃんがいるもん。だから、私は大丈夫だよ」
 私は大丈夫。と言う春香から、みのり先輩のことを心配していることは伝わって来た。春香は本気で怒ると割と意地っ張りになる。だから、自分からはみのり先輩を心配しているとか、仲直りしたい。とはなかなか言わないだろう。でも、今の春香の言い回しから春香がみのり先輩のことを心配していて仲直りしたいと思っていることは伝わってきた。
 「ねーお母さん。今日のお昼に豆腐入りの味噌汁飲みたい」
 台所まで聞こえる大きさで僕が言うとお母さんがはぁ?と言い、豆腐ない。と言ってきた。予想通りだ。
 「買ってくるからさ。お願い」
 「わかったわ。じゃあ、ついでに他の買い物もお願いしていい?」
 「うん。春香連れてくけどまゆはどうする?」
 まゆにどうする?と聞いておいて春香に見られないようにまゆにジェスチャーで春香と2人で買い物に行かせて。とお願いしてみる。すると、すぐに意図が伝わったみたいでお母さんと家にいる。と言ってくれた。今度何か埋め合わせします。
 と、言うわけで春香を強引に連れ出して商店街に向かう。
 「りょうちゃん、役割分担ね。りょうちゃんは豆腐屋さんね。私は八百屋さんに行くから」
 「えー。せっかく春香と2人きりだからゆっくり2人で買い物したいなぁ…」
 「………ありがとう」
 「どういたしまして」
 僕は春香と手を繋いで豆腐屋さん目掛けて歩き始める。
 「いらっしゃい……」
 普段なら元気よくいらっしゃいませ。と出迎えてくれるのだが、僕たちを見た瞬間、すごく嫌そうな表情をされた。
 「ご用件をどうぞ」
 「木綿豆腐お願いします」
 豆腐屋さんの娘で、バイト店員のみのり先輩に尋ねられて春香は淡々と返事を返す。
 「あれれ?そういえば、邪魔者さんがいないね。私の警告通りちゃんと捨てたの?」
 「みのり先輩…」
 みのり先輩も春香と同じで怒ると意地っ張りで手がつけられない性格だからなぁ…普段なら絶対こんなこと言わない人なのに……
 「まゆちゃんならりょうちゃんの家でお母さんと仲良くお留守番です。これからも3人で幸せに過ごす予定なのでみのりさんはご心配なく…」
 「あーあー、そーですか。あの邪魔者捨てて2人で謝りに来たのかと思いましたわ。どーぞ3人でご勝手に幸せになってください」
 そう言い合いながら木綿豆腐とお金のやり取りを春香が済ませてしまう。
 「りょうちゃん、まゆちゃんが待ってるからかえろ」
 「え、ちょっ、春香…み、みのり先輩も…」
 「はぁ…店先に塩撒くの大変だなぁ……」
 春香もみのり先輩も完全に意固地になっていて手がつけられない。僕は春香に引っ張られて店を連れ出される。店を出る瞬間、みのり先輩の寂しそうな表情が見えた。店を出てから、春香の悲しそうな表情を見た。やっぱり2人とも意固地になっているだけで、本当はまた、仲良くしたい。と思っているはずだと思った。
 今日と明日、アパートに帰るまでに、2人の関係をどうにかしないとな…と思いながら僕は春香と買い物を済ませて家に帰った。
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