お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

届けたい想い





 私の恋は終わった…終わらせなければならない。全て消し去ろう…この想いも…この音も…全て……もう……恋なんて………したくない………辛いだけ………だから………
 「りっちゃんさん…本当に大丈夫…なんですよね?すごく辛そうですけど……僕、いない方がいいですか?」
 「ごめん。ちょっと…まだ…辛いや……迷惑じゃなかったら…もう少しだけ一緒にいてくれないかな?」
 「分かりました」
 あぁ……私はずるぃ……消そうとしたのに……消さなければいけないのに……また………君の優しさに甘えてしまっている………辛いだけ…なのに……お願いだから……こんな私に……救いの手を向けないでよ……
 「私の音ね…私の好きな人に届かなかったんだ…」
 「昨日の話…ですか?」
 「うん…」
 やっぱり伝わってなかったのか……よかった……いや、良い訳がない……やっぱり私はずるぃ……伝わらなければ許される……そんな訳ないのに…
 「もう…吹けないや……」
 「そんなこと言わないでくださいよ。さっきのりっちゃんさんの演奏…すごくて、僕、感動したんですよ。無理はして欲しくないですけど…もっと聴きたいです。もっと吹いて欲しいです…」
 「ありがとう。嬉しい…でも…あの音はもう出しちゃいけない音なんだ…だからごめんね」
 「出しちゃいけない音って…何ですか……音楽って……吹奏楽って……楽器演奏って……自分の感情を表現するものじゃないんですか……誰かに向けての想いとか…自分が表現したいことを表現することの何が悪いんですか……前に、まゆが僕のことを想って吹いてくれた音は僕にはとても美しくて、芸術的に聴こえました。りっちゃんさんの音だって…誰かに伝えたい…誰かに届けたい想いが込められているんでしょう?」
 「その想いは……駄目なの……」
 りょうちゃん……お願い……それ以上……音に込めた想いに触れないで……抑えられなくなる……から……これ以上苦しみたくないの……りょうちゃんに迷惑かけたくないの……春香ちゃんやまゆちゃんに嫌われたくないの……また、4人で一緒に遊んだりご飯食べたりしたいの……


 そんな資格……私にないか……


 「駄目って……」
 「ありがとう。ごめんね。それ以上は…何も聞かないで…何も言わないで……」
 「すみません……少し離れてますね……」
 涙を溢した私を見てりょうちゃんは気を遣って私を一人にするために立ち上がり私から離れようとする。ありがたい……離れて……くれて……ありがとう。ごめんなさい……
 「行かないで…一人にしないで……」
 私の理性とは裏腹に私は反射的にりょうちゃんの腕を掴んでしまった……どうして………
 「わかりました」
 りょうちゃんは嫌な顔一つせずに即答して私の横に再び座る。なんで…こんな私に…優しくしてくれるのだろう……りょうちゃんは私の横でずっと…私を優しく見守っていてくれた……嫌な顔一つしないで……私が落ち着けるなら…と…その場にいてくれた。
 好き。という感情が……溢れ出てしまいそうだ。もう……我慢……できないよ……春香ちゃん、まゆちゃん、ごめんなさい……
 「好き……」
 「え……」
 突然、私に抱きつかれたりょうちゃんは唖然とした表情をする。当然だろう……驚かせてごめんなさい。でも、もう…引き返せない…もう…止まれない……ごめんね……ごめん……なさい……
 「好きだよ。大好き。私の音を届けたかった人はね…りょうちゃんなんだよ」
 私の言葉を聞いてりょうちゃんは驚いた表情をし、同時に戸惑う…ごめんね。きみにそんな表情をさせて……きみを苦しめて……ごめんなさい。
 「来て…」
 私はりょうちゃんの腕を掴んでりょうちゃんを連れて舞台に戻る。そしてりょうちゃんの腕を離して代わりにバストロンボーンを手に持ち構えて思いっきり想いを吹き込んだ。好き。大好き。私を…選んで……という感情をバストロンボーンに全力で込めて放たれた音は自分でもびっくりするくらいよく響き…空気だけで無く人の心をも揺さぶる気がした。
 私の本気の想い…伝わって……………そう願いながら最後の音を伸ばした。



 「すごい……」
 最後の音を聴いたりょうちゃんはつぶやいた。最後の音を吹き終わり…数秒の間を空けて……素晴らしく演奏にはまず、静寂が訪れる。そして…その後に称賛が与えられるものだ。届いた…かな……私が大好きなきみに……私の想いは……届いていて欲しいな……私の本気の想い…届いて……そして……きみの中に……残り続けて……私を……受け入れて……ごめんね。春香ちゃん、まゆちゃん、私、伝えちゃったよ……今朝…嘘ついてごめんなさい……大好きな2人を…裏切ってしまってごめんなさい……この想いが実らなかったら……私は……3人の前から消えます……もう……4人では……いられないよね……さようなら。ごめんなさい。


 わがままなのはわかってる……けど……この想い……届いて………そして………私を………選んで………私を………幸せに………して………







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