お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

元通り






 「あ、春香ちゃん、昨日様子変だったけど大丈夫?」

 翌日、4限の授業が終わり部活の練習のためにホールに入るとホールに入ってすぐのところでりっちゃんと陽菜ちゃんが並んで座っていた。それを見て一瞬、ムッとしてしまう私はおかしいのだろうか……

 「うん。大丈夫」

 私はりっちゃんの問いかけにそっけなく答えてさっさと楽器庫に向かう。

 「ばかは私なのに……」

 さっきから、頭の中でずっと、りっちゃんのばか。と繰り返している。りっちゃんは何も悪くないのに。私が勝手に妬いて拗ねてるだけなのに……私のわがままでりょうちゃんやまゆちゃんにも心配や迷惑をかけて、本当に申し訳ない。

 「ひゃっ……」

 いろいろ考え込んでしばらく楽器庫でボーっとしていたら突然後ろから誰かに抱きしめられた。慌てて後ろを振り返ると、まゆちゃんとのピアノ練習を終えたりょうちゃんが私を抱きしめた犯人だった。

 「ちょっと、いきなり抱きしめないで……びっくり、する。じゃん……」
 「ごめんごめん。でも、なんか、春香の感情がどこか行っちゃってたからさ」

 まあ、たしかに…自分でも思うよ。魂が完全に抜けていた気がするって……

 「りっちゃんさんも心配してたよ。昨日からりっちゃんさんから連絡もらっても返事してないんだって?昨日りっちゃんさんから僕に春香のことよろしくね。って連絡来たんだからね」
 「………そうなの?」

 ちょっと嬉しかった。昨日、りっちゃんは陽菜ちゃんと一緒だったはずなのに…私のこと、心配してくれてたんだ。って……やっぱり私、めんどくさいな。

 「春香はいろんな人に心配されてるからね。僕もだし、まゆも、りっちゃんさんも…春香のこと心配してる。みんな春香のこと大好きだから。春香のこと心配するんだよ」

 りょうちゃんから言われた一言、たぶん、りょうちゃんは当たり前のことのように言ってくれた一言、その一言を聞いて…なんで、私は妬いて拗ねていたのだろう。と思ってしまった。

 「りょうちゃん、ありがとう。大好き。ちょっとりっちゃんのところ行ってくる」
 「うん。行ってらっしゃい」

 りょうちゃんは笑顔で私を楽器庫から見送ってくれた。

 

 「りっちゃん…」
 「あ、春香ちゃん。大丈夫?」
 「大丈夫じゃない」

 私の返事が意外だったのかりっちゃんは呆気に取られた表情をする。ごめんね。少しだけわがまま言う。

 「りっちゃんごめんね。心配してくれてありがとう」
 「え、いや…うん。まあ、うん」

 りっちゃんが完全に混乱している。こんなりっちゃん見るの久しぶりの気がする。

 「私、りっちゃんのこと好き。だから陽菜ちゃんに取られて嫉妬してる。りっちゃんは普通に関わってくれたらいいって言うけどやっぱり陽菜ちゃんに申し訳ないしさ……」
 「え、あ、ごめん……」
 「りっちゃんは私のことどう思ってるの?好き?嫌い?どっち?」
 「え、あ、うん。好き……だよ」

 りっちゃんが顔を赤くしながら私に好き。と言ってくれる。嬉しい。

 「じゃあ、りっちゃんの方から私を甘やかして、可愛がって、もっとかまって…じゃないと私、りっちゃんに嫌われたとか避けられてるとか、もう今までみたいにりっちゃんに関わったら迷惑とか、よくないことばかり考えちゃうから……」

 私、めっちゃわがままだな。って言っていて自分でも思う。でも、たまにはこうやってわがままを思いっきり言うのも悪くない。あれ、でも、りっちゃんには割といつもわがまま言っていた気がする……まあ、いいか。

 「春香ちゃんはわがままだねぇ」

 そうですが、何か?

 「春香ちゃん、抱きしめていい?」
 「いいよ」

 私の答えを聞いたりっちゃんが私を抱きしめる。りっちゃんに抱きしめられるのは久しぶりのような感じがする。

 「春香ちゃんからもわがまま言ってくれていいんだからね。私は変わらずに春香ちゃんのこと大好きだから…でも、ごめんね。私が1番大切にしないといけないのは陽菜ちゃん、これだけは譲れない」
 「いいよ。ありがと。じゃあ、これからは遠慮なくわがまま言う」
 「はいはい」

 りっちゃんに好きって言ってもらえて嬉しかった。陽菜ちゃんと付き合って、私になんて興味がなくなって、りっちゃんにわがままばかり言って迷惑ばかりかけていた私なんて、りっちゃんにとっていらない子なのかなって思っていたけどそんなことなかった。安心した。




 「春香、今日、パート練習どうする?」
 「一緒にやろ!」
 「うん。わかった。じゃあ、また後で来るね」
 「はーい」

 よかった。春香の自然な明るい表情が見れた。もう、大丈夫みたいで一安心だ。やっぱり春香はああやって笑っている方がかわいいよ。

 りっちゃんさんと何があったのかはわからないけど、ああやって笑顔の春香を見られたから、春香を信じて正解だった。
 ちょっとだけ、りっちゃんさんに妬いてしまう。春香にあんな素敵な笑顔をさせることができるりっちゃんさんを羨ましく思う。






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