お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

恋のかたち





 「ねーまゆお姉ちゃん、私熱いの苦手だからふーふーして食べさせて〜」
 夕食の時間、春はまゆにべったりだった。なんというか…あざとい…わざとらしい…絶対何か企んでる。春は…妹はこんなキャラじゃない……だって、僕が知っている春はガサツで可愛さのかけらもない生意気な妹だから…春の本性を知らないまゆはかわいい。かわいい。と春をめちゃくちゃ可愛がっている。あー、唐揚げをふーふーして食べさせてもらってる……羨ましい……
 「お兄ちゃんどうしたの?あ、もしかして羨ましかった?ごめんねーまゆお姉ちゃん借りちゃって…でも、お兄ちゃんには春香ちゃんがいるから問題ないよね?」
 これが狙いか…こいつ、まゆを僕に近づけないようにさせて春香と僕にいちゃいちゃさせるのが目的か。
 「ほら、春香ちゃん、お兄ちゃんにあーん。してあげて」
 「え、あ、うん」
 春香は恥ずかしそうにしながら唐揚げにふーふーと息をかけて冷ましてから僕に食べさせてくれる。あ、やばい。幸せ……
 「春香ちゃんだけずるい…まゆも…」
 まゆが春香のように僕に唐揚げを食べさせようとするが、春は「まゆお姉ちゃん、私もっと唐揚げ食べたいなぁ」とまゆにおねだりする。春におねだりされたまゆは箸で掴んでいた唐揚げを春の口に運んだ。
 「ありがとう。まゆお姉ちゃん」
 まゆに唐揚げを食べさせてもらった春が満面の笑みでまゆに言うと、まゆはかわいい。かわいすぎる…と言いながら悶えていた。どこがかわいいんだか……
 
 その後も春によるまゆ封じは続いた。そのせいで僕はさっきからまゆとまともに話せてすらいない。完璧なまゆ封じをされている。その分春は僕と春香にやたらと何かをさせようとしている。やっぱり、僕が春香だけと付き合っていないのが不満なのだろうか……
 「まゆお姉ちゃん…私、まゆお姉ちゃんとお風呂入りたいなぁ…まゆお姉ちゃんのお背中流したい」
 「うん。いいよ。一緒に入ろう」
 まゆは完全に春にメロメロだ。本性を知った時にショックを受けないか心配だ……
 まゆは春に言われるがままにお風呂場に連れて行かれてリビングには僕と春香が2人きりになった。
 「春ちゃん、完全にまゆちゃんをりょうちゃんから遠ざけようとしてたよね……」
 「やっぱりそうだよね…」
 「うん」
 春香が入れてくれたお茶を飲みながら僕はため息をつく。春香も笑いながら困ったような表情をしていた。
 「やっぱり…私たちの関係って…認めてもらえないものなのかな…」
 ソファーに座っていた僕の隣に座った春香が僕にもたれかかりながら真剣な表情で呟いた。まゆのお父さんに春、僕たち3人の関係を否定されるようなことばかりだからそう思ってしまったのだろう。
 理解はされないだろう……いや、春は理解はしてくれていると思う。だが、納得はしてくれていない。春の中で、春香は僕と2人きりで結ばれるべきだ。と言う認識が根強く存在していたのだろう。
 「もしも…だよ。私とりょうちゃんの家族も、まゆちゃんのお父さんみたいに私たちの関係を認めてくれなかったら、りょうちゃんはどうする?」
 春香は真剣な表情で僕に尋ねた。認められる必要なんてあるのだろうか……僕と春香とまゆは真剣に愛し合って真剣に付き合っている。それを…他人には否定されたくない。たしかに、自分に嫌気が差すよ。最低な人間だとも思う。でも、僕は、春香とまゆ、2人を絶対に幸せにすると決めた。春香とまゆもこの関係を受け入れてくれている。これのどこに…他人が文句を言うことができるのだろう。一般常識的に?そんなこと、誰が決めた?本気で2人を愛して本気で2人から愛される。問題があるのだろうか?少なくとも…他人からは文句を言われたくない。他人から何を言われても…この想いは消えてくれないから。
 「まゆと同じだよ。家出をしてでも…家族と縁を切ってでも春香とまゆと一緒にいる。必ず2人を幸せにする。春香は?」
 「りょうちゃんについて行くよ。私は、いつまでもりょうちゃんとまゆちゃんの側にいたい3人で幸せになりたいもん」
 僕たちは…3人で幸せになりたい。僕も、春香も、まゆも、それを望んでいる。今、僕たちはすごく幸せだ。お願いだから…他人が……この関係を否定しないで欲しい……
 「春ちゃんを責めたりしないでね。春ちゃんも私たちのことを考えてくれているんだよ。それに、春ちゃんなら…たぶんわかってくれるよ。私たち3人の想いを…私たち3人の幸せを…」
 「そうだね」
 「うん」
 春香はそう言いながら僕を抱きしめる。春香に抱きしめられた僕はそっと春香を抱きしめ返した。

 異常で、異端で、理解されない恋なのかもしれない。
 でも、僕と春香とまゆは真剣に恋をしている。
 誰にも否定して欲しくない。
 これが、僕と春香とまゆの…3人の恋のかたちだから。
 
 たとえ、誰に何と言われても、僕は春香とまゆを絶対に幸せにする。
 3人で幸せになる。
 これが、僕と春香とまゆの恋のかたちだ。
 この恋のかたちだけは…絶対に…崩させない。







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