お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

最後の思い出






 ごめんね。
 もう一緒にいられない。
 さようなら。




 「りょうちゃん、どうしたの?」
 部屋に戻った僕を見て春香は心配そうな表情で僕に尋ねる。
 「なんでもないよ。あ、さっき買ってきたロールケーキみんなで食べよう」
  僕は明るく振る舞いながら必死になって先程のやり取りを忘れようとする。いったい、どういうことなのだろう…

 みんなでロールケーキを食べながら楽しくおしゃべりをして、トランプでゲームをしたりしていたらあっという間に夜中になってしまい、春香が眠い。と言い出したので部屋の電気を消してみんな布団に入る。
 6枚の布団が3枚ずつ2列に敷かれていて春香、僕、まゆ先輩が並んで寝て、りっちゃんさん、さきちゃん、ゆいちゃんが並んで寝る。
 一応、3枚布団が並んで敷いてあるのに春香とまゆ先輩は僕の布団に入って来ていつものように僕を抱きしめて眠りだす。

 ………ねえ、さっきのはどういうことなの?
 みんなが眠りについた後、一人だけ眠れずにいた僕は部屋の中でボソッと呟くが、返事はない。


 「りょうちゃん、そろそろ起きて」
 「ん……」
 春香に体を揺らされて僕は目を覚ます。目を覚ますと部屋の中には僕と春香しかいない。
 「あれ、みんなは?」
 「みんな朝風呂に行ってるよ。私も今から行くけどりょうちゃんはどうする?」
 「うーん。じゃあ、僕も今から行こうかな」
 「うん。じゃあ、一緒に行こう」
 「うん」
 僕は春香と手を繋いで歩く。春香の手は柔らかく、温かい。
 「りょうちゃん、好き、大好きだよ」
 春香はそう言って僕を抱きしめてくれた。急にどうしたのだろう……
 「ありがとう」
 「うん。何かあったら私かまゆちゃんを頼るんだよ。わかってるよね?」
 春香は険しい表情で僕に言う。そんなに心配しなくても…とは思うが今までの自分の行動を振り返ると春香に心配されても文句は言えない。
 「うん。ありがとう」
 「で、何か私に言うことはある?」
 「今はまだ大丈夫。ちょっとわからないことだらけだからさ…もし、春香に力になって欲しいことがあったらちゃんと相談する。だからさ、信じて」
 僕がそういうと春香は少しだけ心配そうな顔をするがすぐに笑顔に変えた。
 「わかった。じゃあ、私行くね」
 「うん」
 僕は春香とキスをすると春香は僕から離れて女風呂に入っていく。春香に隠し事はできないなぁ…
 だが、今は僕も状況をよく理解できていない。だから、今は春香に何も話せない。余計な心配はさせたくないから…

 一人で朝風呂に浸かりながら昨日のことをずっと考えていた。
 どういうことなんだろう。ちゃんと説明してくれないとわからないよ。
 ちゃんと話してよ。お願いだから。
 一人で朝風呂に浸かりながらずっとそうやって呟いていた。
 さようなら。
 その一言がずっと頭の中でリピート再生されていた。

 「あ、りょうちゃんも朝風呂入ってたんだ。ゆっくりできた?」
 僕が朝風呂から出て部屋に戻ろうとしていると女湯からまゆ先輩が出てきた。
 「まゆ…昨日のあれ、どういう意味?」
 「そのままの意味だよ。ごめんね」
 まゆ先輩は笑顔でそう言う。どういうことだよ……
 わかんないよ。どうして……
 全然笑えてないじゃん。そんな顔…しないでよ……
 「だから、どうして…」
 「昨日も言った通りだよ」
 まゆ先輩は淡々と答える。もう、意思を変える気はない。と言うように…昨日の夜、まゆ先輩が僕に言ったことは本気だと…僕に伝えるように……



 「で、まゆ、どうしたの?そんな顔して…」
 春香に飲み物が入った鞄を預けて部屋に戻る春香を見送った後、僕はまゆ先輩とソファーに座ってまゆ先輩が話し始めるのを待った。まゆ先輩の表情は何かを決意したような表情のように見えた。だが、何かに震えているようにも見えて僕は心配だった。
 「りょうちゃん、まゆを幸せにしてくれてありがとう」
 まゆ先輩はそう言いながら僕を抱きしめた。
 「急にどうしたの?」
 「うん。あのね。りょうちゃんには悪いんだけどさ…」
 まゆ先輩は笑顔で…必死につくっていることがすぐにわかるような笑顔で……
 「この旅行で最後にしよう。この旅行が終わったらまゆと別れて…」
 「え……」
 「ごめんね。もう一緒にいられない。さようなら」
 「どういう……」
 急すぎて…何もわからない。どういうこと…ちゃんと説明してよ……
 何て言えばいいのかわからない。どうして…どういう意味…何か…口に出さないと…
 「この旅行で最後…今までありがとう。幸せだったよ。最後の思い出いっぱい楽しもうね」
 まゆ先輩は笑顔で僕に告げた。淡々と…何の未練もないように……僕の言葉を断ち切りこれ以上追求させないようにするように…
 どういうことかを問い詰めるがまゆ先輩はずっとこの旅行が終わったらさよならしよう。と言うだけだった。
 
 「さようなら。まゆは幸せだったよ。最後の思い出、楽しもうね」
 




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