お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

許せない。





 「りょうちゃん、お待たせ」
 練習中にも関わらずりっちゃんさんは僕に協力するためにパート練習を抜けてきてくれた。
 「りっちゃんさんわざわざありがとうございます。それとゆき先輩も来てくださったんですね」
 「うん。バカな後輩の尻拭いは先輩のゆきがしてあげないと…だからね。パート練習であんな辛そうな顔されてたらゆきもテンション下がるし、何より心配だもん」
 「ありがとうございます」
 「りょうちゃんは気にしないで、ゆきが勝手にしてることだから。お礼は後でゆいちゃんにたっぷりしてもらおう」
 ゆき先輩は笑いながら僕に言い、行こう。と声をかけてくれた。行き場所は決まっている。殴り込みだ。



 「ん?涼華にゆきにりょうじゃねえか、そんな怖い顔してどうした?」
 大学の駐車場の端にあるベンチに座っていた奴は僕たちに気づいてタバコの火を消して近くにあったバケツに吸い殻を放り投げた。学内は全面禁煙だが、駐車場の端の一角のみ暗黙の了解で喫煙が認められているようだ。だが、こいつは20歳じゃないだろうし普通に法律違反だろ……
 「どうした?心当たりありますよね?」
 「さあ、別にお前や春香やまゆに迷惑かけた覚えはないけどなぁ」
 ニヤニヤしながら僕に言う奴の態度を見て僕は怒りを抑えられなかった。そんな僕の状態を察してりっちゃんさんは僕の腕を掴んで僕がしようとしたことを事前に止めた。りっちゃんさんに腕を掴まれて僕は冷静さを取り戻したが僕の横にいたゆき先輩が歩いてベンチに座ってニヤニヤ笑う奴の前に立ち全力のスイングで奴の顔面をビンタした。すごくいい音が鳴り響いて奴の顔は振り払われたゆき先輩の腕を目線で追うように勢いよく横向いた。
 「お前ふざけんなよ。ゆきの大切な後輩に手を出して許されると思うな」
 ゆき先輩は奴を全力でビンタした後、叫ぶようにして怒号を浴びせた。ゆき先輩の足は震えていた。きっと怖いのだろう。同い年のかなりヤンチャしてる感じの男を全力でビンタしたのだ。怖いに決まっている。でも、ゆき先輩は全力で実行した。大切な後輩を守るために…すごく、尊い。僕はゆき先輩の行動を見てそう感じた。
 「テメェ…」
 奴はゆき先輩を殴ろうとするが僕がそれを止めた。拳を掌で受け止めてめちゃくちゃ痛かったが、ゆき先輩が傷つくことは阻止できた。
 「ゆきちゃん、ムカつくのはわかるけど手を出すのはダメ。拓磨、今のはゆきちゃんが悪かった。謝罪はするから許してほしい」
 「ちっ、次はねえぞ」
 りっちゃんさんが仲介に入り奴は手を下ろした。ゆき先輩もごめんなさい。と謝罪をする。
 「で、いきなり来て何の用だよ」
 「ゆいちゃんにもう関わらないで。それだけ言いに来た」
 「は?お前に何の関係があるんだよ。お前は他人だろ。俺はあいつの彼氏だ。恋人同士の関係に口を挟むな」
 りっちゃんさんが淡々と用件を伝えると奴は悪びれる様子もなく答えた。これが、あの子がずっと苦しんでいた理由だ。望んでもいない恋を押しつけられて…望んでもいない人とずっと一緒にいさせられて…ずっと、辛かったに違いない。もっと早く気づいてあげられたら……バカなあの子の苦しそうな顔を思い出して僕は怒りと悔しさを感じ、あの子が抱えていた数日間の辛さを考えると心が痛む。
 「ふざけないでください。ゆいちゃんがどれだけ苦しんでいたと思っているんですか…」
 「あ?あいつは取引に応じたんだよ。あいつがこれ以上お前や春香、まゆに何もするなって言うからだったらお前が俺の女になって満足させろって言ったら乗ってきたんだからよ。顔もまあまあ良くて家事もできる。夜の奉仕も上手い。かなりいい取引だよ。お互い合意の上の取引だ。お前らが関与する余地なんてないんだよ」
 取引?ふざけるな。脅したんだろ…あの子が…あのバカがどれだけ僕のこと想ってくれているかを知って…その尊い想いを利用して…
 「ゆいちゃんがどれだけ辛い思いをしていたか…わからないんですか……」
 「ん?あー、わかってるよ。だってあいつを苦しめたくてした取引だったからな。あいつを苦しめて苦しめて、俺が何をしても文句言わないようにしてからお前らに手を出そうと思ってたからな。春香を手に入れるまでの暇つぶしだよ。あいつは…まあ、思ってた以上に使い勝手がよかったから手放すのは惜しいかな…だから春香を手に入れても遊び相手としては使ってやるかな……」
 奴の聞くに耐えない言葉を聞いている最中、りっちゃんさんは僕の腕から手を離した。僕の腕から離れる直前のりっちゃんさんの手はとても冷たく感じた。
 僕から手を離したりっちゃんさんはそのまま手に力を込めて全力で奴をぶん殴った。
 「お前、本当にふざけるなよ。ゆいちゃんをなんだと思ってる。あの子のりょうちゃんへの真っ直ぐな気持ちを利用して…許されると思うな」
 りっちゃんさんがもう一度拳を繰り出そうとするのを僕とゆき先輩は止めた。
 「とりあえず、ゆいちゃんはあなたと関わることをこれ以上望んでません。あの子は…泣きながら僕に辛いって…助けてって言いました。だから、もうあの子に関わらないでください」
 「ふざけんなよ。そんな要求通るわけないだろ。あいつがこれ以上関わるなって言うなら俺は遠慮なくテメェや春香やまゆに手を出すからな…もちろんあいつも躾け直してやる」
 ゆき先輩とりっちゃんさんが手を出したのを見て、僕は冷静でいないとな。と思っていたが、ダメだ。救いようがない。奴はゆき先輩とりっちゃんさんを突き倒して僕を全力で殴りつけた。
 数分後、僕は何度も殴られたが、騒ぎを聞きつけた人たちによって事態は収まったが、僕たちは大学の学長室に連れて行かれることになった。





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