お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

恋の辛さを知る者





 「さきのこと…振ったんだね……」

 朝、歯を磨いて顔を洗い、朝食の前に練習の時に飲むお茶を買うために1人で自販機に向かって歩いていると、たぶん私と同じ目的で自販機コーナーにいたこう君と目が合い、飲み物を買ったあと、こう君と歩きながら私はこう君に言う。

 「うん…僕、気になっている人いるからさ……さきちゃんにはすごく申し訳ないけど……」
 「私、好きな人いるからね」
 「さきちゃんから聞いたんだ…」
 「あっ…うん。ごめんだけど…」

 後でさきに謝らないとな…さきから聞いたことを思い出して口を滑らせてしまったから……

 「さきちゃんは…大丈夫だった?ゆいちゃんと会う前に泣きそうだったから心配で……」
 「ちょっと泣いて取り乱してたりもしたけど…寝る時には少し落ち着いていたよ」
 「そっか…悪いことしたな……」

 さきの様子を尋ねた、こう君の表情や声からはさきのことを本当に心配してくれていることがよく伝わってきた。

 「さきとは……付き合えない?」
 「………昨日ね。迷ったよ。嬉しかったからさ…さきちゃんみたいなかわいい子から告白されて……でも、僕はゆいちゃんのこと…気になってたからさ…そんな状況じゃ付き合えないよ……」
 「私のこと、いつから気になってた?」
 「昨日…」
 「え?」

 意外すぎる返事が来た。え、昨日って私…こう君とさきを引っ付けようとしていたんだよね?え?なんで昨日?

 「えっと…昨日、一人でいた時にゆいちゃんが話しかけてくれて…明るい子だな。って思って……で、話してるうちに少しずつ気になっていって……」
 「いやいや、ちょっと待って…さきのことは気にならなかったの?」

 私、さきに話振ったりして、さきとこう君が上手く話せるように立ち回っていたのに……なんでそうなる??

 「えっと…さきちゃんは大人しい子だなって思ったけど…その、話しかけてくれたのが嬉しくて、ちょっと意識持ってかれたかな……」

 さきが話しかけていれば……

 「こう君、今ならまだ間に合うから、お願いだからさきを幸せにしてあげて」

 さきのためにも…こう君のためにも…2人は結ばれて欲しい。このまま、こう君が私のこと好きでいても誰も幸せになれないから……

 「ごめん……」
 「なんで……私、絶対にこう君のこと好きになる気はない。今ここで断言する。私には好きな人がいるからこう君のことを好きになることはない。お願いだから、さきを幸せにしてあげて…さきに幸せにしてもらって……さきは大人しいけど…すごくいい子だから…きっと……」
 「ゆいちゃんがダメだったからさきちゃんと付き合うなんてさきちゃんに失礼だよ」
 「っっ……」

 その通りすぎて何もいい返せなかった。でも、だめ…このままだとだめ…

 「さきは…受け入れてくれるよ……」
 「それでも……」
 「お願いだから…」
 「好きな人に好きな人がいても諦められない。ゆいちゃんが一番わかってるはずでしょう?」
 「え…」
 「りょう君でしょう?ゆいちゃんが好きな人…」

 好きな人に好きな人がいても…諦められない。
 たしかに、私が一番知っている。どうしようもない、抗えない気持ちであることを私が一番わかっている。
 だからこそ…こう君には私と同じ思いをして欲しくない。辛いんだよ。好きな人がいる人を好きになるって…

 「そうだよ。私はりょうくんのことが好き。大好き。世界で一番りょうくんのことを好きな自信があるくらいりょうくんのことが好き」
 「りょう君には、春香先輩とまゆ先輩がいるんでしょう?ゆいちゃんは、りょう君の三番目にでもなりたいの?」
 「一番になりたいに決まってるじゃん。でも…それはきっと無理だから…りょうくんがどれだけ春香先輩とまゆ先輩のことを愛してるか知ってしまったから…」
 「なら…」
 「だから」

 こう君の言葉を私は強引に遮る。それ以上のことを口にしたらこう君はもう引き返せなくなる。私と同じ思いをこう君にして欲しくない。

 「だから…こう君には私と同じ思いをして欲しくないの」
 
 はっきりと、言い切った。

 「ごめんなさい」

 と………

 「それでも…」
 「辛いよ。それ以上言ったら取り返し…つかなくなるかもよ」

 一度、本気で意識をしたら、もう、取り返しがつかない。諦められなくなる。
 私が一番知っている。わかっている。

 今なら、まだ、引き返せるよ。

 「さきに幸せにしてもらいな。さきを…私の大好きな親友を幸せにしてあげて」

 何も、言えなくなっていたこう君にそう言い残して、私はその場を後にした。

 ごめんね。想いに応えることができなくて…
 想いを否定するようなことをして…
 でも、こんなに辛い思いをするのは…
 私一人だけで十分だからさ…

 こう君は幸せになりなよ。さきと一緒に二人で幸せになりなよ。






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