お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

ありがとう。





 「理由はわかりました……でも、やっぱり納得できないです……」
 「私も…納得できてないわ。でも、まゆがりょうくんと別れる選択をしたのだからそれを尊重したい。でも…あの子の口から説明しないで急に別れを切り出すって別れ方は気にくわないわ…」
 「お母さん、最後にお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」
 「聞くだけなら…」
 まゆ先輩が何故、僕と別れたのか…その理由を聞かされて……それでも、僕はまゆ先輩と一緒にいたい。でも、一度まゆ先輩が決めたことだ。それにこれは…まゆ先輩が自分で解決しないといけない問題だ。僕と一緒にいるにしてもこのまま僕と別れるにしても…
 「これをまゆに返して欲しいです」
 僕はテーブルの上にまゆ先輩の指輪を置く。この指輪をまゆ先輩に届ける。春香のためにも…まゆ先輩に再び考えるきっかけを与えるためにも……
 「まゆにとって…大切なもののはずですから……タイミングはお母さんに任せます。やっぱりまゆに持っていて欲しい。って伝言と一緒にまゆに返していただけませんか?」
 「わかったわ。絶対にあの子に渡します。最後にいくつか、聞いてもいい?」
  まゆ先輩のお母さんは指輪を受け取り大切そうに鞄にしまい、その後少しだけスマホを操作してから僕に言う。僕がはい。と答えるとまゆ先輩のお母さんは僕に尋ねる。
 「あなたはまゆと一緒にいたい?」
 「はい」
 「あなたはまゆと幸せになりたい?」
 「はい」
 「今の話を聞いて、あなたはまだまゆを受け入れてくれる?」
 「はい」
 まゆ先輩のお母さんからの質問に僕は迷うことなく全て即答した。
 「ありがとう。どうなるかはわからないけれど…もし、あの子が……また、りょうくんと一緒にいたい。って言った時は……あの子のこと……娘のことをよろしくお願いします」
 まゆ先輩のお母さんは深く頭を下げて僕に言う。一人の子を持つ母親として、まゆ先輩のお母さんは僕に頭を下げていた。
 「はい」
 僕はその言葉の重みを理解しながら、返事をした。もし、まゆ先輩が僕と一緒にいたい。と言ってくれるのなら…僕は、まゆ先輩を……絶対に幸せにする。

 

 急にお母さんから電話がかかって来た。まゆはなんだろう?と思いながら電話に出るが、今は声を発する元気すらなかったのでお母さんが話しかけてくるのを待った。
 最後にいくつか、聞いてもいい?お母さんにそう言われてまゆは?を浮かべた。なんだろう。と思いながら声を出そうとすると…大好きな人の声が聞こえて来た。なんで…と思いながら聞いていると大好きな人は…迷うことない。と言った様子で力強くはい。を繰り返していた。その言葉を聞いてまゆは泣かずにはいられなかった。
 「まゆ、聞こえてた?」
 お母さんが家に帰ってきて、真っ直ぐにまゆの部屋にやって来た。まゆは泣き顔を見られたくなくて布団をかぶっていた。たぶん…今、人生で一番の大泣きをしてしまっているから……
 たしかに、りょうちゃんと会いたい。って…想ったよ…でも…こんなに早く……まゆのところに来てくれるなんて……まゆ、春香ちゃんを傷つけて……すごく酷いことしたのに…
 「りょうくん、今バス停に向かったわよ」
 お母さんはまゆにそう言いながらまゆがかぶっていた布団を取り上げてまゆの顔を見つめる。そして、まゆの手を取る。
 「これ、りょうくんから預かってきた。やっぱりまゆに持ってて欲しいって……」
 お母さんはそう言いながらまゆの手に指輪を付けてくれた。まゆの左手の薬指に……すごく温かい……この指輪……まゆが窓から投げたはずなのに……探してくれたんだ……
 「まゆ、お母さんはまゆの選択を尊重する。どうしたいかはまゆが決めなさい」
 お母さんはハンカチでまゆの頬を流れる涙を吹きながらまゆに言う。それを聞いてまゆの涙の勢いは増してしまう。
 「お母さん…まゆは悪い子?」
 「お母さんはまゆを悪い子に育てた記憶はないわ。ただ、ちょっとばかな子に育てちゃったとは後悔してるわ。まゆはもう立派な大人なんだから…自分で決めなさい。ばかな娘でもどうしたいかくらい考えられるくらいの脳はあるでしょう?」
 「ありがとう。お母さん……」
 「ほら、泣かないの。そんな顔で会ったら嫌われちゃうわよ」
 「こんな些細なことでりょうちゃんはまゆのこと嫌いになったりしないもん」
 まゆはそう言いながら涙を拭う。まゆが泣いているくらいでりょうちゃんはまゆのこと嫌いになったりしないよ……こんなに酷いことしたのにまゆを迎えに来てくれたのだから……ちゃんと謝らないと……
 「幸せになりなさいよ。あと、ちゃんと自分の口から説明して、ちゃんと謝って来なさい」
 まゆが立ち上がるとお母さんはまゆに言う。優しく…まゆのことを想って言ってくれていることが伝わってきてまゆは再び泣いてしまう。
 「お母さん、ありがとう。りょうちゃんとすぐ帰ってくるね……その後のことは……」
 「お母さんは止めないから…りょうくんのところに行きなさい。早くしないとバスが来てりょうくん帰っちゃうわよ」
 「ありがとう」
 いろいろな意味を込めて……感謝してもしきれないくらいの想いを一言に全て込めた。
 お母さんにそう言ってまゆは家を出てバス停に走る。りょうちゃんに迷惑をかけるために…りょうちゃんに会うために…りょうちゃんと春香ちゃんと幸せになるために……全部話して……それでもりょうちゃんと春香ちゃんがまゆを受け入れてくれるなら……まゆはもう迷わない。







 

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