お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

仲間として




 「陽菜ちゃん、そこ、もう少しテンポ良く吹けないかな?」

 午後、サックスパートの先輩たちも合流したが、先輩たちは音出しや基礎練習でパート練習には合流しない。今は午前と同じようにまゆと陽菜ちゃん、みーちゃんの3人でパート練習を行っていた。バリサク同士ということもあり、みーちゃんはいろいろと陽菜ちゃんに教えてあげていた。

 「マーチなんだからさ、もっと軽やかに吹こうよ。私たち低音が楽しくなるようにノリノリな感じでやらないと周りがついてきてくれなくてもたついた感じになっちゃうからさ。できる?」

 午前も、みーちゃんは陽菜ちゃんに同じ指摘を何度もしていた。いろいろな指摘をして、陽菜ちゃんがきちんとできるように一緒に試行錯誤していて、みーちゃんは先輩としてすごく立派だと思う。でも…陽菜ちゃんは…

 「やっぱり、陽菜、コンクール出ないことにします。直前に迷惑かけてしまうかもしれないですし…みはね先輩の足を引っ張りたくないですから」

 陽菜ちゃんは全然下手くそではない。だが、みーちゃんがうますぎるのだ。みーちゃんのバリサクにはテンポを作り出す力があるよう感じる。みーちゃんのバリサクがあるのとないのでは、マーチの完成度は全く異なる。マーチという分野において、みーちゃんは圧倒的な実力を見せつける。(もちろんマーチ以外も普通にうまい)

 陽菜ちゃんは申し訳なさそうに言う。暗い表情で、下を向きながら陽菜ちゃんはまゆとみーちゃんに言った。

 「そっか、そっか…」

 みーちゃんは楽器を置いて陽菜ちゃんに近づく。陽菜ちゃんはちょっと怯えた表情をするが、みーちゃんはお構いなしに手を陽菜ちゃんの頭に乗せた。そして、軽く叩いた。本当に、軽く。

 「陽菜ちゃんが出たくないって言うなら止めないよ。でも、私は陽菜ちゃんと吹けて楽しいからね。陽菜ちゃんがいるだけで私のテンションは上がるし、それが私の音の原動力になる。私はね。足を引っ張られてるなんて思わないよ。どれだけ下手くそでも、きっと何か役割はあるはずだからさ、何より、大人数で吹いた方が楽しいしテンション上がる。陽菜ちゃん、かなり上手だけど、コンクール出たことはある?」
 「ないです」

 陽菜ちゃんの実力ならコンクールに出られなかった。ということは考えられない。ということは…今までも、辞退していたのだろう。いつ倒れるかわからないから。

 「そっかぁ。もったいないなぁ。コンクールの楽しさを知らないなんて…コンクールはね。私たちだけが主役なんだよ。たくさんの人がいる前で、私たちは主役として演奏ができる。熱くなるくらい眩しいスポットライトを浴びて、大勢の視線と、拍手に包まれて…この瞬間、私たちが主役だって本気で思える。主役として、いい演奏をして、私はもっと上のステージに行きたい。それが私の目標、その目標は私1人じゃ叶えられない。仲間がいる。たくさんの仲間がいる。私と一緒に戦ってくれる仲間に足を引っ張られてるなんて私は絶対に思わない。例え迷惑をかける可能性があっても陽菜ちゃんが出たいって言ったら私は仲間として一緒にコンクールに立ちたい。もし、反対するやつがいたらぶん殴ってでも黙らせる。まあ、反対する人なんてこの部活にいないと思うけどね」

 みーちゃんは陽菜ちゃんの頭を優しく撫でながら言う。先輩として仲間として、みーちゃんは陽菜ちゃんにそう言ったのだ。

 「さてさて、じゃあ、練習再開しようか。まだ、合宿は終わってないからね。中間報告は聞いたけど最終報告は聞いてないから。合宿終わったらまた、聞かせてよ。さ、練習再開!この後、セクション練習に合奏練習あるから気合い入れるよ。あ、もちろん陽菜ちゃんも参加だからね!合宿終わるまでは私と同じスケジュールで行動してもらうから」

 みーちゃんは笑顔で陽菜ちゃんに言い、先程置いた楽器を持つ。みーちゃんの言葉を聞いた陽菜ちゃんは泣いていた。みーちゃんは陽菜ちゃんの表情を見ない。たぶん、慰めてあげないの?と聞いたらみーちゃんは、「私、陽菜ちゃんを泣かせるようなこと言ってないから。当たり前のこと言っただけだから。だから、知らない」と言うだろうな。

 「みはね先輩、その…ありがとうございます」
 「ん?私、お礼言われるようなことしてないよ」

 泣き止んだ陽菜ちゃんは笑顔でみーちゃんにお礼を言うが、みーちゃんは陽菜ちゃんに適当な返事をしていた。みーちゃんらしいや。

 「みはね先輩ってすごくいい先輩ですね」
 「えー、陽菜ちゃん今更気づいたの?」

 いい先輩と言われたみーちゃんは舞い上がり調子に乗る。みーちゃんらしいや。

 「1つだけ…聞いていいですか?」
 「うん。いいよ」

 舞い上がっていたみーちゃんを宥めるように陽菜ちゃんが真面目な声で言うので、みーちゃんも真面目モードに戻る。切り替えがすごい……

 「みはね先輩が合奏とか、大勢で演奏するのとか、コンクールが好きなこと、よく伝わってきました。私も…仲間として一緒に出て欲しい。って言ってもらえて嬉しかったです。でも、何で、みはね先輩は吹奏楽部から…このサックスパートから離れていたんですか?元々、コンクールにも参加しないと聞いていました。理由…教えていただけませんか?無理にとは言えませんが…知りたいです」

 みーちゃんは、一緒、複雑な表情と困惑した表情を見せたが、すぐに笑顔に戻る。先程までの笑顔とは違い、咄嗟に作ったような笑顔だった。

 「気になる?」
 「はい」

 即答した陽菜ちゃんに観念したのか、みーちゃんは少し休憩しよっか。と言い、楽器を置いて、まゆと陽菜ちゃんと部屋の椅子に座る。





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