お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

お見舞い





 「陽菜、大丈夫?」

 コンクールの打ち上げが終わった数日後、私は病院を訪れていた。コンクールの打ち上げでやたら静かで私の部屋にお泊まりに来ないで真っ直ぐ帰宅しておかしいな。と思っていたらこの有様だ。

 私は陽菜ちゃんが寝ていたベッドの隣に置かれていた椅子に座る。

 「あはは。大丈夫ですよー慣れっこなので…心配かけてごめんなさい。試験とかコンクールで疲れが溜まっていただけですよー」

 私に心配かけないようにしているのか本気で言っているのかわからないけど、陽菜ちゃんが今、ここにいるということは前者ではないかと私は思っている。

 「まったく、陽菜が入院したって聞いてびっくりしたし心配したんだからね」
 「ごめんなさい…わざわざお見舞いに来てくださってありがとうございます。たぶん、数日したら退院させてもらえるはずなので、また、お泊まりしに行きたいです」
 「本当に、大丈夫なの?」

 私が尋ねると陽菜ちゃんは一瞬困った表情をして病室の窓の外を眺めた。余計なことを聞いたかな…陽菜ちゃんは聞いて欲しくなかったかな。といろいろ考えて、私は後悔した。

 「りんご食べる?皮、剥いてあげるけど」
 「うさぎさんにしてほしーです」

 子どもかよ。と思いながら私はクスリと笑う。そして陽菜ちゃんのお見舞いに買ってきたりんごの皮を剥いてあげる。

 「お見舞いの時って何でフルーツを持ってくることが多いんですかね?しかもりんご率がやたらと高い気が…」

 私が無言でりんごの皮を剥いていると、陽菜ちゃんは病室の棚に置かれていたお見舞いのフルーツ籠を眺めながら言う。

 「え、なんでだろうね。調理しないでも食べられるし栄養にいいから…とかなのかな?」
 「そーなんですかねぇ。長いこと入院していて最大の疑問でした」
 「ググりなよ」
 「わざわざ調べるほどのことでもないので」
 「たしかに」

 先程まで重かったはずの空気がいつのまにか少し明るくなっていた。相変わらず陽菜ちゃんは重い雰囲気を軽くするのが上手い…

 私はりんごの皮を剥き、病室にあった棚から小皿を借りてりんごを置いてフォークと一緒に陽菜ちゃんに渡す。それにしても、大学生が個室に入院するなんて贅沢な…複数人がいる部屋に入院していると思ったから病室のネームプレートを見てかなりびっくりした。しかもそこそこ広いし…

 「はい、食べていいよ」
 「ありがとうございます。食べさせてくださーい」
 「甘えないの」
 「えへへ。でも、陽菜病人だから甘やかしてください」
 「あれ、もう大丈夫じゃなかったっけ?大丈夫なら甘やかさなくていいんじゃない?」
 「あー、アタマイタイです。あーイタイイタイ」
 「頭痛いんじゃなくて頭悪いんでしょ。仕方ない…ほら、あーんして」
 「あーん」

 陽菜ちゃんは満面の笑みで口を広げる。かわいいなぁ。私はりんごを1切れフォークに刺して陽菜ちゃんに食べさせてあげる。

 「今まで貰ったお見舞いのフルーツで1番美味しいです」
 「そっかそっか、喜んでもらえてよかったよ」
 「えへへ、りっちゃんさん、ついでに陽菜を抱きしめてもっと喜ばせてくれてもいいんですよ」

 陽菜ちゃんは両手を広げて抱きしめてと言うのをアピールする。素直でかわいいなぁ。

 「だーめ。退院するまでお預け」
 「えー、じゃあ、退院したらすぐお泊まりしていいですか?」
 「退院の日くらいはちゃんと家に帰りなさいよ…両親も心配でしょうに…」
 「じゃあ、陽菜が退院する日うちにりっちゃんさんがお泊まりに来てください」

 うーん。私が陽菜ちゃんの家にお泊まりかぁ…まあ、陽菜ちゃんからもいつか来てください。と言われていたし…でも、やっぱり退院日は家族水入らずで過ごした方がいいのではないだろうか…

 「りっちゃんさんが来てくれないなら陽菜、りっちゃんさんの部屋に押しかけますから」
 「わかったよ。じゃあ、陽菜の退院日は陽菜の家にお泊まりさせてもらおうかな…あ、でも、ご両親の了承をきちんと得ることが条件だからね。わかった?」
 「はーい」

 と言いながら陽菜ちゃんはスマホを操作する。数秒後にはお母さんの許可が降りたみたいで、陽菜ちゃんが退院する日、私は陽菜ちゃんの家にお泊まりしに行くことになった。

 彼女?の家にお泊まりかぁ…それも実家…ご両親に何かお土産的な物を持っていくべきなのだろうか。わからないなぁ。後で春香ちゃんあたりに相談するか…などと考えながら陽菜ちゃんとお話しているとあっという間に面会時間は終わり陽菜ちゃんにお別れを告げて病室を出る。病室を出る時泣きながら陽菜ちゃんにまだ帰らないで〜と駄々をこねられた時は割と頭が痛くなったりした。あれが、私の彼女かぁ…めっちゃかわいいわ。







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