お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

休日の過ごし方





 「じゃあ、次、私の音、聴いててね」
 「うん。わかった」
 僕がチューバを吹き終わって、春香はいくつか感想を述べて、自分の楽器を構えた。そして、メトロノームでテンポを取り始めて楽器に息を吹き込んだ。

 あぁ…やっぱり…上手いなぁ……聴いていて心地がいい。優しいのに、ブレない、綺麗な音……すごく好きだ。改めて思い知る。これが、僕の憧れの音…この音をいつか、自分のものにしたい。この音を超えたい。trioの序盤から中盤にかけては圧巻の一言だと思う。これ以上、良い演奏をされたら…僕では届かなくなってしまう。
 そして終盤、春香の音が切り替わる。昔から、よく向き合っていた音…僕の音のような音だ。わかってはいたけど…こうも上手く自分の音を真似されると…ちょっと悔しいな。あー、敵わないわ…春香には敵わない…今はね。いつか、必ず春香を超える。
 チューバを始めてから永遠の課題、最近、自分自身が上手くなっている実感があった。でも、僕と同じくらい、春香のレベルも上がっていた。まだ、追いつけていない。いつか追いつくさ…

 「どうだった?」
 「すごかったよ」
 春香に感想を尋ねられて、第一声、素直な感想を僕は口にした。
 「序盤中盤は口出しする隙がないかな…だから、終盤、僕ならこうやって吹くって教えてあげる」
 「お願い…」
 「貸しだからね」
 「お礼ならなんでもしてあげる。私を好きにしていいよ」
 「ちょ…言い方…普通に僕が苦戦してたら教えてくれるだけでいいよ」
 「うん。わかった」
 春香は笑いながら僕に答える。かわいいなぁ…
 「じゃあ、まずさ、一緒に吹こうか…うーん、crescendo手前から吹くよ」
 「はーい」

 僕と春香は何度も何度も同じ音を繰り返し練習する。何度も吹いて…徐々に春香の完成度が高まっている気がした。取り込み早すぎるよ…やばいな…本当に敵わなくなってしまう…でも、超えたい。いつか、必ず。


「りょうちゃん、春香ちゃん、お疲れ様。調子はどう?」
 もうすぐホールを閉める時間なので僕と春香は楽器を片付けていた。すると、まゆとの練習を終えたりっちゃんさんが僕と春香に尋ねる。りっちゃんさんの後ろではまゆが楽器を吹きすぎたせいでふらふらになっていた。りっちゃんさんとまゆの練習、聴こえていたが…エグかった。りっちゃんさんめっちゃスパルタやん…
 「まゆ、お疲れ様…」
 春香がりっちゃんさんの問いに答えながらりっちゃんさんと楽器庫に楽器をしまいに行った後、僕はまゆに声をかける。
 「疲れた…」
 まゆはそう言いながらテナーサックスを机の上に丁寧に置いてテクテクと僕の元にやってくる。
 「疲れたから癒やして…」
 まゆはそう言いながら椅子に座っている僕に抱きついてきた。かわいいかよ。
 「もう。まゆは甘えん坊さんだなぁ…」
 「えへへ…癒される…」
 まゆは僕に抱きつきながら幸せそうに言う。かわいいなぁ…
 「にゃー、りょうちゃんだめ…やめて…」
 まゆが甘えてきたので、僕はまゆの首筋をそっとくすぐってあげるとまゆは甘い声を出す。まゆはここ弱いもんね。ここくすぐられた時のまゆの反応好きなんだよね。
 「ねー。りょうちゃん…本当にやめて…」
 くすぐり続けていたらまゆの顔が真っ赤になってやばい気がしたので僕はくすぐるのをやめた。これは今晩寝れないコースの気がする……
 「あー、まゆちゃんだけずるい…私も…」
 楽器を片付け終えた春香がやってきて僕とまゆを見ると慌てて春香は僕の元にかけよってきて僕に抱きついた。僕は両手で春香とまゆ、どちらも抱きしめてあげる。その様子をりっちゃんさんがニヤニヤしながら写真撮影している。やめてください。

 「ほら、いちゃいちゃしてないで、もうホール閉める時間だよ」
 しばらくの間、春香とまゆはギュッと僕に抱きついて離れてくれなかったので楽器の片付けをできていない僕は慌てて楽器を片付ける。まゆも慌てて楽器を片付けたのだが、りっちゃんさんに遅いと怒られてしまった。
 だって春香とまゆが離してくれなかったんだもん…僕とまゆはりっちゃんさんに謝りながら慌ててホールを出てホールの鍵を閉める。ホールの鍵を閉めてから、鍵を返しに大学の受付に向かう。
 「りっちゃん、手、繋ごう」
 まゆと僕と春香は並んで手を繋いで歩いていた僕はまゆと春香と手を繋いでいて両手塞がっていたが春香とまゆは片手ずつ空いていた。春香はりっちゃんさんに片手を伸ばしてりっちゃんさんに言う。
 「えー、私はいいよ」
 「いいから…」
 春香は強引にりっちゃんさんの片手を掴んで手を繋いで歩く。歩き始めて少しするとりっちゃんさんは小声で春香にありがとう。と言っていた。春香は気づいていないみたいだったが…

 受付で鍵を返した後、りっちゃんさんがこれからバイトと言うので僕たちはりっちゃんさんのバイト先で夕食を食べることにした。
 りっちゃんさんのバイト先で夕食を食べた後、僕たちは帰宅する。案の定…まゆが暴走してそういう展開になってしまったが…

 昼まで寝て、楽器を吹いて、夕食を食べて、3人でいちゃいちゃする。こんな休日も悪くない気がする。






「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く