お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

これから





 「お父さん、勝手に家を出てごめんなさい…」
 話が始まってまゆの一言目の言葉は謝罪の言葉だった。その一言からまゆが本気でまゆのお父さんに申し訳ないと思っていることが伝わって来た。それと同時に、もう、戻るつもりはない。と言う感情も伝わったような気がした。
 「……そんなに、彼のことが好きなのかい?」
 まゆのお父さんは怒りもしないで優しくまゆに問いかけた。まゆは意外そうな表情をして言葉を詰まらせていた。きっと、お父さんに怒られると思っていたのだろう。僕も、まゆを連れ出してしまったのだから、怒鳴られる覚悟はしていたが…怒鳴られる気はしなかった。今日、バイト中に来てくれたまゆのお父さんの言葉を聞いて、きっと大丈夫だろう。と思っていた。
 「答えてくれないとわからないよ。彼のこと本気で好きなんだよね?」
 「うん。まゆはりょうちゃんと春香ちゃんのことが…本当に好き。大好き」
 お父さんに優しく尋ねられたまゆはすでに泣きそうになっていた。このやり取りだけで、まゆのお父さんがどれだけまゆを大切にしてきたかがわかった気がした。
 「そうですか…まゆ、ごめんな。まゆの幸せを考えずにいろいろ押しつけて縛るようなことしてたよ。正直言ってまだ、まゆたちの関係を認められない部分はある。もし、その関係が崩れたら…とか考えるとまゆは彼から引き離すべきだと思っていた」
 「心配してくれるのはありがたいけど…余計なお世話だよ」
 まゆがはっきり言うとまゆのお母さんはクスリと笑い、まゆ、私に似て来たね。と笑いながら言った。それを聞いてまゆのお父さんは頭を抱える。
 「まゆ、やはりまだ、完全には認められないし理解はできない。だけど、まゆの覚悟はよく分かったよ。だから、もうお父さんは今は止めるようなことはしない。まゆの悔いの残らないようにしなさい」
 「お母さんはまゆたちの関係を応援しているわ。今度、春香ちゃんも一緒にお茶でもしましょう」
 「お父さん、お母さん、ありがとう」
 「りょうくん、娘は私たち夫婦に似て少し抜けているところがあるから…支えてあげてください」
 まゆのお父さんは姿勢を正して僕に頭を下げる。この願いは必ず聞き受けなければならない。まゆのお父さんに言われなくても必ずまゆと一緒にいてまゆを幸せにすると決めていたが、改めてまゆを幸せにするための決意ができた。
 「もちろんです。必ずまゆを支えてまゆを幸せにします」
 「出来の悪い娘ですが…よろしくお願いします」
 「僕にはもったいないくらいまゆは魅力的な女性ですよ。必ず…幸せにします。まゆを幸せにして、僕とまゆと春香が幸せになって、僕たちの関係を認めていただけるように尽くします」
 まゆのお父さんに頭を下げて言う。まゆのお父さんはまだ不安そうな表情はあったように感じたが、僕を信じてまゆを託してくれた。

 「たまには帰ってきてね。いつでも帰ってきていいから。今度は春香ちゃんも連れてきてね」
 「うん。じゃあ、ママ、お父さん、行ってきます」
 「行ってらっしゃい」
 「元気でな…」
 まゆの両親との話が終わり僕とまゆはまゆの家を出てまゆの車に乗ってアパートに向かう。だいぶ遅い時間になってしまった。春香は…もう寝ているかな……

「「ただいま」」
 寝ているかもしれない春香と春を起こさないくらい小さな声で玄関で呟いて僕とまゆは部屋に入ってリビングに向かう。
 「お帰りなさい。りょうちゃん、まゆちゃん」
 リビングのソファーに座ってスマホをいじっていた春香が僕たちを出迎えてくれた。
 「まだ起きててくれたんだね。先に寝ててよかったのに」
 「ううん。いいの。りょうちゃんとまゆちゃんと夜ご飯食べたかったから。あ、春ちゃんはもう寝てるから静かにしてあげてね」
 「春香、ありがとう」
 「お礼なんて言わなくていいからさ、夜ご飯食べよう。すぐ用意するからテーブルで待ってて、あ、まゆちゃん、お着替えはソファーに置いてあるから着替えるならそれを使って欲しいな」
 おそらく、春香とまゆの部屋で眠っている春を起こさないようにするために事前に春香とまゆの部屋から着替えを持ってきていたのだろう。すごく気が利いていて些細な気遣いがとてもありがたく感じる。
 
 僕が自分の部屋でバイト着から着替えてリビングに戻ると着替え終えたまゆと春香はすでに椅子に座っていた。4つある椅子の内、わざわざ3つを横に並べて真ん中の席が空いているので僕はそこに座る。
 夜ご飯は…すごく温かかった。温度もだが…温かい感情が込められている気がした。
 
 まだ、正式に認められたわけではない。普通ではない恋だと言うのは分かっている。
 でも、いつか…認められる日が来てほしい。
 春香が僕とまゆの帰りを待っていてくれて、温かい夕食を用意してくれていたこと、夕食の温かさ、不安は感じない。
 
 これからも3人でこうして生活をしたい。
 そしていつか……
 僕は春香とまゆとの関係を永遠のものにしたい……
 本気でそう思った。
 これから先の未来…きっと困難はある。
 でも、僕と春香とまゆ、3人でなら乗り越えられると信じている。








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