お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

何度も続く物語




 
 さあ、楽しもう。
 おはよう。と、心の中で呟いた。指揮者が指揮棒を持ち指揮棒を振る。
 さて、最初はどうやって吹こうかな……
 いろいろな人のいろいろな想いがこの曲で繰り広げられるだろう。だったら、最初は、それに相応しく堂々とした始まりをしよう。堂々とした始まりから…徐々に物語を創ってよ。私の役割は、物語の冒頭で、目覚めをすること…
 おはよう。
 さあ、後は君たちが好きなように物語を創るといい…私はそれに合わせて物語を盛り上げよう。期待してるよ。


 とどいて…私の想い……
 そう願いながら私は楽器を鳴らす。目覚めのようなバストロンボーンの堂々とした音色を軸に繰り広げられた曲の序盤の終盤、私の音に想いを込める。きみへの想いを……


 そっか…
 やっぱり、諦めてくれないんだね……
 君の音からその想いは伝わって来るよ。ありがとう。でも、ごめんなさい。僕は、隣にいる子と斜め前にいる子を愛するって決めてるからさ……
 君の想いは受け取ったよ。でも、応えられない。ごめんね。
 もしかしたら今から君を傷つけるかもしれない。もし、そうなったらごめんなさい。
 さっきのイメージを音にしよう。大好きな、憧れの音をしっかりイメージして、大好きな人が主役の舞台に繋げよう。

 
 あれ、なんか、聴いたことある音が聴こえる。
 ねぇ、それは私の音だよ。
 もう、憧れてくれるのは嬉しいけど、私はあなたの音が聴きたいなぁ…
 あ、そうそう。この音……
 使い分けてるんだね。あなたの音と私の音を……なら、私もあなたに合わせるよ。1つになろう。1つの音に…
 バトンを1つにして、次の奏者に繋げよう。
 楽しいね。初めての感覚……完全に音が1つになっている気がするよ。
 幸せだなぁ……ねぇ、もっと、頑張ろうよ。
 もうすぐバトンを渡さないとね。ほら、バトンを渡す前にもっと盛り上げよう。
 そうそう。さすがだね。私の想いについて来てくれる。ありがとう。楽しかったよ。バトンを次の奏者に渡した後も2人で走り続けようね。頑張ろう。この幸せな物語…今回だけじゃなくて、ずっと続けようね。最後まで、幸せでいよう。何度繰り返しても…ずっと…幸せでいよう。


 ずるいなぁ……
 2人だけ……完全に1つの音になってる。しかも、バトンを渡す前に盛大に盛り上げてくれちゃってさ……
 ハードル上げないでよ。吹きにくいじゃん。聴いてて、2人から受け取ったバトン、ちゃんと次に繋ぐよ。
 熱い…いや、違う。熱いけど…心地良い……熱いじゃなくて温かい。いつもより、思いっきり吹ける。
 このソロは大好きなあなたに捧げるよ。受け取って、聴いて、いっぱい感じて…この、熱くて温かい想いを……
 何度も何度も届けるからちゃんと受け取ってね。これから先、何度もこの物語を大好きなあなたに届けるからこれからも受け取ってね。


 とどいた。そうだよね……よかった。
 うん。とどいても、叶うとは限らないんだよね。
 大好きなきみときみが大好きな人、2人の音を聴いてそれはわかったよ。すごいね…2本のチューバの音が完全に1つに聴こえるよ。敵わないなぁ…叶わない…
 でも、やっぱり諦められない。
 あー。すごい。チューバからバトンを渡されたテナーサックスのソロ……熱いなぁ……すごいや……敵わないなぁ……
 でも、やっぱり諦められない。ねぇ、もう一度だけ、聴いて……いや、もう一度だけじゃない……敵うまで…叶うまで…諦めたくない。
 もうすぐテナーサックスからバトンを渡される。聴いてて、もう一度、大好きなきみにとどけたいから。


 それが、君の答えなんだね。
 諦めたくない。そういう想いが伝わってくる。
 熱いなぁ……ありがとう。ごめんなさい。
 この合奏で、諦めてくれるかなって…ちょっと期待してた。ごめんなさい。でも、君に辛い思いはして欲しくないんだ。君に苦しんで欲しくない。君に幸せになって欲しい。君になら相応しい人が絶対見つかるから……そう言って、僕は君を突き離したかった。君を苦しめたくないから…ごめんなさい。酷いことして……もう、止めないよ。そんなに熱い想いを届けられたら止められない。ありがとう。でも……
 お願いだから、その熱で傷つかないでね。熱すぎる熱はいずれ君を蝕む。じわじわと……だから、それまでに、君の熱量を受け入れてくれる人が見つかることを願うよ。ごめんなさい。その役目を僕は引き受けられない。僕には、大好きな人たちがいるから……


 私は…大丈夫。ありがとう。しつこくてごめんなさい。私が気の済むまで…きみが振り向いてくれるまで…いつまでかはわからないけど……私はきみに想いをとどけ続けるよ。まだ、私のきみへの想いは…この物語は終わらないよ……これから先、何度も何度も、私は物語の結果を変えるために、物語を創り続けるよ。そう決意した。
 決意と同時に1度目の物語は終わった。敵わなかったか…叶わなかったか……でも、まだ諦めない。何度も挑むよ。私が望む、物語をいつか創りあげる。ごめんなさい。悪いことだとは思う……幸せな物語を壊して、私が幸せになれる物語を創ろうとしているのだから……
 最初の、私の音を聴いたからだろうか……私の想いを理解したからだろうか……全部渡さない。って言う想いは伝わった。いつまでも、物語の結末は変えさせない。って想いは伝わった。宣戦布告…かな……私は諦めない。いつか必ず……物語の最後に、決意と同時に宣戦布告をした。いつか、必ず、結末を変えてみせる。と……







「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く