お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

会いたい。




 「りっちゃんさん、春香のこと…お願いします…」
 「うん。任せて…まゆちゃんのこと、なんとかしてね。春香ちゃんのためにもさ…」
 まゆ先輩の指輪を見つけた後、リビングに戻ってから春香はずっと泣き続けた。しばらく泣き続けてお昼頃になり、泣き疲れて春香はソファーの上で眠ってしまった。春香が眠ってから僕はすぐにりっちゃんさんに連絡をした。疲れているところ申し訳ないが、今の春香を1人にしてはおけないと判断した僕はりっちゃんさんに事情を話して春香の側にいてくれるように頼んだ。りっちゃんさんはすぐに部屋に来てくれたので僕は出かける準備をしてアパートを出た。
 会いたい。大好きな人にもう一度会いたい。会って、話がしたい。
 
 

 「まゆ、大丈夫?」
 「うん……」
 旅行から帰ってまゆはすぐに自分の部屋に閉じこもった。そんなまゆの様子を見てお母さんは心配そうな表情で声をかけてくれた。
 「りょうくんとは…ちゃんとお話ししたの?」
 「うん。りょうちゃんもわかってくれたよ」
 「そう…」
 お母さんは一瞬だけ悲しそうな表情を見せた。お母さんは今回の件を最後まで反対してくれていた。だから…きっと納得していないのだろう…まゆがこの選択をしたことに……
 「まゆ、後悔だけはしないようにね…」
 「うん……」
 後悔なんてしてないよ。まゆはりょうちゃんと春香ちゃんにいっぱい幸せにしてもらった。これ以上の幸せを求めるのは欲張りかもしれない…りょうちゃんと春香ちゃんには悪いけど……これでよかった。はずだ…だが、何故だろう。これでよかった。って…思っているし納得しているのに涙が止まらないのは……会いたいよ……りょうちゃん…

 
 バスに乗ってしばらく経ち、バスから降りる。以前の記憶を頼りに海沿いの道をしばらく歩く。何度も見た道だ。何度も大好きな人と通った道だ。車だとあっという間の一本道だったが、歩くとかなり長く感じる。たぶん…となりに大好きな人がいてくれたら…歩いてもあっという間の道だっただろう…
 「まゆ…」
 気づいたら僕は大好きな人の名前を呼んでいた。そして、ポケットに入れていた大好きな人の指輪をギュッと握りしめた。まるで、大好きな人を抱きしめるように、大切に…そっと、優しく、大好きな人の指輪を握りしめてこの一本道を歩く。大好きな人の指輪を握りしめていると不思議と大好きな人と手を繋いでいるような感覚になった。だが、当然、大好きな人の手の温もりは感じられない。あの温もりを…もう一度感じたい。僕の隣に、大好きな人の笑顔があってほしい…もう一度…大好きな人と一緒に同じ道を進みたい。
 
 そう想いながら歩いていると、大好きな人の家に到着した。僕は、覚悟を決めてから大好きな人の家のインターホンを押す。
 インターホンを鳴らしても返事はない。返事の代わりにガチャリと家のドアの鍵が開けられて家の中から女性が出てきた。とても、大学生の娘がいるとは思えないような若々しい外見の女性…僕が大好きな人のお母さんと目が合った。
 「………まゆのこと、で合ってるかな?」
 「はい」
 「そう…あの子、理由を言わなかったのかな?」
 「はい」
 「そう…とりあえずはここで立ち話をするのもあれだし…ちょっと場所を変えましょう。すぐ近くに行きつけのカフェがあるからそこでお話ししましょう」
 「まゆは……」
 「自分の部屋にいるわ……でも、今は……りょうくんと話しても辛いだけかもしれない……だから、場所を変えてお話ししましょう。どうしてあの子がりょうくんと別れる選択をしたか…理由を話すわ……」
 「まゆの口からは聞けないですか?」
 こんなに大切なこと…大好きな人のお母さんからではなく、大好きな人…まゆの口から聞きたい。まゆの言葉で説明をしてほしい。
 「今のまゆには余裕がないから勘弁してあげて…あの子がどれだけ、悩んで苦しんで、今の選択をしたか…わかってあげて……あの子は本当にあなたのことを愛していたから……」
 「わかりました」
 渋々ではある…が、納得するしかなかった。すぐ近くに大好きな人が…まゆがいる…なら…会いたい。会って話がしたい。だが、それでまゆが苦しんでしまうのは嫌だった。
 「ありがとう、じゃあ、ついてきて」
 「はい」
 僕はまゆ先輩のお母さんに連れられて歩いて数分の場所にある喫茶店に入る。一度、バイトの前にまゆ先輩とモーニングに来たことのある喫茶店だ。あの時の幸せな記憶が思い出されて少しだけ辛い気持ちになる。
 まゆ先輩のお母さんと向かい合って座り、まゆ先輩のお母さんはコーヒーを、僕はオレンジジュースを注文した。
 「さて、じゃあ…まゆがりょうくんと別れることになった理由を説明しないとね…でも、その前に一つ約束して欲しい」
 「約束…ですか?」
 「ええ、まゆは本当にあなたのことを愛していた。そのことを疑わないで欲しい。それと…まゆはすごく悩んで今回の選択をした。その選択は否定しないであげて欲しい」
 「一つ目のことは約束します。絶対にまゆのことを疑ったりしないです。でも…二つ目のことは理由を聞くまで約束できません…」
 「そう…よね…わかったわ。じゃあ、話しましょうか…」
 まゆ先輩のお母さんはコーヒーを一口、ゆっくりと口に入れてから話始める。まゆ先輩の選択の理由を…








コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品